島根県松江市の老舗和菓子店・彩雲堂が生み出す夏季限定の羊羹「満天」が今年も2025年6月3日よりオンラインショップや直営店にて販売されている。「満天」は、澄んだ夜空に星がきらめく情景を職人の手仕事で丁寧に描いた、“食べる夜空”のような和菓子。
涼しげな見た目と繊細な味わいで、夏のひとときを優しく彩る和菓子とは一体どのような商品なのか。今回は、彩雲堂の担当者に「満天」のこだわりや販売のきっかけ、星空を和菓子で表現する際の工夫などについて、彩雲堂の担当者に話を聞いてみた。
――夏季限定羊羹「満天」の販売の狙いやターゲットを教えてください。
和菓子やお茶の世界では、古くから四季の移ろいを大切にしてまいりました。四季折々の美しさに富んだ日本だからこそ育まれた感性だと考えております。「満天」は、職人がふと見上げた島根の夜空の美しさに感動し、「この風景を和菓子で伝えたい」と思ったことがきっかけで生まれたお菓子です。
加えて、夏は「涼」を感じられる和菓子が好まれるため、冷やしておいしく召し上がっていただける点も意識しました。夜空を表現するために、模様や色合いには何度も修正を重ね、ようやく満足のいく美しい表現が完成しました。ここ数年、「映える」ビジュアルとしても話題を呼び、若い人や普段あまり和菓子を召し上がらない人にも、手に取っていただくきっかけになっています。
―― 「満天」のこだわりを教えてください。
北海道産小豆を使用したなめらかなこし餡の羊羹に、青く色づけた寒天の錦玉羹を重ね、金銀の星をあしらって天の川を表現したのが、現在の「満天」です。島根県・三瓶山の地層で長い年月をかけて濾過された天然水「さひめの泉」を使用しています。地下70メートルから汲み上げられるこの水は、まろやかな口当たりと清らかな味わいが特長で、豊富に含まれるシリカが美しさを引き立てます。厳選素材と水にこだわることで、すっきりとした甘さに仕上げることができました。
実は「満天」の味は、コーヒーとの相性もよく、和洋問わず幅広いシーンでお楽しみいただけます。お好みの飲み物との相性も探ってみると、より一層楽しんでいただけるかと思います。
――和菓子で夜空の星々の美しさを表現するというアイデアは、どのように生まれましたか?
ある晩、出張から戻った職人が何気なく夜空を見上げると、そこには、星々がひときわ大きく、澄んだ輝きを放っていました。ほんの数時間前までいた都会では決して見られなかった光景です。その美しさに心を打たれ、「この夜空を和菓子で表現したい」と、とっさに思ったことが、「満天」誕生のきっかけとなりました。
――「満天」の創作時に困難だった点などあれば教えてください。
当時、和菓子において青色は敬遠されがちで、特に夏の生菓子では、花や虹を表現するためのピンクや黄色が主流でした。それでも、どうしても夜空の群青色を表現したいという想いを捨てきれず、人工的な青色の使い方や色の配合にとことんこだわり、試行錯誤を重ねました。
あるとき、試作の羊羹を光にかざすと、光の加減によって見え方が変わることに気づきました。そこで、透明な錦玉を重ねることで空の色に奥行きを持たせられるのではと考え、羊羹と錦玉の厚みを調整しながら、透明錦玉・青錦玉・羊羹の三層構造を採用。さらに光の屈折も計算に入れ、2005年に初代「満天」が完成・販売開始しました。
ただ、当初は、銀河をイメージした白い模様にばらつきがあり、雲がかかったような仕上がりになることもありました。その後、鉄道会社様とのコラボをきっかけに「夜空の美しさを和菓子で表現する」という原点の想いを再確認し、営業部と製造部が連携。そこから20年の歳月をかけて、デザイン・味ともに進化を遂げ、現在の「満天」にいたります。
――販売当初の反響や、現在にいたるまでに進化した点などあれば教えてください。
和菓子業界では青色がタブー視されていた中での発売でしたが、お客様からは発売当初から高い評価をいただき、業界内でも話題となりました。今年は、弊社のお中元カタログの中心商品としても展開しております。
また、お客様の声を受け、1棹(かん)サイズでの販売に加えて、ミニサイズも販売しております。ほかにも、空の表現方法について改良を重ねてきました。具体的な技法の詳細は紹介しておりませんが、より立体感のある宇宙の美しさを再現できるようになりました。
――この記事で彩雲堂を初めて知る読者に伝えたい魅力を教えてください。
彩雲堂は、島根県松江市で創業150年を迎えた和菓子店です。松江は、お茶と和菓子の文化が深く根づいた町で、ぜひその魅力も多くの人に感じていただければと思います。文化というと敷居が高そうに感じられるかもしれませんが、松江では朝夕に抹茶を気軽に楽しむ習慣があり、スーパーでも抹茶に茶筅(ちゃせん)や懐紙、黒文字などが日常的に販売されています。本店では「現代の名工」である弊社の大江克之がその場で季節の生菓子を仕上げる「名工プレート」もご提供しています。
また代表銘菓の「若草」は、求肥に若草色の寒梅粉をまぶして仕上げた松江を代表する和菓子で、こちらは茶の湯大名としても知られた松平治郷公(不昧公/ふまいこう)の茶席菓子でした。不昧公の没後、途絶えていた製法を、弊社の初代が明治期に復活させて以来、100年以上変わらぬ製法で作り続けています。
近年では、江戸時代の配合に近い「よもぎ若草」も登場。日本海の潮風が吹く島根町で手摘みしたよもぎを衣に使い、中の求肥には仁多米(島根県産ブランド米)を使用するなど、素材へのこだわりを追求しました。ぜひ「若草」とあわせて、お楽しみいただければと思います。
――最後に読者に一言お願いします!
2025年9月より放送されるNHK連続テレビ小説では、松江が舞台となり、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻・小泉セツさんが主人公となる予定です。八雲は「雪女」や「耳なし芳一」などの怪談を通じて、日本文化と松江の風景の魅力を世界に伝えました。この機会にぜひ、松江にお越しいただき、風情ある町並みと、彩雲堂の和菓子とともに松江の魅力を五感で感じていただければ幸いです。
空に浮かぶ星をギュッと手のひらに詰め込めたら。夏の美しい星空を見たときにそう考えたことがある人はきっと多いだろう。手のひらではないが、和菓子で星々のきらめきを表現した夏の羊羹「満天」を片手に、星が瞬く夜空の美しさに思いを馳せてみてはいかが?
【商品詳細】
■商品名:夏季限定羊羹「満天」
■販売期間:
・直営店舗:2025年5月31日~8月中旬予定
・オンラインショップ 2025年6月3日〜8月中旬予定
■販売価格:1箱(通常サイズ)1728円、ミニ棹(ミニサイズ)972円
■販売場所:彩雲堂 各直営店舗、オンラインショップ、百貨店催事ほか
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文=平岡大和