「もしもしお母さん?うん、私は元気だよ」うつ病で休職したけど親に言えないこの気持ち
電話するウサギの目には涙、布団の周りには内服薬、ゴミが散らかった部屋。「あ、もしもしお母さん?うん、私は変わらず元気だよ〜。最近仕事も忙しくってさ〜」と平然を装っているものの、その様子は“元気”とはかけ離れた状態だ。このイラストを描いたのは、うつ病と適応障害で退職した経験のあるなおにゃん(@naonyan_naonyan)さん。イラストを描いて発信し続けることで感じた、自身の心の変化について語ってくれた。

うつだけじゃなく、HSP気質やコミュ障の悩みにも共感の声がたくさん
テーマは決して明るくはないものの、かわいいウサギのおかげでスッと心に入ってくる。そんな彼女のイラストには、うつ病の辛い症状だけではなく、最近よく聞くHSP気質(非常に感受性が高く敏感な気質を持った人)や、とにかく人が苦手なコミュ障の悩みなど、世の中のさまざまな生きづらさが描かれている。

「職場でただ座っているだけでも疲れてしまうんだよね」という文とともに投稿されたイラストには、電話が鳴るたびビクッとなり心臓が止まりそうになる、誰かが怒っている声が聞こえると自分が怒られているようで苦しくなるなど、HSP気質の人が職場で気になってしまうことがたくさん。また、「3人(以上)になるとたちまちしゃべれなくなるコミュ障」も、内向的な人なら「わかる…」と感じるイラストだ。




なおにゃんさんがTwitterを始めたのは、緊急事態宣言が発令されたころだった。「コロナ禍で気持ちがふさいでしまい、また以前から自分の心の問題に興味があったことから『とにかくこの辛さを吐き出したい』という気持ちでアカウントを作りました」と話す。また、絵本の仕事もしているという彼女。自分のイラストもついでに見てもらえたらいいなと思い、心の悩みに関する投稿を始めたのだとか。

イラストを見てもらえることで、自分を肯定できるようになってきた

なおにゃんさんの投稿にとても共感し、「悩んでいるのは私だけじゃないんだ…」と気持ちが楽になる人も多いだろう。また彼女自身も、投稿を始めたことがメンタル面でかなりプラスになったという。
「自分の気持ちを吐き出したくて始めたTwitterですが、同じ悩みを持つ人はほかにもいる、自分だけじゃないと思えるし、お礼の言葉をいただくこともあるので、とてもうれしい気持ちになります。あとは単純に、イラストを見ていただけることがうれしくて。今までメンタルが弱いことに対してコンプレックスを持っていましたが、Twitterを通して、自分を肯定できるようになってきました」
自分の気持ちを人との会話で表現するのは苦手なものの、イラストという得意なジャンルで外に出してあげることで、思わぬ効果があったようだ。
悩みを書き出すことで、形のなかったモヤモヤが輪郭を持つように

「人のことを気にしすぎちゃう人はもっと『しれっと』してていい。しれっとメール送っちゃお〜、しれっと書類出しちゃお〜、しれっと今日は帰っちゃお〜」など、彼女の投稿はただ辛い場面を描いて共感を集めるだけではなく、「こう思ってしまう時はこう考えたらいいよ」と、沈んだ状態から抜け出せるよう導いてくれる時がある。彼女自身もうつ病で苦しんでいるなか、そうやって客観的に自分の状態を見ることができるようになった“きっかけ”は何だったのだろうか。
「昔からわりと考え込む性格ではあったのですが、特に客観的になれたのは、悩みをノートに書き出すようになってからだと思います。悩みって正体のないモヤモヤのようなものですが書き出すことで、形のないものから、文字を通してはっきり輪郭を持つようになる感じです。今、自分は何に悩んでいるのか、悩みに対して自分はどうすればいいのかを具体的に書き出していくうちに、自然と客観的になれるし、悩み自体もそんなに大したことじゃないかもな〜と、楽な気持ちになれます。悩みをノートに書き出すことはとてもおすすめしたいです」




「真面目すぎて苦しんじゃう人、これを口癖にするといい」という言葉とともに投稿されたイラストには、フォロワーから「心のキャッチフレーズにさせてください」「心を守るためのパワーワードですね」と称賛の声が集まるなど、なおにゃんさんの柔らかいイラストと言葉は、フォロワーたちの心を日々癒している。なかには「私の描いたイラストを、スマホの待ち受けにしてお守りにしていると言ってくださった方がいました。つたない絵ですが、とてもうれしい気持ちになりました!」と、なおにゃんさん。描くことで気付けば自分も周りも幸せになっている、素敵なサイクルが生まれていた。


最後になおにゃんさんが、仕事や人間関係に悩んでいる人たちにメッセージをくれた。
「悩んでしまったり、落ち込んでしまう人って、すごく真面目でいい人なんだと思います。でも人生って案外長いし、今は苦しくても、真面目でいい人は、悩んだ分だけなんだかんだ最終的に報われると思うんですよね。それに実際、人間って100年後にはみんな死んでるし、10年後には今の悩みも笑い話になっていたりします。そうやって俯瞰(ふかん)すると、悩みってそこまで深刻に考えなくてもいいものかもしれないし、どうせ最後はみんな死ぬんだから、自分の好きなことを自由にやった方がいいと思います。私もうつで2度休職して、仕事が嫌すぎてベトナムまで逃げちゃった過去がありますが、今もなんとか生きてます(笑)。大抵のことは、なんとかなるもんです。あまり思いつめないで、おいしいもの食べて、のんびり行きましょう〜」
毎日の生活に疲れてしまった時は、なおにゃんさんの言葉を思い出しながら、一旦肩の力を抜いてみるといいかもしれない。

取材・文=江口琴音(glass)