【漫画】同居人はふすまからのぞく「手」。奇妙な日常を描いた短編ホラーが物悲しくもゾッとする
新居が決まり、不動産会社から手渡された一枚の古びた紙。そこには「出ている間は開けない」「食事は1日2回」「直接触れない」という不可解な入居ルールが書かれていた――。引っ越しした女性と新居の奇妙な同居人との生活を描いた短編ホラー漫画が、「続きが気になる」とTwitter上で反響を呼んでいる。

「ふすまから伸びる手」との不思議な日常と思いきや…二転三転する展開にひきこまれる

紹介するのは、芽茶はらぺこさん(
@harapeko_mettya
)がTwitterに投稿した短編漫画「手々」。1DKで家賃1万円という破格の物件に引っ越した女性だが、新居の床に寝っ転がると、ふすまから腕が伸び出ていることに気付く。女性は驚愕するのもつかの間、「ルールって同居人の事かぁっ!!」と、契約手続きの際に渡された紙に書かれていたのが、この不可思議な“手”の存在であることを悟る。

順応が早かった女性は「出ている間は開けない」というルールのため、“手”に引っ越しの荷解きを手伝ってもらうことに。そのお礼と2つ目のルール「食事は1日2回」を守るのを兼ね、オムライスを作った女性に、“手”は感動した様子。女性の方もかいがいしく世話を焼いてくれる“手”を「良い同居人」と受け入れていく。
だがある日、女性のもとに来客がある。「まぁ~たお姉ちゃん勝手に引っ越ししたでしょ~」と笑みを浮かべるのは彼女の妹。実は今回の引っ越しも、たびたび金の無心に来る妹から離れるのが理由だったのだ。

ドアチェーンをねぶり、「お姉ちゃんも私を捨てるの?」と漏らす妹に圧倒された彼女は、結局その場はお金を渡してしまう。その後、心配した様子の“手”に、自分と妹の生い立ちと関係を語り、「また引っ越ししないと」「妹を…私がいなくても生きて行けるように…」と漏らす。
それからしばらくは、“手”に箸の使い方を手ほどきしたり、「直接触れない」ようにしながらマニキュアを塗ってみたりと、穏やかな日々を過ごした“二人”。「ずっとアンタってのもねぇ」と、“手”の名前を考え出した矢先、再び妹が訪れ、その時間は終わりを迎えることとなる。妹は借金が焦げついたとすがりつき、その取り立てにきた男には殴り飛ばされ、「私の人生全部妹に潰されたなぁ」と思った姉。その時、ふすまから伸びる手を見て、彼女はとある選択をする――、という物語だ。
「人の手を見る癖」から生まれたホラー

不思議な同居生活と、人の生々しさのギャップ、女性と“手”、そして妹の最後の行動と、短編の中で二転三転する展開が繰り広げられる同作。Twitterでは4000件以上のいいねが寄せられ、ユーザーからは「面白すぎる」「続きが気になりまくる」「絵もストーリーもめっちゃ好きです」と反響が集まっている。
プロの漫画家を目指し、「ジャンプルーキー!」での投稿や賞への応募などの活動を続ける作者の芽茶はらぺこさん。今回は本作制作の裏話や、漫画にかける思いをインタビューした。
――本作を描いたきっかけを教えてください。
「新しいジャンルとしてホラー漫画を描いてみたいなと思っていたタイミングと、伊藤潤二先生が審査員としていらっしゃったホラー漫画の賞(※朝日ホラーコミック大賞)のタイミングが重なって、描き始めたのがきっかけです」
――今回はホラーのような作風に挑戦されたんですね。
「その通りです。自分で考える内容はあまり人に好まれるような展開ではないことが多いので、ホラーとして作品にしたらドンピシャではないかと考えた次第です」
――「手々」本編の着想はどんなところからはじまったのですか?
「私は人の手を見る癖がありまして、その手つきや印象で不快な気持ちや心地良い気持ちなどの表現もあるのだなぁと思ったのが着想の大きな部分だと思います」
――作中の展開や空気の移り変わりには心がしめつけられました。作中の構成や雰囲気はどんなところを意識されたのですか?
「主人公の笑うタイミングが欲しかったので、今回の形になったと思います。同居人がいる時は楽しく、妹がいる時は思い詰め、そうやって交互にやってくるから人は悩みを持ちながらも生きながらえているんだろうなとぼんやり頭に思い浮かべました」
結末はどう映る?読者に委ねる解釈

――キャラクターの多面性も伝わるものがありました。人物造形でのこだわりはありましたか?
「こだわりは”読んだ人がどう思うか”だと思います。誰が一番何にどのくらい執着していて、誰がそうしてしまったのかなど、見た人によって見解が変わるようになればいいなと思いました」
――読み方も一通りではないということですね。
「妹が悪いと思ったら妹の、姉が悪いと思ったら姉の、それぞれの立場になって考え直してみてほしいです。強制とかではなく、シンプルにどちらの立場にも立ってみて、どう見えたのかを感じてほしいです。その結果、悪いと思うか思い直すかが、読み手の方の本当の性質なんだろうな、という感じで見ると面白いかもしれません」
――では、本作を描いてご自身ではどんなところが気に入っていますか?
「気に入っているところは、良い意味でも悪い意味でも悩みが何も解決していないところです。多分、読者の方は根本の解決や良い傾向に向かう展開を望まれると思うのですが、現実の本当の悩みって早々全部解決しないと思っております。そんな嫌な悩みを抱えた現実に、ファンタジーが突如現れ、ただめちゃくちゃに体を奪い去ってしまうみたいな暴挙というのも解決の1つなのかもしれないな?という考えでしたので、やっと描けたのが嬉しくてお気に入りです」
対になる登場人物の、一言では言い表せない関係性を描く

――芽茶さんはプロを目指されているとうかがいました。
「描き始めたのは高校生の頃です。絵を描くのが好きだったんですが、ストーリーを考える方がより一層楽しいことに気付きまして、絵とストーリーと言ったら漫画があるじゃない!と今に至ります」
――自身の作風で好きなポイントや、テーマにしていることはありますか?
「私の作風は登場人物同士がペアで登場する点だと思っております。相手をどう思ってるのかや、どう接しているのかなどを見るのが好きです。“恋愛”じゃなく、それよりも深い感情で、何故か一緒にいると安心するみたいな関係を考えることが多いです」
――今作はTwitterで反響を集めています。ご自身ではどう受け止めていますか?
「本当に驚いております。賞への投稿作品でしたのでTwitterよりももっと前にpixivに投稿していましたが、その時からたくさんコメントなども頂いて、とても嬉しかったです。ありがとうございます」
――今後の目標について教えてください。
「目標は漫画家と名乗れる程の力をつけることです。より一層作品に磨きをかけ、読む方が何度も読み返したくなるような作品を描けるようになりたいと思います」
恐ろしくもあり、切なくもあり、またあたたかな、「続きが読みたい」と思わせる多面性に満ちた作品。それぞれの結末や、姉が“手”になんと名付けたかは、ぜひ漫画を読んで確かめてみてほしい。
取材協力:芽茶はらぺこ(@harapeko_mettya)