コーヒーで旅する日本/関東編|危うさをはらみ、混迷を極めているから。「堀口珈琲」が目指すのは日本のスペシャルティコーヒーの基準

東京ウォーカー(全国版)

刺激にあふれていて、常に先端のモノ・コトが集まっている、日本一の大都市・東京。また、東京近郊の街にもそれぞれに個性があり、その分だけ衣食住を彩る店も多数。コーヒーショップも然りだ。
「暮らしやすい街にはいいコーヒー屋さんがある」
そのことを実感できるコーヒーのバトンリレーの旅へ。

2013年のリブランディングを機に、広くその名が知られるようになった

コーヒー好きなら一度は耳にしたことがあるであろう「堀口珈琲」。コーヒーは嗜好品ゆえに好き嫌いは分かれるものだが、はっきりと言えるのは同店がコーヒー業界で唯一無二な存在であるということ。

「最高の一杯は最高の素材から始まる」という考えに則ってコーヒーと向き合う

創業は1990年。喫茶店ブームが落ち着き、より多様性のあるカフェブームへと移行していた時期で、“自家焙煎”を謳った喫茶店も多かった。その中で喫茶ではなく、豆売りをメインに「珈琲工房ホリグチ」の名で開業。喫茶店との線引きを明確にするために“ビーンズショップ”と独自にカテゴライズしていたというエピソードも当時から“我が道を行く”同店らしい。

焙煎前後に色差選別機でチェックするが、最終的には人の手でソーティング

生豆の品質の良し悪しを重視してきた「堀口珈琲」はスペシャルティコーヒーを普及させた先駆けとして広く知られ、ロースター企業としてその自負もある。

2023年に催されたスペシャルティコーヒーのイベント・SCAJ2023に10年ぶりに出展し、2024年も続けて出展。2年連続でブースを設けたのは「スペシャルティコーヒーってなんだろう?」ということを改めて発信し、考えてもらう機会とするため。

スペシャルティコーヒーという言葉が市民権を得て10年以上が経った今。連載初回となる今回「堀口珈琲」を通して、コーヒーの未来を見ていきたい。

代表取締役社長の若林恭史さん

Profile|若林恭史(わかばやし・たかし)
埼玉県生まれ。1999年に堀口珈琲のコーヒーセミナーを受講したのを機に、2005年に堀口珈琲に入社。上原店の立上げを担当以降、焙煎・ブレンド作り・生豆バイヤーとして経験を積む。生豆調達部門、焙煎豆製造、流通部門の統括者を経て、2020年7月に代表取締役社長に就任。

ブレない芯を持ち続ける

足を運んだのは横浜市の臨港地区に2019年に新設された「横浜ロースタリー」。現社長の若林恭史さんが出迎えてくれた。

生豆の現地調達・輸送手段の手配も若林さんの大切な仕事

焙煎所にはフジローヤルの直火式20キロ釜が2基据えられ、日曜日を除き、ほぼ毎日焙煎を行っている。個人が始めたロースタリーでここまでの量を焙煎しているところは全国的に見てもほとんどない。つまりそれだけたくさんのファンがいるということだ。

定温倉庫から近いという理由もあって臨港地区に新設された横浜ロースタリー

まず特徴的なのは、焙煎度は浅煎りから深煎りまで幅広く、ブレンドが主力商品であること。もちろん商品としてシングルオリジンもあり、「シングルオリジンならではのおもしろさは当然ある」と若林さん。一方でこう続ける。

「シングルオリジンのみだと、おいしさ、表現といった価値づくりを、すべて産地に丸投げすることにならないだろうか、と考えました。せっかくロースターをやっているんだったら、焙煎はもちろんブレンドすることで、自分たちなりの価値を創出していくべき」

その考えから生まれたブレンドは3つのシリーズに分かれており、中でも定番なのがCLASSICシリーズ。浅煎りから深煎りまで、#1〜#9を準備し、いつでも同じ味わいを楽しめるというコンセプトを掲げている。

2013年にリブランディングする以前はもっと数が多かったそうで、ブレンドを飲めば「堀口珈琲」が考えるスペシャルティコーヒーらしさを随所に感じることができる。

【写真】シリンダからバーナーの距離を遠ざけるといったカスタムが施された2台の焙煎機。2025年秋頃にフジローヤルの新焙煎機も導入予定

焙煎は前述したようにレンジが広い。

「おいしいコーヒーを追求していくうえで、深煎りがよい、浅いが正解といった考えは一切持っていません。私たちはよく“取り出す焙煎”という表現をしますが、焙煎とはその生豆が秘めている味わい(香り・味・テクスチャー)を取り出す作業。生豆それぞれで“取り出す”のに適した焙煎度があり、そこにアジャストしているだけ。例えば、どの産地も品種も浅煎りのみで提案していくのは、ある意味で比較テイスティングしやすくておもしろさもあると思うのですが、裏を返せば原材料のテイスティングでしかない。ロースターの仕事は飲み手にただ原材料を比較させるのではなく、一杯のコーヒーのおいしさとしてどう伝えるかが本質」

粒が美しくそろった焙煎豆

それぞれの原料に適した、よい火の入れ加減を考え、適した味わいを“取り出す”。これがロースターの仕事という考えだ。

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