ラーメン情報誌「ラーメンWalker」が実施している「ラーメンWalkerグランプリ」にて、神奈川県新人賞部門1位(2012年)、同県総合部門2位(2016年)に輝いた「もりの中華そば」(横浜市港北区・閉店)。行列が途絶えない超人気店だったが、店主の体調不良により2017年7月に惜しまれつつも閉店し、“伝説”となった。それから半年、同じ場所にその系譜を受け継ぐ注目の新店が登場!
店主は「もりの中華そば」と同じ名店出身のスーパールーキー
その店こそ、2018年2月1日にオープンした「中華そば 笑歩(えふ)」。店主は「中華そば 多賀野」(東京・荏原中延)の出身で「もりの中華そば」の店主の弟弟子にあたる。
基本メニューはオーソドックスな「中華そば」(730円)と「つけそば」(800円)のみ。スープは修業先の味を踏襲。比内地鶏のガラを中心に、丸鶏やゲンコツの動物系をまずは強めに炊き上げ、さらにカツオ節や宗田節、煮干しなどを合わせ、鶏の旨味のあとに魚介の風味がじんわりと広がる一杯に仕上げている。
どこか懐かしく、決して派手さはないが、随所にこだわりが満載。提供直前に“追い煮干し”をすることで煮干しの風味をより立たせたり、濃度の異なる3種のスープを仕込み、中華そばとつけそばによってそのブレンドの割合を変えたり、とひと手間もふた手間も加えている。
そしてもう1つのウリが自家製麺。こちらも修業先仕込みで、全粒粉を配合していて小麦の風味が豊か。さらに打ってから一晩寝かすことで、強いコシも兼ね備えている。中華そばとつけそばによって、加水率を巧みに変えているのもポイント。ラーメンはパツパツと歯切れがよく、つけそばはやや加水率が高く、みずみずしくてなめらかな食感が楽しめる。
【ラーメンデータ】<麺>中細/角/ストレート <スープ>タレ:醤油 仕上油:鶏油・背脂 種類:鶏ガラ・魚介(煮干し系)
味に加え、店主夫婦の接客も気持ちよく、オープン直後から行列店に
店主の田中裕さんは、大手外食企業を経て、「中華そば 多賀野」に弟子入り。約3年間みっちりと修業を積み、独立のタイミングを探っていた時に、「もりの中華そば」の元店主・森 康大さんから「店を畳むので、もしよかったらこの場所で店を出さないか?」と打診され、同所を引き継ぐことになったそう。
「師匠と兄弟子が偉大すぎるので、プレッシャーもありました」と語るが、田中さんの実直な人柄が反映された一杯は、オープン直後から話題となり、瞬く間に行列店となった。
そんな田中さんの人柄を表すエピソードがある。実は当初2017年10月に開業する予定だったが、「多賀野」の女将・高野多賀子さんが体調を崩したため、それを先送りにして、約2か月間、代わりに厨房に立ち、修業先の危機を救ったのだ。そのことを尋ねた際、「いいえ、僕自身の準備が遅かっただけで、それは(オープンの延期と)関係ありません」と否定するところもまた、人のよさが伺えた。
名物夫婦の店としても知られる「多賀野」同様、田中さんも奥様と一緒に営む。「まさか私も店を手伝うことになるとは思わなかったです」と奥様は苦笑するが、2人の息の合ったコンビネーション、そして人柄のよさがにじみ出た接客も人気の一因になっている。
「お客様が笑顔で帰って行かれるよう、これからも精進していきます」。“笑”いながら“歩”んでいく。「笑歩」という店名に込められた思いを胸に、夫婦二人三脚で今後も店を切り盛りしていく。
取材・文=河合哲治郎、撮影=後藤利江