横浜・関内のラーメン集合施設「関内ラーメン横丁」にある「ナルトもメンマもないけれど。」。ラーメンWalkerグランプリ2018の神奈川新店部門で2位に輝くなど、独創的な塩ラーメンや味噌ラーメンで支持を集めていた人気店が、2019年10月1日に広島豚骨専門店にリニューアルを果たした。
お好み焼き用の生麺を使用したオリジナル広島豚骨
新たな看板メニューが「廣島らぁめん」(800円)。広島で古くから親しまれている醤油豚骨ラーメンをモチーフに、店主の道理大樹さんが独自にアレンジしたオリジナルだ。
本場は豚骨のみでスープを取るのが主流だが、鶏ガラも使用。約8時間かけてじっくり煮込んでいる。こうして出来上がったスープは茶濁色をした白湯(パイタン)。旨味はしっかり出ているが、豚骨特有のくさみやクセはまったくない。
スープに合わせるのがオリジナルの醤油ダレ。こちらも本場とは異なり、鹿児島の甘口醤油がベースになっている。甘口醤油の文化が根付いている九州の中でも、鹿児島のそれは特に甘く、豚骨スープをまろやかに包み込み、もう一口、二口と飲みたくなる味に仕上げた。
そして一番の特徴は麺。九州の豚骨ラーメンに似た、低加水の細ストレートだが、なんとお好み焼き用の生麺を採用している。広島の有名製麺所「磯野製麺」製で、「お好み焼き用の麺を使っているのは、本場でもほとんどないと思います」と道理さん。パツパツと歯切れがよく、食べ進めるとスープを吸ってモッチリに変化して二度おいしい。
【ラーメンデータ】<麺>細/角/ストレート <スープ>タレ:醤油 仕上油:鶏油 種類:豚骨・鶏ガラ
「いつか奥田民生さんに食べてほしい」。それこそがリニューアルの真相
道理さんは、ロックバンド・UNICORN(ユニコーン)と奥田民生さんの大ファン。そのことは客の間で広く知られていて、店名の「ナルトもメンマもないけれど。」は、UNICORNの「車も電話もないけれど」という曲のタイトルをオマージュしている。
そんな道理さんの夢は、奥田さんやUNICORNのメンバーに自分の作ったラーメンを食べてもらうこと。実はそれは今年半分実現した。道理さん自ら、レコード会社に売り込み、5月に横浜で行われたUNICORNのライブに、奥田さんが大好きなカレーを使ったラーメンをケータリングで届けたのだ。
「スタッフの方から、メンバーのみなさんが喜んで食べてくれたという話を聞いてうれしかったです。次は自分の目の前で食べてもらうことが目標になりました」。
その出来事の直後、奥田さんの故郷・広島へ旅行に出かけた道理さんは、ご当地ラーメンの広島豚骨を食べて大いに刺激を受けた。さらに奥田さんの行きつけである、「磯野製麺」直営のお好み焼き店「まるめん 本店」を訪れたところ、店主の磯野 学さんと意気投合。「僕が奥田さんの大ファンのラーメン店主であることを何かで見て、ご存知だったんです。それで広島豚骨を作ってみたいと話したら、『だったら、ウチ(磯野製麺)の麺を使ったら?』と言っていただきました」。
さっそく横浜に戻り、広島豚骨のメニュー開発に取り組み、オリジナルの一杯を完成させた。そして同時に重大な決心をする。それが新メニューとして出すのではなく、広島豚骨専門店にリニューアルすることだ。
「これまでのラーメンを封印するのは勇気が入りましたが、それ以上に、奥田さんに僕のラーメンを食べてほしいという思いが上回りました。広島豚骨の店は関東にあまりないので、食べに来てくれる可能性があるのではないかと期待しています」。
こうして2019年10月1日からリニューアル。以前のラーメンを支持していた客からの評判も上々だ。「今は広島豚骨一本ですが、いずれは広島辛つけ麺や広島式汁なし担々麺も出したいです」。いつか奥田さんが店を訪れてくれることを信じ、道理さんは今日も広島ラーメンを作り続ける。
取材・文=河合哲治郎/撮影=岩堀和彦
横浜ウォーカー編集部