【漫画】小学生から人生やり直しの「つよくてニューゲームなラブコメ」がSNSで大反響!作者が語る「有料の限界」と「無料の可能性」
成績優秀スポーツ万能で人気者の男の子。実は人生をやり直し中の“つよくてニューゲーム”な彼が、因縁の相手を攻略するべく恋愛に奮闘するWEB漫画が今、大きな人気を集めている。

漫画家の屋乃啓人さん(
@chimairasuzuki
)が、自身のTwitterで連載している漫画「つよくてニューゲームなラブコメ」。主人公の「小峰文太郎」は、小学生時代に戻り、大人だったころの経験を活かして2周目の人生を謳歌しているが、それでも一筋縄で行かない相手がいた。1周目の人生で小峰を振った同級生の女の子「宮乃ささら」だ。本作は、かつて「死んでやりなおせ」と言われた小峰が、本当に人生をやり直しながら宮乃を振り向かせようとするラブコメ作品となっている。
かつての人生の記憶から、倒れそうになる宮乃を支えたり、「かわいいな」と素直に伝えたりと積極的にアプローチする小峰。その猛アタックに表面上はとげとげしく返すものの、内心はイライラとドキドキがないまぜとなり意識してしまう宮乃と、移りゆく2人の関係に「かわいすぎる」「尊い」と毎話大きな反響を呼んでいる。

『出禁探偵 ~クララが来たりて謎を解く???~』(小学館)や『明日世界滅亡しないかな』(KADOKAWA)など、商業作品でも活躍している作者の屋乃啓人さん。「つよくてニューゲームなラブコメ」シリーズはTwitterで発表後、Amazon Kindleインディーズで無料の電子書籍として自ら刊行し、ファンコミュニティサイト「pixivFANBOX」ではクリエイターへの少額支援という形で先読みも可能という、WEB主導の展開を続けている。
ウォーカープラスでは今回、屋乃さんに本作の制作秘話や、WEBでの作品発表のメリットや展望についてインタビューした。
「めちゃくちゃ手を抜いてます」!?投稿数重視の制作背景

――「つよくてニューゲームなラブコメ」を描き始めたきっかけを教えてください。
「タイトルはずいぶん前に考えていました。タイトルから発想を広げて作ることが多いです。その時はもっと暗い話になる予定でした」
――小峰の積極性と押される宮乃のやり取りがぐっときます。2人の掛け合いや関係性はどんなところを意識して生み出されているのでしょうか?
「2人は結構勝手に動いてくれるので、どう意識しているとかはあまりないです。多分考えてるんでしょうけど、あまり明文化できないところです。2人を可愛く描けたらいいなという感じです」
――「やり直しもの」のお約束とも言える未来改変の可能性にも「宮乃と結婚できるかも」とポジティブです。こうした世界観に関わる部分は意図的に描写をセーブしているのですか?
「僕は話を展開させていくのが得意なので、ストーリーに起伏を作ったりしたいのが正直なところです。でもTwitter漫画を読んでくれてる人たちは癒やしだったり、暇つぶしだったりが目的で、真剣に描きすぎても独りよがりになってしまうんじゃないかと思い、悩みどころです。ただ2人のゆるいやり取りを描くのが僕自身楽しいので、このままイチャイチャを描いていきつつ、ちょっとずつストーリーを進めていきたいです」

――照れたり不細工顔といった大きな変化だけでなく、ちょっとした笑顔やそれぞれの細かな感情やニュアンスが、小学生らしさを感じます。
「前述のとおりこだわりはあまり持ってなくて、とにかく『かわいく描けたらいいな~』くらいしか思ってないですね」
――作者として力を入れているポイントはありますか?
「こういうと怒られるかもしれませんが、めちゃくちゃ手を抜いてます。超きれいな絵を目指して全力で描くより、投稿数が多いほうがみんな喜んでくれるかな~と。僕自身たくさん出したいですし」
“有料漫画”の限界と、作家主導による可能性とは

――本作はTwitterで無料公開しながら、pixivFANBOXでは先読みが可能にもなっています。こうした発表形式としたのはどういった背景があったのでしょうか?
「僕はもう、漫画を有料で発表し続けるのは限界じゃないかなと思っています。もちろん一流雑誌は別ですが。みんな時間ないしお金にも余裕ないので。僕がただの読者だったら無料で読めたほうが絶対にいいなと思うので、無料で読んでいただいて構わないです。
そのうえで、お金に余裕がある人には支援してもらうみたいな形をとってます。僕の中で、FANBOXは支援してもらうのがメインで、先読みはあくまでおまけです。ごはんをタダでおごってもらうのは悪いから、お返しに机の引き出しのなか見せるよ、みたいな感覚です」
――本作はKindleインディーズでも大きな反響を呼んでいます。この取り組みのメリットを教えてください。
「Kindleインディーズは無料で読んでもらって、閲覧数に応じて作者に分配金が支払われるシステムで、YouTubeの広告モデルに近いです。ただ、現状広告も何もついていないので、完全にAmazonさんの持ち出しです。たぶん今後何かするための布石なんじゃないでしょうか。
これは漫画家さんみんなやったほうがいいです。超おすすめです。僕はほとんどこれのおかげで生活できています。商業作品は連載がストップすると収入がゼロになります。僕は商業にあまり魅力を感じなくなってしまいましたが、商業作家さんも連載の谷間の保険として使うのはかなりアリだと思います」
――ということは、仮に書籍化などの声もあっても、本作についてはWEBでの展開を選ばれているのでしょうか?
「連載化や商業書籍化の話は何度かありました。今でもしたいと言えば、手を挙げてくれる編集部がおそらくいくつもあるんじゃないでしょうか。でもそうなると、今まで無料で読んでもらえたものが『単行本化するので今までのもの非公開にします』『お金を出さないと続きは読ませません』となります。それは読者さんに対して不義理だと思います。
ある程度こちらの立場を忖度してくださって、『今までのものはそのまま載せていい』『再掲も自由』と言ってくれたとしてもゆるく利害関係ができてしまうので、別の展開しようと思ったときに『担当に確認取らなきゃ』みたいな気持ちが出てきます。そうやって動きが鈍化するのは僕にとっても読者さんにとってもあまりいい状況ではないと考えています。逆にそのデメリットを補ってあまりある程のメリットを提示してくれたらお受けすると思います」

――屋乃さんはいわゆる商業出版でも活躍されています。そうした経験から見た商業出版とインディーズの違いや、可能性はどんなところにあるのかお聞かせください。
「一番大きいのは契約に縛られないことです。心血注いだキャラやお話を、数万、数十万で売り渡すのはコスパ的にも心情的にもかなりしんどいです。出版社的には数うちゃ当たる戦略なんでしょうが、こちらとしてはそれでは困るんです。僕にとって今いる読者さんの満足度を最大化して、新しく読者さんを獲得するのが至上命題です。なので、僕一人ではできないくらいの拡大をしてくれるのであれば、契約に縛られるのもアリかなと。
ただ、やはりお金を払って読んでもらうのはもう無理筋かなと思っています。『お金を払いたくない』『けど読みたい』層を締め出した先にあるのは『お金を払う』ではなく『じゃあ読まない』です。もちろんお金を払ってくれる人は尊いです。しかし『払わない人たち』『払いたくても払えない人たち』を無視しておけるフェーズではもはやないと思います」
WEB発の作品が書籍化することが当たり前のスタイルになった今、「つよくてニューゲームなラブコメ」は、出版社を介さず漫画家主導で作品を発表していく、という新たなスタンダードが広まっていく嚆矢とも言えそうだ。
取材協力:屋乃啓人(@chimairasuzuki)