新潟県の最北に位置し、県内でも最大の自治体「村上市」。旧村上藩の名残りを感じるシックな城下町で、日本百景のひとつ「笹川流れ」や、夕陽が日本海に溶けていくような海岸の絶景が有名だ。そして、北海へ遠い旅に出たたくさんの鮭が秋になると帰ってくる場所でもある。
GPSもナビもないのに、どうして鮭は必ず生まれた川に帰るのか?
つくづく「鮭」は不思議な魚だと思う。川で生まれ稚魚になったあと、アラスカ湾やベーリング海峡を目指して遠い遠い旅をし、約4年後、再び生まれた川に戻ってくる。帰路の途中、トドやアザラシに襲われるなどの幾多の困難を乗り越え、生まれた川でつがいになったオスとメスは次世代を産む。その後彼らは力尽きて一生を終える。かくもドラマチックで神秘的な一生を送る鮭。そんな謎の多い鮭を詳しく紹介している場所がある。国内初の鮭博物館「イヨボヤ会館」だ。ちなみに「イヨボヤ」とは村上の方言で「鮭」のことを指す。
イヨボヤ会館では、かつての漁法をはじめ、村上の鮭のすべてがわかりやすく展示されている。例えば「卵が孵化する様子」「今も残る昔ながらの鮭漁の様子」「江戸時代から行われた三面川での鮭の人口増殖」「村上ならではの塩引鮭の作り方体験」「鮭の仲間や特徴」などなど。知っているようで知らない、鮭のすべてを知ることができるのだ。
生まれた川に鮭が帰って来る理由については?「“母川回帰の習性”といわれるものですが、完全には解明されていないんです。自分が生まれた川の匂いを覚えているとか、太陽の位置を覚えて体内のコンパスを使って帰ってくるなど、諸説があります」とは館長の奥村さん。
すごい、すごすぎるよ、鮭くん!!! そんな感動も待っている「イヨボヤ会館」へは、村上市観光の最初に訪れるのがおすすめだ。
じーっくり低温発酵することでできあがる、千年の伝統の「塩引鮭」
お勉強をするとお腹が減る…。「イヨボヤ会館」で鮭のあれこれを見るうちに、うまい鮭が食べたいという欲求にかられ、村上名物「塩引鮭」を探すことに。「塩引鮭」が単なる塩鮭と違う点は、オスの鮭の内臓をすべて取り除いたあと、粗塩を全体にまぶし、約3週間~1か月ほど北西からの冷風にさらすこと。その間、じーーっくり低温発酵するので、独自の旨みが凝縮される。なんと1000年も続く昔ながらの伝統製法で、保存料や化学調味料は一切使わない。村上の風土が育んだ一番人気の鮭料理だ。その「塩引鮭」が1000匹以上も吊るされている様子が見られるのが、村上市中心部にある「千年鮭 きっかわ」だ。
1626年に米問屋として創業以来、造り酒屋を経て、第二次世界大戦後から鮭料理を販売する店として生まれ変わった。歴史を感じる建物のなか、昔ながらの座売り(売り子もお客も畳に上がる空間での販売)で、「塩引鮭」のほか、鮭の粕漬け、味噌漬け、酒びたしなどの商品が買える。旅のおみやげにしても喜ばれること間違いなし。嗚呼、ここにいると、とにかくお酒が飲みたくなる。お酒好きにはたまらない空間だ。
ひと口食べて…、無言…。声も出ない旨さに、もはや普通の塩鮭は食べられないかも(涙)
いよいよ村上の伝統の味「塩引鮭」を食す番がきた!「千年鮭 きっかわ」から歩いてスグ、2017年に「きっかわ」の食事処としてオープンした「千年鮭 井筒屋(いづつや)」へ。村上市初の鮭料理専門店で、塩引鮭をメインとした、バラエティ豊かな鮭料理が食べられる。早速鮭料理10品をオーダー。
七輪で自分で塩引鮭を焼き、網の隅で鮭の皮を焼く。くるくるカールした皮は、ほのかな甘みが…。
続いて、村上市の隣、関川村のコシヒカリが土鍋で炊かれて運ばれてくる。まずはしっかり焼いた塩引鮭をつやつやの炊き立てご飯にのせてひと口。
「‥‥‥‥」。無言…。
人はあまりにもおいしいものを食べると言葉も出なくなる。一粒一粒歯ごたえのあるお米で、噛めば噛むほどほんのり甘みさえ感じられる。次は好きなおかずをご飯にのせて食べるが、ご飯の減りが異様に早い!ラストは、土鍋のおこげをこそげ落として茶碗に盛り、お約束のお茶漬けで塩引鮭をいただく。
塩引鮭がかなり胃袋に入ったあとにもかかわらず、新鮮な味わい!まだまだ食べられてしまうから不思議だ。
まさに鮭と一心同体で歩んできたともいえる新潟県村上市への旅。おいしいものに巡り合えたのは最高だが、もしかすると、もう、普通のスーパーで買った鮭の切り身は食べられないかも…。果たしていいのか、悪いのか(笑)。いやいや、鮭の街で味わった至福のひととき。ぜひ体験の価値ありだ。【ウォーカープラス編集部】
取材・文=東野りか、水島彩恵