1話だけで3カ月も描き直し、画力が低いと言われ「漫画家やめます」求められることに向き合い過ぎて、すり減らした心が救われるまで【作者に聞く】
編集担当からOKが出ず、原稿が進まない。1話だけで3カ月も描き直している。息抜きにSNSを見ると同業者が重版の告知をしていて、さらに気分が落ち込む。壁にぶち当たるスランプ状態で「行き詰まった」とき、漫画家の吉本ユータヌキ(@horahareta13)さんはコーチングの先生を紹介された。そこから年月をかけて考え方を変えていった実話『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』を紹介するとともに話を聞いた。
「鬱になりそうだから、しっかり休んで」医師に言われたが、働かないことは現実的ではない…。そんなときコーチングに出合った


コーチングとは、対話を通じて相手の柔軟な思考と行動を促し、目標達成を支援するコミュニケーション技術のこと。吉本ユータヌキさんがコーチングの先生に出会うまでの経緯を聞くと、「実はコーチングの前にカウンセリングを勧めてもらい、受診したんです。その時に『鬱になりそうだから、しっかり休んだ方がいいよ』と言ってもらったんですが、収入がなくなる不安があったり、休むことでいろんな人に迷惑をかけてしまうのが怖くて、どうしても休むことができませんでした」と話す。


「そういったこともあり、これはぼくの推測になるのですが、まずは“収入への不安”や“迷惑かけてはいけない”への捉われを解消するために、コーチングを紹介してくれたんだと思います。コーチングは対話を通して、自身の中にある偏見や捉われに気づくことによって、考え方に変化を起こすことができるので。」仕事を休むということは、収入がなくなるということ。家族を抱えて簡単には休めない。しかもいつまでと期限が決まっていないからなおさら不安になる。


半信半疑でコーチングを受けてみて、「自分の思い込みや偏見に気づけたのがすごく大きな変化だったかと思います。もともと人に悩みを相談したり、言葉にするのが苦手なので、1人で頭の中でモヤモヤしてはネガティブの沼に沈んでいくことばかりだったんです。けど、雑談の時間は『話を聞いてくれる人』が目の前にいて、言葉にしていいんだと思えたことで思ってることすべて結論づけることなくあれこれ話すことができました」当時、吉本さんは漫画を描くことが辛かった。漫画家をやめたかったという。


漫画家は、自分の世界と向き合う仕事。一日中誰とも話さず終わることもある。変化を感じたのは、「コーチングのおかげで、『あれっ?自分ってこんなこと思ってたんだ』とか『いや、言葉にしてみるとこれはおかしいかも』って気づくことができて、自分の願っていることが明確になっていき、その結果、自分の願いに向かってまっすぐ進めるようになりました」と話す。


吉本さんは長い間、「求められること」に向き合い過ぎて心をすり減らしていた。今回はその気持ちの変化を描き下ろし、エッセイとして言葉にした。制作時の心境は、「全部難しかったです。最初は読んでくれる人に対して『よく思われたい』とか『役に立つこと言いたい』って気持ちが強く出てしまい読み返すと素直に書けてないな、と思うことがよくありました。文章だけでも制作した2年間で途中まで書いた原稿を白紙に戻して書き直す、ということが3回もありました。そんな長い期間も編集さんがずっと優しく付き添ってくださったおかげで、最終的には誰にどう思われてもいいから、すべて正直に自分のために…という気持ちで書けました」


本作を通して一番伝えたいことは、「書籍の冒頭にある『過去をどう思うかは、今からでも変えられるかもしれない』という、小さな希望です」と吉本さんは言う。「過去を引きずり続けて、自分のやりたいことができない人。他人の目が気になって、思うように動けない人。日々生きづらさを感じている人に読んでみてもらいたい本になりました。決して安い金額ではないですが、読んでみてもらえるとうれしいです」と、吉本さん。
自分と他人を比較して落ち込んだ日々。絵が下手だと言われ、デッサンから勉強し直した日々。その考え方をコーチングによって刷新できたことで、吉本さんは過去のいじめ体験や死にたいと思った日々を赤裸々に漫画に起こすことができたという。漫画家に限らず、自分と他人を比較して「自分はダメだ」「もっと頑張らなくちゃ」と、がむしゃらに進むことはあるだろう。そうして頑張っても頑張っても進まないとき、考え方を変えるべきだと気付かされるのがこの本。多くの人の指針になるのではないだろうか。
取材協力:吉本ユータヌキ(@horahareta13)
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