まさか自分が「いじめのターゲット」になるなんて。中学時代の実体験を漫画に
Instagramやブログで育児や夫婦の漫画を配信している芸子さん(@geiko_tumu)。2人の子供を育てるアラサーの母親のリアルな日常に共感の声も多いが、筆者が気になったのは長編の「思い出小話」。芸子さんが学生の頃に実際に体験した「いじめ」について描かれていて、いじめる側やいじめられる側だけでなく、その周りの人たちの思いや葛藤もリアルで考えさせられる場面がたくさん出てくる。

今回は「思い出小話」について芸子さんにインタビューし、当時の思いやいじめを題材にしたことについてなど聞いてみた。
「いじめ」は突然に
笑っているかと思ったら急に泣き出したりする、我が子のコロコロ変わる表情がおもしろくて描いて遊んでいたものを、見返しやすいInstagramで管理し始めたのをきっかけに漫画の配信を始めた芸子さん。
「Instagramを始めて2週間で2000人もの方にフォローしていただきました。そこから育児だけでなく夫婦や家族の話、仕事の話などいろいろなジャンルの漫画を描かせていただいています。細々と投稿を続けて、現在4年目になります」




公式ブロガーの誘いを受けたことを機に、新しいスタートに向けて今までに描いたことがないジャンルにチャレンジしようと思った時、真っ先に思い浮かんだのが「思い出小話」に登場する2人の親友の存在だったと言う。








芸子さんの家の近所に住んでいた亜美と芽衣は、幼稚園の頃からの親友。性格や家庭環境が全く違う3人だったが、気が合い楽しく過ごしていた。中学生に上がり、マナという女の子との出会いによって3人の友情に亀裂が入る。さらにマナから「いじめのターゲット」にされ部活にも行けなくなってしまい、日々悩む芸子さん。でも、そんな状況から脱却するきっかけをくれたのも、やはり親友の2人だった。





「当時の私は本当に平和慣れをしていたので、まさか自分がこんなことになるとは思ってもいませんでした。いじめられる事で見える世界、そこから逃げることで得られた事、戦おうと思えたきっかけやいじめっ子を許そうと思えた理由など、全てを詰め込んだ漫画なので、こうやってピックアップしていただけて嬉しいです」と芸子さん。







「許せない」と「許したい」の葛藤
特に印象に残っているエピソードは?と尋ねると、「32、33話の自分を裏切った親友と和解するエピソードです。新しいターゲットにされた親友を見て、自業自得だと終わらせてしまえばそれまでなのですが、こういう時に許せる強さがあれば本当の親友になれるんじゃないかと強く思ったんです。読者からの反響も大きく、当時同じような経験をされて許すことができず疎遠になってしまった事を後悔されている方も多いようでした」と話してくれた。







人をいじめることで、周りの人間から認められようとするマナにはもちろん嫌悪感を抱かずにはいられないが、マナにはマナの悩みがあり、そういう事でしか周りの人間を引き留めることができないのは、悲しくて寂しい。






「『いじめ』ってとても難しいテーマで、表現や言葉選びを一つ間違えれば読んでくださっている誰かをとても深く傷つけてしまう恐れがあるので、すごく悩みながら描きました。自分の負の感情だけをぶつけるのではなく、私以外の登場人物の立場や目線も考えて描くように気を付けています。描き手の私の気持ちをさも正論のように表現できるけど、私以外の登場人物は反論する事ができないというのは、忘れないようにしたいです」






「思い出小話」の続きはInstagramとブログで読むことができ、全64話で完結。そのほか、出産後に保活に敗れ退職し、祖母の介護の手伝いと育児に明け暮れる芸子さんの実体験を描いた「社会復帰どーすんの?!」も更新中。
「漫画を描く事で、育児で辛い時や大好きだった仕事を退職しなければならなかった時の“闇の時期”を乗り越えることができました。忙しい日々の中で貴重な時間を割いて私の漫画を読んでくださっている皆様が、少しでも気持ちが軽くなったり、クスッと笑ったり、そんなひとときを過ごしていただけたら嬉しいです!」と芸子さん。
さまざまな感情が交錯する「思い出小話」は、いじめの邪悪さはもちろん、友情の大切さ、人間の心の弱さや強さなど、改めて考えるよい機会を与えてくれる作品だ。
取材・文=重藤歩美(ウォーカープラス編集部)