日本人の睡眠時間は、世界でも短いと言われている。では、十分な睡眠時間とはどれくらいなのだろうか。年齢や個人差はあるものの、小学生では9時間以上、18歳以上の大人は7時間以上が正常値だそう。正常値より短い時間しか寝ていない人は、睡眠不足かもしれない。
医療法人上島医院の院長で、睡眠専門医かつ精神科医でもある渥美正彦(@hiko_ch119)さんは、TwitterとYouTubeで睡眠やメンタルに関する情報を発信している。今回は渥美さんに、睡眠不足がどんな影響を起こすのか、また睡眠を改善することでどんな変化が期待できるのか聞いてみた。
日本人の睡眠時間は先進国でワースト1位!自覚症状のない睡眠不足も
――日本人は睡眠時間が少ないと言われていますが、他の国と比べてどの程度なのでしょうか。また、その理由はどんなことが考えられますか?
「日本人の睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国のなかでは最も短いです。前回の調査では韓国に続いて世界ワースト2位でしたが、現在は最下位になりました。正確な理由は不明ですが、睡眠に関する知識不足と、文化的背景(儒教思想)が大きいのではないかと推測しています」
――確かに睡眠は私たちに欠かせないものですが、その重要性については深く考えたことがありませんでした。そもそも睡眠とはなぜ必要なのでしょうか?
「睡眠が必要な理由は、はっきりとは分かっていません。しかし、一般的に動物は極端に断眠させると、死亡してしまいます。そのため、生命維持の機能である可能性は高いでしょう。また、活性酸素の除去に必要なのではないかという論文も出ています」
――渥美さんはYouTubeで「6時間睡眠を14日間続けると、それは2日間徹夜したのと同じ状態」だと解説されています。徹夜と違い、自分でも気付かないうちに慢性的な睡眠不足に陥っているかもしれないことに、とても驚きました。もしそれが続くと、体にはどんな影響がありますか?
「まず、認知機能・注意力が低下し、事故のリスクが上昇します。スペースシャトル・チャレンジャー号の打ち上げ失敗、スリーマイル島原発のメルトダウン、大型タンカー・エクソンバルディーズ号の原油流出などの重大事故は、睡眠不足による人為的ミスが原因だとされる説も。また、健康面でも、免疫力の低下や体重の増加など、さまざまな影響が出てきます。例えば4時間睡眠になると、ウイルス感染、肥満率は1.7倍に増加します」
――渥美さんは睡眠専門医であると同時に、精神科医もされています。睡眠不足は精神に、どのような影響を及ぼすのでしょうか?
「短い睡眠時間は、うつ病や不安障害の予測因子となります。一方であまり知られてはいませんが、すでにうつ病の場合は、睡眠制限にうつ病への改善効果があることも分かっています。ただ、睡眠不足によって改善したうつ病は再発率も高く、一概に良い治療と言えるかどうかは何とも言えません。まずは、うつ病や不安障害のリスクを高めないためにも、十分な睡眠が重要です」