『時をかける少女』細田守監督が『この夏の星を見る』を大絶賛!アニメと実写の垣根を超えた特別対談

映画「この夏の星を見る」

今夏、静かな盛り上がりを見せる青春映画『この夏の星を見る』。商業長編デビュー作ながら、山元環監督が描き出した“実写で星空を観る”という新たな映画体験が話題を呼んでいる。

そんな本作に共鳴したのが、2025年11月に新作『果てしなきスカーレット』の公開を控える細田守監督だ。19年前に劇場版アニメ『時をかける少女』で高校生の青春を描き、このほど自らノベライズした小説「時をかける少女 A Novel based on the Animated Film」を出版。フィルモグラフィー初期に青春ものを刻んだ二人の監督が、アニメと実写の垣根を超えて映画の可能性を語り合った。

【写真】山元環監督(写真左)と細田守監督(写真右)


「星空は一番こだわったところ」――実写で星空を描くかつてない試み


――細田監督は映画館で『この夏の星を見る』をご覧になったそうですね。

【細田守】僕が初めて監督を務めた『劇場版デジモンアドベンチャー』(1999年)から付き合いのある東映アニメーションのCGプロデューサーが、ぜひ観てくださいとムビチケを送ってくれたんです。同じ時期に別の知り合いからも、この映画がとてもよかったという話を聞いていて、観に行ってみたら非常によかった。そこから今日のこの場につながったわけです。

【山元環】ありがとうございます!まさか細田監督が観てくださるとは思っていなかったので、本当にうれしかったです。

【細田守】僕は東映アニメーションの出身なんですけど、『この夏の星を見る』(以下、『この星』)は、いわゆる東映の映画っていう感じが全然しないよね。かつてのある種の東映の映画には、激しくて熱っぽい、今の時代で言えば、コンプライアンスに抵触しかねないぐらいの、それこそがエンタメであるとするような傾向が強くあったと思うんです。東映時代の僕はそこにけっこう反発があったんだけど、一方でその影響下にもあることは自覚していて、愛憎相半ばするところがあるわけですよ。そんな僕がね、『この星』を観たときに、そうした東映らしい遺伝子を欠片も感じなかったんです。


【山元環】僕は東映で映画を作らせていただくことはもちろん、商業映画を監督すること自体も初めてだったので、東映らしい色合いというものを意識する余裕もなかったというのが正しいかもしれません。

【細田守】もともとは自主制作から?

【山元環】はい、完全に野良から自力で上がってきました。

【細田守】僕も学生時代は自主アニメを作っていて、それを観た東映アニメのプロデューサーが声をかけてくれたのがきっかけだったから、似たようなものかもしれませんね。だけど『この星』は自主制作らしい匂いが一切しないですよね。これが自主制作のノリの延長だとか言われたら、むしろ今の自主制作ってどれだけクオリティが高いんだ!?と言いたくなるぐらいの完成度ですね。

【山元環】昔から人に“伝わる”作品がずっと好きだったので、どうしたら一人でも多くの人に伝えられるかをとにかく考え抜きました。実写でコロナ禍を描くうえでは、リアルな現実の重みがある中にも、VFXを使ったカットではアニメーション的なポップさを感じられるような描写を心がけたり。

【細田守】特におもしろいなと思ったのは、辻村さんの原作小説はもっとキャラクター愛が強く感じられると思うんですよ。でもこの映画はそこに一定の距離を持っているように見えて、それがすごくうまくいっていた。さらに映画館で星空観察を同時体験できるという側面もある。そうした切り口はどこから思いついたんですか?


【山元環】コロナ禍の時代にディスタンスという概念が生まれましたよね。心の距離もそうですし、人間同士の物理的な距離感、県をまたいでの移動ができないとか。個人個人が感覚的に分断されていく時代だったなと思うんですよ。それを映像化するときに、単純に一対一のキャラクター間の距離を見せてもあんまり意味がないなと。映画全体の根底にその距離感みたいなものを引く、要はカメラの位置も含めて計算しないと伝わらないなと思いました。それとの対比として、はるか彼方の宇宙に星空がある。そのことを説明し尽くすのではなく、感じ続けてもらう2時間にすることで、この映画を理解していただけるように意識しました。

【細田守】おそらく原作を読んだ感じと、映画を見た感じが、いい意味でちょっと違うんじゃないかなと思っていて。というのは、ほとんど登場人物が全員マスクをしていて、そんな映画ってほかに見たことがない。たとえば先生方がオンライン会議をしているときもマスクをしている。オンラインだから外してもいいんだけど、誰がどういうマスクをしているのかも含めてキャラになっているから、マスクを取ったら別の人になっちゃう。

【山元環】はい。

【細田守】マスクによって抑圧された学生の気持ちはたしかにあると思うんだけど、一方で映画的に見れば、これまでにない表現を生み出したことになる。名の知れている俳優さんでも、マスクによってそれがあんまり前に出てこないというか、本当に劇中の高校生として出会っている気持ちになれるのも、この映画ならではの体験だと思います。


【山元環】コロナ禍のときって、仕事でもマスク姿で出会って、最後まで素顔を見ないままお別れする人がいたりしましたよね。

【細田守】この映画ではそれが寂しいっていうんじゃなくて、それも含めての人物がポジティブに描かれているのがいいところだと思うんだよね。

【山元環】ありがとうございます。観ている間はあの時代にタイムスリップするというか、当時の感覚を思い出しながら、この人のマスクの下の表情はどうなってるんだろう?と常に考えてもらえる2時間にできればいいなとは思っていて。


【細田守】東京の中学校で理科部に所属している中井天音(星乃あんなさん)が、本編の中で一瞬マスクを下げて口を見せるシーンがあるんだけど、逆にこんな顔だっけ?と思うぐらいにちゃんとマスクをしたキャラが成立している。そういう意味ではね、いつかコロナ禍を知らない世代が観たとしても、この映画は楽しめるんじゃないかなと思いました。コロナ禍が遠い過去のことになってもずっと観てもらいたいでしょう?

【山元環】はい、それはもう。

【細田守】コロナ禍そのものだって、重く描こうと思えばいくらでもできるんだけど、辻村さんの書き方も含めて、必ずしもそうではない方法というのかな。人間を描くための方法として、たまたまその時期だったと思えるところがいいんですよね。僕は自分もスターキャッチコンテストに参加させてもらった感覚になれたことがよかったな。しかも映画館という場所で観ると、よりダイレクトに参加した気持ちになりません?というのも、映画館の暗闇で見るからこそちょうどいい暗さになっているんですよ。ここまで画面を暗くするかと驚きました。けっこう挑戦的な暗さだと思うんです。

【山元環】星空のビジュアライズは、この映画のオリジナリティとして一番こだわったところかもしれません。実写でリアリティを追求するよりも、どこかファンタジーというか。みんなの心の中にあるいつか見たことのある風景、感じたことのある美しかった記憶や色みたいなものを、実写の中で浮いた表現になりすぎないように、というのは意識していました。


【細田守】それ、すごくうまくいってるんじゃないかな。歴史上、星座観察会がテーマの映画ってたぶんこれまでにないよね。なぜなら、星空は(技術的に)写らないから。

【山元環】そうなんです、だからVFXで作るしかなかったんですよ。

【細田守】だとしても、実際の臨場感を大事にした作り方に見えたのがよかった。

【山元環】現場でも一度挑戦はしたんです、本物の星空を撮れないかと。でもやっぱり全く写らなくて。観測の記録映像としてはよくても、映画としての感動的な色合いにはなっていなかった。結果としてVFXを使って表現した部分は、アニメ的な影響を受けているかもしれません。

【細田守】アニメだったらなんでも描けてしまうので、逆にあんなに暗くはしないんじゃないかな。どちらにせよ、それをやったのがよかった。観た人それぞれに、暗闇の中で星を見上げたときの気持ちが蘇るような体験になるんじゃないかと思う。


「細田監督の作品が染み込んでいる」山元監督が語る『時をかける少女』の影響


――山元監督にとって『時をかける少女』との出会いはどんな思い出ですか?

【山元環】DVDを借りて観ました。2006年なんで、僕は中学生ぐらいで。もう映画の世界に行こうかなと思い始めているときではあったので、邦画とかミニシアター系の作品を観るのにハマっていて。その中で『時をかける少女』(以下、『時かけ』)にも出会って、もともと大林宣彦監督の作品が好きだったこともあったので観たんですけど、それはもうセンセーショナルな感覚がありました。

【細田守】大林監督もね、自主制作出身ですからね。

【山元環】そうですよね。細田監督の『時かけ』は、僕にとってまさに青春の一ページになっています。監督が意識されていたかどうかはわからないんですけど、アニメ、アニメしすぎていなかったのが、当時の僕にとっては新鮮だったんですよ。実写的というか、日常の中の構図の切り取り方が独特に感じられて。小説版も読ませていただいたんですけど、読んでからもう一度映画を見直すと、ワンカットワンカットが何を意図しているのかの解像度がより一層深まった気がします。

【細田守】ありがとうございます。


【山元環】たとえばヒロインの真琴が同級生の千昭のところに向かって走っていく横移動のシーンがありますよね。時間に追いつき、追い越したいという真琴の心情が小説版では書かれているんですけど、映画で観るとワンカットじゃないですか。カメラが一回真琴を通り越して、さらに真琴がもう一回抜き返す。小説を読むと、あのカメラの動きが時間なんだとわかる。その背景で商店街の風景が次々とスイッチしていくように切り替わって、最後に青空が現れる。その意味をもう一度噛み締められた感じがしたんです。

【細田守】あのシーンをさ、実写で撮るとしたら大変だよね。

【山元環】あれは大変です……!でも、何やろ、アニメだけど実写的な感覚はあるんですよ。カメラの存在を感じるようなワークでありながら、実写では絶対にできない表現にもなっていて。演出としては、画面の外からセリフが聞こえてくるシーンも多かったと思うんですけど、なかなかアニメでは見ない表現というか、カメラがあったうえでその外側を意識させるような作りに引き込まれたんです。


【細田守】『この星』でも登場人物がカメラを見ている画があったよね?綿引先生がリモート画面のWebカメラに向かって呼びかける。カメラの存在自体を映画の中で感じさせる、というのはそれと近いのかもしれません。

【山元環】だからきっと僕がものすごく影響を受けているんだと思います。中学・高校時代に観てきたものが今の自分を構成している何かになっていて、その中に『時かけ』も『サマーウォーズ』(2009年)『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)もあるから、細田監督の作品が染み込んでいるんです。

「小説と映画は描くことが全く違う」両監督が語る原作ものへの挑戦


――『時をかける少女』も『この夏の星を見る』も、小説が原作となっていますが、原作ものを手がけるうえでの挑戦はありましたか?

【細田守】たとえば大林宣彦監督の映画は、僕も学生時代に観てたけど、その影響を自分の映画に出すわけにはいかなくて。じゃあどうするの?ということを突きつけられる体験ではあったけどね。

【山元環】原作とは違うコンセプトを自分の中でどう組み直していくか、これならいけると思えるアイデアの一つ目って重要な気がするんですよ。「時をかける少女」には原作小説も大林監督版の実写映画もあるが、アニメは細田監督ならではのオリジナルの映画になっている。ただ模倣するのではなく、自分の映画にする意味を求めたいじゃないですか。

【細田守】その通り。今ってさ、原作ものを手がける作り手はオリジナリティが発揮しづらいよね。

【山元環】そうですね。

【細田守】僕は自分の映画を自分で小説にしたから特に思うんだけど、小説と映画は描くことが全く違うんです。映画では観る人に想像させるためにどういう仕掛けを作るか、みたいなところがあるんだけど、小説はまた別の方法で体験化するということをやっている。だから原作通りに映画化する、というのはどっちにとってもよくないと思うんだよね。山元監督が偉いのは、辻村さんみたいな優秀な作家を前にして、ちゃんと自分の映画にしていること。キャラの心情というよりは、スターキャッチコンテストの場そのものを描くことにシフトしているところが、映画の独自性につながっている。辻村さんももちろんそれを理解しているし、筒井(康隆)先生もそうですけど、それでこそお互いの持ち味を引き出せるんだと思います。

小説「時をかける少女 A Novel based on the Animated Film」(著:細田守/KADOKAWA刊)


青春映画の次は「血まみれの復讐劇」!?両監督が語る映画監督としての進化


――11月には細田監督にとって4年ぶりの新作となる『果てしなきスカーレット』(以下、『スカーレット』)の公開も控えています。

【細田守】『この星』と『時かけ』には青春ものという共通項がありますけど、『スカーレット』はね、予告編を観ていただければわかりますけど、血まみれの復讐劇ですから。

映画「果てしなきスカーレット」 メインポスター


【山元環】だとしたら、僕も将来、血で血を洗う時代劇を作っているかもしれないですね(笑)。

【細田守】でも実際ね、監督にとってフィルモグラフィをどう築いていくかは大事だと思うんですよ。その中で、スケールを少しずつ広げていくことは一つの手というか。スケールを広げるにはそれなりのお金とか信用が必要だけど、山元監督は『この星』でかなりの信用を手に入れたことと思うから、それをどう使うかだよね。次に何を撮るかが大事だと思うので、ぜひまた、これは今までになかったなと思わせられるようなものを観せてもらいたいです。

【山元環】いや、ありがとうございます。頑張ります!






構成:奈々村久生
(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会
(C)2025 スタジオ地図
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