全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
九州編の第119回は大分県大分市にある「SAFARI COFFEE ROASTER」。大分にスペシャルティコーヒーが広まり始めた2016年にオープンし、同じ大分県内に店を構える
スリーシダーズコーヒー
や
suzunari coffee
、
タウトナコーヒー
といった店とも緩やかに連携を取りながら、スペシャルティコーヒーの魅力を多くの人に伝えてきた。
オーナーロースターの秋吉真吾さんはもともと自動車関連の仕事をしていたが、さまざまな壁にぶつかり、挫折して退職。ただ、この挫折があったからこそ「SAFARI COFFEE ROASTER」というスペシャルティコーヒーの店が生まれ、常に前に歩み続ける秋吉さんの“今”がある。挫折することは悪くない、むしろ一度くらいはしたほうがいいかも。そう思わせるポジティブシンキングな「SAFARI COFFEE ROASTER」の魅力に迫る。
Profile|秋吉真吾(あきよし・しんご)
大分県宇佐市出身。20代前半から自動車関係の仕事に従事。コーヒー専門店に通うようになり、趣味でハンドロースターや小型焙煎機・煎っ太郎で焙煎を始める。前職を退職し、本当に自分が好きなことを仕事にしたいとロースターになることを決意。2016年6月、大分県大分市に「SAFARI COFFEE ROASTER」を開店。2023年7月、2号店となる中津店をオープン。
大分のコーヒーシーンを変えた一店
オーナーロースターの秋吉真吾さんは底抜けに明るい。もともと自動車関係の仕事に従事していたが、家族や友人に連れられコーヒー専門店に行くようになり、コーヒーのおもしろさに開眼。ハンドロースターを手に入れ、さらにフジローヤルの小型焙煎機・煎っ太郎を購入するまでコーヒーにどっぷりハマった。平日は整備士の仕事、休日は寝る間も惜しんで焙煎に没頭。そんな暮らしをするなか、自動車関係の仕事を退職し、次にしたいことを考えた秋吉さん。
「前職は人間関係など、いろいろ嫌なことから逃げた、いわゆる挫折だったんですよ。その辞め方って後味はあんまりよくなくて、『次の仕事は挫折しない道を選べたら』と考えていて。それでこれまでの人生で一番って言えるほど没頭していたコーヒーの世界に飛び込もうと決めたんです。あとこれは不純ですが、自家焙煎店で撤退している店ってそこまでないような気もして、よりコーヒーの上流のほうに身を置いたほうが安心かな?と考えたずるい一面もありまして」と、笑って開業当時を振り返る。
「SAFARI COFFEE ROASTER」を開いたのが2016年6月のこと。その少し前の2015年7月に臼杵市にsuzunari coffee、2016年3月に西大分にスリーシダーズコーヒーがオープンするなど、偶然にも大分におけるスペシャルティコーヒーの変革期に開業した同店。
「それも今考えれば幸運でしたね。タウトナさんなど、もともと大分市内でスペシャルティコーヒーを広めていたお店も含めて、スリーシダーズさん、スズナリさんと一般のお客さま向けのカッピングイベントを開いたり、他店と協力しながら、啓蒙を始めました。ただそういった取り組みを始めた当初、斜に構えていた僕はなにかしら言い訳をつけて、積極的に関わっていなかったんですよ。今思えばずるいし、本当にひねくれていますよね。ただそんな時にスリーシダーズの庄司さんたちが、うまいこと仲間に引き入れてくださって。直接はなかなか言うことはないのですが、本当に諸先輩方には感謝しています」
着実にロースタリーとしての実力もつけ、コーヒー好きに認知を広めていった「SAFARI COFFEE ROASTER」。大きな転機となったのは、思い切って焙煎機を変えたことだ。
焙煎機が見せてくれた未来
いかにも重厚そうで、店内でひときわ存在感を放つ焙煎機はPROBAT L12。1948年製造のオールドプロバットに分類されるマシンだ。
「ずっとほしいと考えていた焙煎機で、もともとは東京のフグレンさんにあったもの。ちょうどフグレンさんが焙煎機を買い替えるという情報を耳にし、すぐにコンタクトを取り、譲り受けることができました。人生でいつかは手にしたいと思っていた焙煎機なので、本当にうれしかったですね」
自分たちで運搬用にトラックを借り、大分から東京へ。さらに店舗での設置も知人・友人の力を借りながら行ったそうで、苦労をした分、愛着もひとしおだという。以前の焙煎機からオールドプロバットに変えてから、コーヒーの味わいはどう変化したのか聞いてみると、「クリーンカップが格段によくなった」と即答。
70年以上前の焙煎機なので、まず釜の材質が現在のものと違う。PROBAT L12の釜は鋳鉄製のため蓄熱性が非常によく、ガス圧が低くても輻射熱が強くなる。その輻射熱によって生豆の内部までしっかり火が入り、クリーンカップが向上するという。一方で焙煎機の特性もあってフレーバーもしっかりと立ち、自分たちが理想とするコーヒーに焙煎することができている。さらにこうも続ける。
「蓄熱性が高いおかげで、焙煎の再現性が格段に上がりました。以前の焙煎機だとその日の気温や湿度、風向き等の影響をめちゃくちゃ受けて、ちゃんと同じ焙煎をしたのに、仕上がりが微妙に違うということがよくあったんです。オールドプロバットは構造上そういった周辺環境に左右されづらいので、焙煎が安定します。それもお客さまに理想的なコーヒーをお届けするという意味では、大きなアドバンテージですね」