コーヒーで旅する日本/関東編|危うさをはらみ、混迷を極めているから。「堀口珈琲」が目指すのは日本のスペシャルティコーヒーの基準

東京ウォーカー(全国版)

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最高の素材を探求し続けた35年

「堀口珈琲」の現会長の堀口さんは1990年代後半、さまざまな商社・問屋から仕入れた生豆を焙煎し、独自に評価し、それをインターネット上で情報として発信するということを行っていた。そういった取り組みの中で、おいしい、おいしくないは原材料が大きく左右することを実感。当然、おいしいコーヒーを作るためには、品質の良い生豆を手に入れる必要がある。

スペシャルティコーヒーの前提条件はクリーンであると考えている

その考えから自ら産地へ足を運び、よい生豆を選ぶ方法にシフト。これが現在の「堀口珈琲」のおいしさの原点だ。これを20年以上前から続けており、しかも長期的に付き合うことを前提としている。

どういった製品に仕上げられる可能性があるか、という視点でカッピング

「テイスティングし、ポテンシャルの有無を見極めるのをはじめ、長くお付き合いできるかどうかも、生豆を買い付けるうえでの大切な判断材料です」と若林さん。

20年、15年、10年と付き合いがある生産者がほとんどで、それだけの付き合いがあるからこそ信頼関係も構築され、よりよい原材料が手に入るという構図もできあがるわけだ。一方でコーヒーチェリーはあくまでも農作物のため、天候などその年の状況で品質の良し悪しは必ず出てくるはず。

生豆の水分量をロットごとに計測し、記録。生豆の温度管理から徹底している

「私たちが考える品質の最低ラインを下回ったら、仕入れないというルールを設けています。ただ、おいしさは白か黒かで判断できるものではなく、グラデーションです。例えば昨年より品質がよくないというケースがあった場合、まず理由を尋ねます。もしくは生産者さんが例年よりよくない理由を事前に伝えてくることもある。彼らの怠慢ではなく、不可抗力で品質低下が起こる場合は当然あって、そんな時は理由を理解したうえで、味わいをジャッジします。なかにはその状況下でクオリティを維持したのは素晴らしい努力と判断できる場合もある。密に長い関係性があるからこそ、彼らの努力に対して、生豆を買うことで評価したいんです」
シンプルで当たり前のことだが、信頼関係とはこうやって生み出される。

日本のコーヒーの指標になる

さらに品質のよい生豆を買い付けるためには、バイイングパワーが重要になってくる。個人経営の街の小さなロースタリー1店舗では消費できる量に限りがあり、買い付けに必要な最小ロットに届かない。そこで初期の段階でスペシャルティコーヒーを日本に持ち込んだマイクロロースターたちは買い付けグループを作り、共同買い付けを行うのが一般的だった。

横浜ロースタリーは生豆の温度管理や清潔度に応じたゾーニングを徹底

「堀口珈琲」でも2000年代初頭にリーディングコーヒーファミリー(LCF)というグループを立ち上げ。当初は仲間を募るだけでなく、開業支援を行い加入者を増やしていた。現在LCFに加盟している店舗は全国に120余り。

買い付けた生豆は当然「堀口珈琲」とLCFメンバーに分配されるためのものだが、「構想段階ですが、メンバー以外にも広く生豆を提供できる仕組みが作れたら」と、若林さんは将来のビジョンを語る。その言葉の裏側に「スペシャルティコーヒーってなんだろう?」を投げかける同店の思いが垣間見えた。

色づきの悪い豆や焦げている焙煎豆を選別機で排除

若林さんは「おこがましいかもしれませんが」と前置いたうえで、こう話す。

「気候変動などの影響を受け、コーヒーは高価なものになっていくでしょうし、現在のような高品質な生豆が手に入りづらくなる可能性は大いに考えられる。そういった中で、スペシャルティコーヒーと謳って商売する以上、しっかり最低限の品質は担保していくのは私たちの義務ではないでしょうか。そう考えた時に多くの業界人にとって、コーヒーのベンチマークになれるようなロースターでいたいと考えています。『堀口珈琲』の味わいが好きか嫌いかは一旦置いておいて、当店のコーヒーを飲んでみて、生豆を使ってみて『堀口珈琲はちゃんとしている。このレベルを目指したい』と思われるような存在でいたい。その積み重ねはきっと日本のコーヒーのベースの底上げになると考えています」

1階中央部がガラス張りになっており、要予約で見学会も実施している

日本のコーヒーの指標(ベンチマーク)となる。これは言葉を選ばずに言うと、日本におけるスペシャルティコーヒーの基準になるという宣言だ。

コーヒーは多様でいい、これは豆の個性だ、風味特性だ、多様性こそがスペシャルティの魅力なんだから、いろいろなコーヒーがあっていい。今まで、そんな言葉ですべてを片付けていたかもしれない。

でも「堀口珈琲」の考えは「それではいけない」だ。ちゃんと品質は維持しよう、スペシャルティコーヒーと謳うなら、最低限のクオリティは意識しよう。

これは「その指標になれるよう、これからも品質管理をますます徹底していく」という「堀口珈琲」の意思表明。

公式サイトの横浜ロースタリーページで品質管理、焙煎のこだわりをわかりやすく紹介

「堀口珈琲」は、「もしかしたらネガティブな風味さえも特徴、個性と一緒くたにしていませんか?」と問うている。

それは「スペシャルティコーヒーという言葉を便利に使っていませんか?」という意味にも聞こえた。

次回は創業店でもある「堀口珈琲 世田谷店」を紹介。コーヒーはもちろん自家製ケーキ、季節替りのパフェなどスイーツも充実する喫茶スタイルの店舗で、もちろん豆売りも。「堀口珈琲」の魅力に触れる入口に最適だ。

【堀口珈琲(横浜ロースタリー)のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式20キロ 2基
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り

取材・文/諫山力(knot)
撮影/大野博之(FAKE.)

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