妻に“お世話”されたい夫が、うずらのケージで暮らすように…モラハラ夫の奇行と、あらがえない妻の歪み【心理カウンセラーが解説】

うずらの飼育小屋で食事する夫と、“世話”をする妻…モラハラ男の奇妙な生活

何よりも自分を優先してもらいたがる夫。我が子にまで嫉妬する夫はある日、ペットのうずらの飼育ケージに入り「お世話してくれる?」と頼み出し、いつしか鳥のように振る舞う時間が増えていった……。

前川さなえさんが描く『うずら男 モラハラかまって夫が人間をやめるまで』は、モラハラかまって夫のいる家庭で、うずらを飼いはじめたことをきっかけに家庭が大きく変わっていく様子を描いた夫婦の物語だ。

これまでも育児や家庭をテーマにさまざまな作品を手掛けてきた前川さんだが、本作はこれまでとは作風をガラリと変え、異様とも言えるモラハラ夫と、おかしいと思っても甘んじてしまう妻の姿をじっとりと写し出している。その心理はいかなるものか、心理カウンセラーの白目みさえさんに解説してもらった。

『うずら男 モラハラかまって夫が人間をやめるまで』書影

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『うずら男 モラハラかまって夫が人間をやめるまで』本編


「私も悪かった」と自分を責めてしまうのはなぜ?


――マンガに出てくる夫のセリフ「ボクが嫌だと思うことは絶対にしないで」「ずっといい奥さんでいてね」という言葉は、どんな心理から出てくるのでしょうか?一見「愛されている」と感じる言葉でも、支配やコントロールの始まりになることがあるのでしょうか?


【白目みさえ】「ボクが嫌だと思うことはしないで」「ずっといい奥さんでいてね」という言葉の背景には、“条件付きの愛”があります。これは「どんなあなたでも見捨てないし愛しているよ」という無条件の愛とは対極にある「私の望む通りのあなたしか受け入れません」という態度のことです。

子どもは親の態度から“愛”を学びます。親の言うことを聞き、相手の顔色をうかがうことこそが愛だと学んでしまうと、大人になってからも、同じように相手に自分の顔色をうかがわせることで“愛そう”としてしまいます。本人にとっては、それが全力の「愛している」なのです。

――支配的な言葉や制限を受けても「仕方ない」と受け入れてしまう関係は、モラハラのどの段階にあたるのでしょうか?“加害”が進行しても被害者が気づけなくなるのはなぜですか?


【白目みさえ】支配的な言葉や制限を「仕方ない」と受け入れてしまう関係は、モラハラの中でも“固定化の段階”にあたります。人は良くも悪くも順応する生き物です。恐怖の中で「おかしい」と立ち向かって変えていこうという姿勢は長続きしません。仕事や育児、家事などタスクが多くある中では、「受け入れていかに波風を立てないか」にシフトしていくのも自然な流れです。

加害者は支配を“愛”だと信じ、被害者は服従することで加害者の子ども時代の“愛の記憶”をなぞります。妻は、夫が生き延びるために身につけた“適応”を再演している状態であり、支配と服従が日常に溶け込んでいく時期と言えるでしょう。

――主人公は「確かに私も悪かった」と自分を責め、「モラハラってほどでも…」と受け入れてしまっています。モラハラの被害を受けているのに「これは大したことない」と思い込んでしまうのは、どんな心理状態のサインでしょうか?周囲や本人が“気づき”を取り戻すには、どんなサポートが有効ですか?


【白目みさえ】「確かに私も悪かった」「モラハラってほどでも…」という思考は心理的麻痺のサインでもありますが、ここで「間違い」と認めることは「自分はずっと間違っていた」と認めることでもあります。妻もまた、これ以上「自分が責められること」が怖くなっている段階だと言えます。

気づきを取り戻すには、共感的な第三者の関わりが重要です。たとえば周囲が「私が同じ相談をしても、あなたは“私が悪い”って言う?」と問いかけてみましょう。共感力が高い人ほど、他人にはそんなこと言えないと思います。この矛盾に気づくことが大切です。

夫は自分の感情を感じていいと教わらなかったのかもしれませんが、あなたは自分の感情を感じていいことを知っているはず。それに戻るだけでいいのです。
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【白目みさえさんプロフィール】
臨床心理士・公認心理師。心理カウンセラーとして精神科に勤務。漫画家としても活動。近著「子育てしたら白目になりました」が好評。

作:前川さなえ

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