現役の僧侶が描いた漫画が深い。呪術は習わずとも人々の悲しみに寄り添う

関西ウォーカー

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現役の僧侶(浄土真宗本願寺派)である近藤丸さん(@rinri_y)が描く漫画が、「興味深い」「ためになる」と話題だ。 以前にウォーカープラスで紹介 した際も、たくさんの反響があった。

今回は近藤丸さん自身の体験を描いた漫画と、仏教の教えをわかりやすく伝える人気シリーズ「ヤンキーと住職」の中から、特に印象的な3作品について話を聞いてみた。

子どもからまさかの質問!仏教の学校で“呪術”は習うの?

最近特に話題を集めたのが、大流行中の漫画「呪術廻戦」に影響された男の子とのやりとりを描いた「お参りとマンガ」。

お参りとマンガ1

お参りとマンガ2

お参りとマンガ3


「子どもたちは漫画の中で、初めて仏教や宗教の概念に触れることが多いようです。この漫画のお気に入りポイントは、最後の男の子の冷めた表情ですね」と近藤丸さん。読者からの反響も大きく、さまざまな感想が届いたそう。

「私より少し年上の世代の方からは、『孔雀王という漫画が流行っていた頃、この子と同じようなことを考えていた』とのコメントが寄せられました。また、『仏教学校はお寺の子が行くものだと思っていた』という感想もあり、自分にとっては身近な私立の仏教学校も、世間ではあまり馴染みがないのかな?と感じました」

お参りとマンガ4

お参りとマンガ5

お参りとマンガ6

お参りとマンガ7

お参りとマンガ8

お参りとマンガ9


他者の苦悩に寄り添いたい。お盆の時期に感じた命の儚さ

「お坊さんがお盆参りで見た光景」という作品も、自身の経験を描いたもの。お盆の時期には1日で30件近くの家を回るという近藤丸さん。そこで気付いたのは、思った以上に多くの家庭が若い家族を喪うという経験をしていることだった。

お坊さんがお盆参りで見た光景1

お坊さんがお盆参りで見た光景2

お坊さんがお盆参りで見た光景3

お坊さんがお盆参りで見た光景4

お坊さんがお盆参りで見た光景5


「お盆でたくさんの家を周ると、それぞれの人が抱えている喜びや苦悩、生きることの難しさが、ほんの少しだけ垣間見えるように思います。僭越だと思うので『わかる』とはとても言えませんが、一緒にお経を読むことを通して檀家さんも僧侶も、お互い感じるものがあるように思うのです。今、都市部を中心にお盆参りを行う家も少しずつ減っています。その中で、失われてしまう何か大事なものもあるのではないかと、考えてみたかったのです」

お坊さんがお盆参りで見た光景6


お参りに訪れたある夫婦の姿を通じて、命の儚さについて考えさせられる漫画を描こうと思ったきっかけとは、何だったのだろう。

「僧侶として命は儚いと聞いているものの、お参りに行くと改めて『人はいつ亡くなるか分からない』と実感させられます。それと同時に外からはわからない苦しみや悲しみを、どの家庭も抱えていることに気付くのです。直接言葉としては発せられませんが、お子さんの死と共に歩んでこられた親御さんの一年一年を思うと、重みのようなものを感じます。私がこうしてお参りできることも、当たり前ではないなと。この気持ちを自分自身が忘れないよう、描こうと思いました。また、以前より命の儚さや大切さが伝わるような漫画に挑戦したい気持ちもありました」

お坊さんがお盆参りで見た光景7

お坊さんがお盆参りで見た光景8


読者からは特に、「この夫婦の苦しみを少しでもわかったと思ってはいけない」というコマに共感したという声が多かったそう。この言葉について、より詳しく教えてもらった。

お坊さんがお盆参りで見た光景18


「尊敬する僧侶から、『お坊さんは悲しみの中にいる人に良いことを話そうとしてしまいがちだが、それはすごく傲慢だ』と言われたことがあります。浄土真宗では『本当の意味で人間を救えるのは仏様だけ』だといいますが、人間の力で悲しみを癒せると思っているからこそ、いい話や感動する話をしようとするのです。相手の悲しみを理解して何とかしたいと思うことは大切ですが、人生というのは単純に幸不幸で分けられるものではありません。仏は人間の人生を価値判断せずそのまま厳粛なものとして受け止める存在で、我々にできるのは仏の教えを共に聞いていくことなのです。なので他者の悲しみをわかったつもりになるのではなく、『精一杯寄り添う』ことを大事にしたいと思っています」

特攻服の「諸行無常」に込められたヤンキーの思い

最後に紹介するのは人気シリーズの「ヤンキーと住職」から、「諸行無常」。物語は仏教にやたら詳しく人生経験も豊富なヤンキーと住職の会話で構成されていて、今回は特攻服の刺繍「諸行無常」の意味をきちんと知っているか住職が尋ねたところ、ヤンキーの過去が明らかになる。

諸行無常3

諸行無常4

諸行無常5

諸行無常6


「ヤンキーが仏教に興味を持った発端は、友人の死でした。仏教は2500年前に生まれた教えです。そしてお釈迦様の教えが書かれたお経(経典)は悲しみの場で読まれており、人間の命の事実や、人間の苦悩をずっと見つめてきた教えだと考えています。ヤンキーの苦しみも、仏教の中で受け止められていたのです」

一緒にバイクで走っていた友人を突然亡くし、「人生とは本当に一瞬で何があるかわからない」と感じたヤンキー。実は近藤丸さん自身にも同様の経験があり、その時の気持ちが今にも繋がっているという。

諸行無常8

諸行無常9


「中高生の頃に、この話のヤンキーと少し似た経験があります。受け止めきることができず、悲しみのやり場がなくて非常にうろたえました。その時に葬式で出会った住職(僧侶)は、何か少し違う視点で死を見つめているように感じました。『何歳で亡くなった人も一生懸命生きたのです。命は厳粛です。命は私たちの思いを超えたものです』。このようなことを言われお経を聞き、身近な人の死を深く悲しむことができたように感じました」

仏教を通じて学んだことを漫画にしたい

近藤丸さんは現在、2022年に発売予定の「ヤンキーと住職」新刊に向けて執筆中。しかしわかりやすい漫画には、気を付けるべき点も多いそう。

「特に私が危惧しているのは、わかりやすさの中にある落とし穴。浄土真宗では『知的に理解することでわかったつもりになることが一番危ない』とも言われ、開祖である親鸞聖人も、『感動で救われたり、わかって救われるのではない』との主旨を書かれています。仏教の言葉は非常に感動するんですね。だから気をつけないと、共感や感動のために仏教を使ってしまうのです。自分もそういう危険なことをしていないか、常に注意しなければと考えています」

仏教を多くの人に伝える方法として漫画はまだメジャーとは言えないからこそ、注意していきたいと近藤丸さん。今後も仏教への敬意を込めた作品を描き続けたいと語ってくれた。

「仏教を『ネタ』にするのではなく、自分が仏教を通して学んだことや大切な部分を見極めて、リスペクトを込めて描きたいです。いつかできたらと思っているのは、『ジャータカ物語』を漫画にすること。ジャータカとはお釈迦様の生き方や、お釈迦様の前世物語を集めたもののことです。インドに広く伝わっていて、寓話的な要素もあるんですよ」

諸行無常12

諸行無常13


普段の生活の中でなかなか意識することのない命や人生について、考えるきっかけとなる近藤丸さんの漫画。苦悩多き現代人にそっと寄り添う作品を、今後も楽しみにしたい。

取材・文=石川知京(関西ウォーカー編集部)

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