朝は患者50人を移動→「一番優しい職員」が暴力に走る…限界ギリギリの病院現場のリアル
閉ざされた空間で行われる、患者への暴力や支配の構造。うわさやニュースでは耳にすることがあっても、その奥にある過酷なリアルや現場の苦悩に迫った話題作『暴力病院〜看護助手が精神科で見たもの〜』が、大きな関心を集めている。
※本作は医療現場への取材や実例をもとに構成されたコミック作品です。作中で描かれている現場の状況や対応は個別の事例であり、精神科医療のすべてを一括りに示すものや医学的見解を代弁するものではありません。
著者は、『まどか26歳、研修医やってます!』や『こころのナース夜野さん』『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』など、医療や福祉の現場を深掘りしてきた漫画家・水谷緑(@mizutanimidori)さん。
今回は、これまで扱ってこなかった衝撃的なテーマに踏み込んだ理由や、作品に込めた思いについて水谷さんにお話を伺った。
朝一番に50人の患者を集める……声が届かない現場で起きる「管理」と「支配」
物語の舞台は、精神科病棟の日常だ。社会復帰を目指して奮闘する人から生きる気力を失った人まで、さまざまな事情を抱えた人々が集う場所で、看護助手たちの過酷な業務が始まる。
朝はまず、言葉や意思の疎通が難しい患者も含めた50人を食堂へと移動させる作業からスタートする。自力で動ける人には声をかけ、動けない人の排泄処理をおこない、車椅子に乗せて運ぶ。
日々を生きるだけで精一杯の患者たちと、限界ギリギリの体制で現場を回す医療従事者たち。そんな密室のような環境の中で、一番真面目で優しかったはずの働き者が、患者に暴力を振るってしまうという衝撃的な事態が発生するのだった。
「単なる批判で終わらせない」ままならない世界でどう生きるかを問う
本作を描いた経緯について水谷さんは、「これまで精神科をテーマにした作品をいくつか描いてきましたが、まだ伝えきれていない“暴力や支配”という部分について深く掘り下げてみようと思いました」と語る。
重いテーマだけに制作は容易ではなく、「最初は1冊の漫画にまとめられるか不安でした。しかし編集者さんと対話を重ねる中で、自問自答を繰り返しながら形にすることができました。単に暴力を批判して終わるのではなく、なぜそのような状態に陥ってしまうのかという背景や事情まで表現したかったんです」と振り返る。
作品を通じて伝えたいメッセージとして、水谷さんは次のように語ってくれた。「答えが出ず、行き場のない気持ちになるのが現場のリアルです。それでも情熱を持って変わろうとしている医療者もたくさんいます。このままならない世界の中で、自分はどんな人間でありたいか、どう他者と関わりたいかを考えるきっかけにしてもらえたらうれしいです」
誰にでも潜む支配欲や暴力性、そして過酷な現場の闇を可視化した本作。もし自分が患者の立場だったら、あるいは現場で働くスタッフだったら……。多様な視点から「人間のあり方」を深く考えさせてくれる一作だ。
取材協力:水谷緑(@mizutanimidori)
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