「名古屋のお土産といえば?」と聞かれて、必ずと言っていいほど候補に挙がる“ういろう”。プレーンである「白」をはじめ、「こしあん」「抹茶」などさまざまな味があり、数種類の味が入った詰め合わせは名古屋駅のキヨスクの定番人気商品だ。また、価格が手頃でコンパクトなサイズ感なのも、お土産として人気の理由だろう。
そんな“ういろう”だが、あまり馴染みのない人は「羊羹に見た目が似ているもの」と考えていることも少なくない。では実際、“ういろう”と羊羹は何が違い、“ういろう”はどのように作られているのだろうか?そこで今回、「名古屋ういろの元祖」である「餅文総本店」(愛知県名古屋市)の熱田工場に潜入取材!副社長の石塚慎吾さんに、“ういろう”の作り方や歴史について教えてもらった。
360年以上の歴史を持つ、餅文総本店
餅文総本店は、1659年に創業した老舗の和菓子店。日本における“ういろう”は博多や京都が発祥と言われているのだが、名古屋で“ういろう”を作ったのは餅文総本店が初めてだ(なお餅文総本店では、“ういろう”のことを“ういろ”と呼ぶ)。当時、尾張藩の御用商人だった餅屋文蔵が、藩主・徳川光友の知恵袋と言われていた明出身の陳元贇(ちん・げんぴん)から、“ういろう”の製法を教わったのが始まり。その後、餅屋文蔵は藩主に“ういろう”を献上することになり、現在の名古屋市中区錦3丁目に餅文総本店を創業した。この店は1965年頃になくなってしまったが、大正時代から掲げていた看板は、本店(名古屋市南区)に現在も飾られている。
ちなみに、餅文総本店が“ういろ”を献上していた尾張藩主・徳川光友は、水戸黄門として有名な水戸藩主・徳川光圀の従兄弟にあたる。親戚ということもあり、なんと水戸黄門も餅文総本店の“ういろ”を食べていたのだとか!きっと、水戸黄門も私たちと同じように、“ういろ”に舌鼓を打っていたのだろう。
勝負はたったの15秒!わずかな時間が味を左右する
そんな歴史ある餅文総本店の“ういろ”は、どのように作られているのか。今回は看板商品である「献上ういろ」の定番の味「白」が作られる様子を取材した。
7月の早朝、うっすらと空が明るくなってきた時間帯から“ういろ”作りは始まる。職人が最初に取り掛かるのが、もっとも重要な生地作りだ。
まず、大きな樽に熱湯を入れ、そこに砂糖を入れて温度を下げる。適温になったら米粉とでんぷんを入れて、温度が下がらないうちに素早く混ぜる。混ぜている時間は15秒ほどなのだが、このわずかな時間が“ういろ”のおいしさを左右するのだという。
米粉とでんぷんを入れるタイミングの温度は、その日の気温や湿度によって微妙に変わる。わずか1度のズレが仕上がりを左右するため、職人は慎重に砂糖を入れて温度を確認する。温度が低すぎると米粉が分離し、逆に高すぎると硬くなってしまい、“ういろ”独特の歯応えがなくなってしまうのだそう。また、かき混ぜ方が雑だと味にムラができるため、手早くしっかりと混ぜるのが鉄則。わずか15秒間に、職人の技術が詰め込まれているのだ。
こうして出来上がった生地は、一度ザルで濾したあと、平らな型に流し込み、せいろに入れて蒸し器で90分ほど蒸す。蒸し上がった生地を1時間ほど冷まし、包丁とピアノ線を使って「献上ういろ」のハーフサイズにカットしていく。1つの型からはハーフサイズの「献上ういろ」が14本できる。
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