コーヒーで旅する日本/関西編|メルボルンのカフェカルチャーを京都にも。「資珈琲」がコーヒーを介して広げる“日常の中のワクワク感”

関西ウォーカー

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

「お客さんそれぞれが、自分なりのコーヒーの楽しみ方を見つける場所になれれば」と河合さん


関西編の第44回は、京都市北区の「資(たすく)珈琲」。前回、登場したWIFE&HUSBANDから徒歩十数秒の場所に、2021年にオープンしたニューフェイスだ。店主の河合さんは、オーストラリア・メルボルンのカフェカルチャーに触れたことを機に、自店を開業。肩肘張らないラフな空間とオープンな雰囲気は、現地で経験したコーヒーの楽しみ方を体現している。まだ開店1年ながら、河合さんがメルボルンのカフェで感じた“日常の中のワクワク感”は、地元の人々にも広まりつつある。

店主の河合さん


Profile|河合資(かわい・たすく)
1985(昭和60)年、京都市生まれ、滋賀県育ち。デザイン専門学校を卒業後、デザイン事務所に勤務。デザイナーとして独立すると同時に、滋賀県産の野菜を使ったメニューを提供するカフェ「GREEN Kitchen」、野菜の無人販売「MUJIN Store」を運営。その後、旅で訪れたオーストラリアで現地のカフェカルチャーに魅せられ、メルボルンに移住。滞在中に体感したユニークなカフェのスタイルを取り入れ、2021年、京都市北区に「資珈琲」をオープン。

メルボルンのカフェカルチャーを京都にも

一見するとカフェとは思えないラフな空間が、この店の魅力の一つ

京都市内の目抜き通りの一つ、北大路通。賀茂川を渡る橋のたもとに、異彩を放つ屋台のような建物が現れたのは1年前。建材や配管がむき出しの細長い空間は、まだ工事中かと思いきや、さにあらず。よく見ると、店主の河合さんが、通りを行きかう顔見知りと挨拶をかわしてはコーヒーを淹れ、近所の子供たちが通れば手を振り、歩道と店内を出たり入ったりしている様子は、まるで市場の商店さながらだ。

店先から比叡山を一望するロケーションも、ここに店を構えた大きな理由


「店の真ん前に比叡山が見えるロケーションが気に入って。日が昇る時間帯はすごくきれいで辺りが輝いて見えます。早朝から店を開けてるのは、それが見たいがためで、自分にとって、毎日のグッドバイブスを保つ秘訣です」と河合さん。6年前から開業の構想を温め、ずっと目を付けていたこの場所が空くのを待つこと3年。あきらめかけた時に、テナント募集の知らせを聞いて即決した。知り合いの設計士やアーティストの協力を得て、ほぼセルフビルドで立ち上げた空間は、実はまだ完成途上。とはいえ、すべてが素通しのラフな雰囲気こそが、この店の魅力の源泉でもある。

フロアの形を生かして、抽出の様子がすべて外から見える文字通りのオープンキッチンに


往来とシームレスにつながり、道行く人が入れ代わり立ち代わりする、ユニークな店のスタイルは、河合さんがオーストラリアを旅した時に出会った、現地のカフェカルチャーに触れたことで生まれたもの。「カフェやコーヒーが、いわば街のハブになっていて、そこで現地の日常のリアルな楽しみを知ったのが開店へ至る原点。普段の生活の中で、毎日こんなにワクワクする体験があることに驚き、自分でもこれをやりたいと思ったんです」と振り返る。その体験の熱が冷めやらぬうちに、その後はワーキングホリデーを利用して、メルボルンに移住。オーストラリアのカフェ発祥の地ともいわれ、個性豊かなカフェがひしめくメルボルンで過ごした約3年間は、得難い経験となった。

「コーヒーの風味がよく分かるように」と、蓋つきで飲み口が広いテイクアウト用プラボトルを自らデザイン


「市街はもちろんですが、郊外の住宅地にも交差点ごとにカフェがあって、タトゥーを入れたちょっと強面のバリスタがいるような店でも、近所のおばちゃんが何気なくコーヒーを飲んでいたり、さりげなくマイマグを持ってきている常連がいたり、日常の中でのカフェの使い方が、とにかくかっこよく映りました。オーストラリアの中でもメルボルンは関西に近いノリがあって、特にローカルカフェは気さくで人情みがあって。すぐに声をかけられるし、店でもスタッフかお客さんか、分からなくなることもしょっちゅうでしたね」

時には河合さんもコーヒー片手に、お客との会話が絶えない

  1. 1
  2. 2

注目情報