ニワトリが主役のお仕事漫画に共感の嵐。「働く」って難しい!
会社員のニワトリ「でぶどり」とヒヨコの「ひよ」を中心に、社会人なら心当たりのある内容や、誰でも思わず「あるある!」と言ってしまいたくなるできごとを描いた漫画「毎日でぶどり」。今や単行本も4冊発売され、Twitterでは40万以上のいいねがつくなど話題となっている。
2018年からTwitterとInstagramで「毎日でぶどり」を投稿しているのは、漫画家の橋本ナオキさん。おすすめの作品を紹介しつつ、制作秘話に迫る!

働く人に刺さりまくり!「毎日でぶどり」とは?
できることなら毎日ダラダラしていたい先輩ニワトリの「でぶどり」と、意識高い系後輩のヒヨコ「ひよ」がメインキャラクター。
2羽が働き方に疑問を持ったり、新しい環境にチャレンジしながら成長していく様子を軸に進んでいく。鳥たちの日常を描く1話完結もの、4〜10話前後にわたって一連の流れを描くストーリー編、日常のあるあるネタを描く「ありがちなこと」と、3つのシリーズを掲載している。
まずは個性豊かなキャラクターを紹介。自分に似ているキャラクターを見つけて、物語をさらに楽しもう!

できればずっと寝ていたいニワトリ、でぶどり。周りの意見に流されやすいところも。社畜期から転職、アルバイトを経て、現在は「株式会社ズメック」の正社員として働いている。

でぶどりの後輩、ひよ。論理的で時に極端な考え方をするヒヨコ。ヒヨコなのに、いろいろなスキルが成熟している。

いつも明るい若手社員のペンギン、ピノ。でぶどりの先輩だが、でぶどりを「でぶどり先輩」と呼ぶ。

会社の古株メンバーでありエース社員のジャック。寡黙。後輩が大好きだが、親しくなりたい相手ほど上手く話せない。
そのほか、社長やインターン生など、多彩なトリが活躍している。


白くて丸いキャラクターを考えて生まれた「でぶどり」
―漫画やイラストを描き始めたきっかけを教えてください。もともと、そういった経験があったのでしょうか。
「関西の大学を卒業後、東京でシステムエンジニアとして勤務していました。『5年後にどうなっていたいか』を考える新人研修があり、漫画やイラスト、デザインを仕事にした自由な働き方がしたいと気付いたのが、フリーランスになる1番最初のきっかけです。
できるだけ若いうちに一度挑戦して失敗しようと思い、1年半ほど勤めたのち退職。フリーランスとして活動し始め、約1年後にでぶどりを描き始めました。小さい頃からチラシの裏にイラストや漫画を描くことは好きでしたが、本格的に作品を作ったり専門的に学んだことはありません」

こういう人いるいる!と思わせる、「信頼が崩れるとき」という作品について橋本さんは、「状況は違いますが、ボクにだけ愛想が良くて他の人にはものすごく失礼な物言いをする人が実際にいて、けっこう不快になったので描きました(笑)。今思うと、日常でイラッとしたことを漫画にして消化することがたまにあります」と語る。

―2018年1月1日から「毎日でぶどり」をSNSに投稿されていますが、始めた理由とでぶどりたちが生まれたきっかけを教えてください。
「でぶどりというキャラクター自体は、LINEスタンプをきっかけに生まれました。イラストを仕事にしたいと思った時点ではデジタルイラストを描いた経験があまりなかったので、練習がてらLINEスタンプを作ってみようと思って。そのときにLINEスタンプで人気だったキャラクターを研究すると、『白くて丸い』特徴を持っていることが多かったんです。そこで、白い動物ということでニワトリ、丸い要素ということで太らせた結果、『でぶどり』というキャラクターになりました。
漫画として投稿し始めたきっかけは、2017年にSNSでビジネスアイデアを毎日投稿している人に出会い、『自分も1年間毎日投稿しよう!』と決めたことです。当初は実績や自信に乏しかったので、1年間続けたという自信をつけるためと、運がよければWEBメディアで紹介してもらえたりしないかな〜くらいの感覚でした。1番最初に始めたのはTwitterで、1か月ほど遅れてInstagramにもすべて投稿しました。ブログはまだ始めてから1年と少しくらいですが、全作品を掲載し直しています」

「『マナーを実践』という作品は、"マナーは無意味"という風潮が強くなってきた気がして描きました。もちろんマナーのためのマナーみたいな意味のないものは別ですが、マナーを守れるというだけで評価される場所もあるので、知っていて損はないと伝えたかったんです」

毎日欠かさず投稿!「ブラック企業にいたことはありません(笑)」
―毎日投稿されていますが、漫画やイラストは毎日描いているのでしょうか。もしくは描きだめしているのでしょうか?
「描きだめをするのは旅行に行く時などだけで、基本的には毎日描いています。大変なのはネタがなくなった時と寝坊した時です。お昼休みに見てもらえるよう、また、12時ぴったりに投稿する人とかぶらないように11時55分に投稿しているのですが、遅い時には朝の10時くらいから当日の投稿を考えて描くこともあります。ネタがなくて大変だからこそ、短い時間でネタを出してなんとか形にする力がついてきたような気もします」

喜ぶジャックさんも印象的な、『仕事に役立つスキル』という作品。「これは自分に言い聞かせたいこととして描きました。ボク自身が連絡が遅かったり簡単なミスが多いので、特別なスキルを持つ前にそういうところを大切にしなきゃなと思っています。ジャックさんが話す回は、自分に言い聞かせたいことが多いかもしれません」。

―会社のネタは、どのようなタイミングでアイデアが浮かびますか?ご自身の経験をもとにしているのでしょうか。
「会社ネタは自分の経験、友人との会話、Twitterなどで見かけたことなどを中心に考えています。ビジネス書もよく読んでいるので、書籍からネタが浮かぶこともよくあります。よく、ひどいブラック企業にいたと思われるのですが、元いた会社はブラックな会社ではありません(笑)」

「『仕事の質と掛ける時間』という作品は、毎日漫画を描くようになってから、ネタを仕入れるために本を読んだりニュースを注意深く見て知識が増えたような実感があったので、覚えたいことがある人はまずアウトプットの習慣があるといいのかもなと思って描きました」

―「ありがちなこと」シリーズは、どういう時にアイデアが浮かびますか?
「普段の生活で浮かんだことをメモしています。たとえば電車に乗っているとき、『席に座っていて降りそうな人をロックオンしたけど降りなかった』と書いておいたら、のちのち"電車あるある"としてほかのネタを考えます。良い悪い問わず、自分の感情が動いたときや引っかかったことは、できるだけメモするようにしています」
現在の状況下で共感を覚える人も多い「テレワークでありがちなこと」という作品については、「普段から家で仕事していて、『家で仕事する人あるある』みたいなものはたまっていたんですが、出す場がありませんでした。世の中がテレワークに変わってきたときに一気に放出できてうれしかった作品です」と話す。

―執筆する際に気をつけていることがあれば教えてください。
「誰かを傷つけてしまわないことです。万人に受け入れられることはできないので完璧にすることは難しいですが、特定の職業を貶したりはしないように気をつけています」

「もしも遅刻と残業の捉え方が逆だったら」という作品は、Twitterで40万いいねを獲得した大人気の投稿。「深夜に思い付いて、一気に描き切った記憶があります。描いているときから『これは伸びるかも…』という実感があって、実際にTwitterでいいねをたくさんいただいたりトレンドに出してもらったりと、今までで1番反響があった作品です。自分ではくだらないと思ったものが伸びたり、自信のあるものが伸びなかったりすることも多いので、これは初めての感覚を覚えた作品でした」。
―「毎日でぶどり」について、ご家族や周りの方からの反響で印象的なことがあれば教えてください。
「親戚がもともとでぶどりが好きで読んでくれていて、作者が身内だと知ってものすごく驚いたらしいのは印象的でした。また友人の友人が、『でぶどり作品が、会社を辞めてやりたいことをやる最後のひと押しになった』と言ってくれたときはうれしかったです」

―今後、新たに挑戦したいことなどがあれば教えてください。
「でぶどりを誰もが知っているキャラクターにすることと同時に、2021年から新しい作品に取り組んでいきたいと思っています。ボク自身が橋本ナオキという名前より『でぶどりの作者』という立ち位置で評価していただいているので、個人としてももっとおもしろいと思ってもらえるようにがんばりたいです」
ちょっと笑えて「わかる!」と叫びたくなる作品は、どれも働く人々に向けてのエールのようなあたたかいものばかり。現代社会で奮闘するでぶどりたちの成長は、今後も見逃せない!
取材・文=上田芽依(エフィール)