“似顔絵で探して”少女の正体と依頼の切ない真相。伏線が散りばめられた短編漫画に「ゾクゾクする」と反響
短いストーリーだからこそ、登場人物の心境や物語の背景といった余白が際立ち、読者の興味や想像を掻き立てることはままあるもの。今年4月にSNS上で公開された短編漫画「2階立てアパートベランダ無しワンルーム目張り済み」もそうした好例の1つ。Twitter上では2万6000件を超えるいいねとともに、「読んでてゾクゾクする」「結末で超鳥肌たった」と話題を読んだ作品だ。
読み返すと見え方が変わる、「人探し」と二人の結末

注目を集めたのは、としきち(
@came0141
)さんのオリジナル作品「2階立てアパートベランダ無しワンルーム目張り済み」。とある青年のアパートに突然現れた少女とのひと夏を描いた作品だ。

何の前触れもなく自室に現れた少女は、「絵を描けるキミみたいな人をずっと探してたの」と、尋ね人の顔を再現できる絵描きを探していた。青年は少女のお願いに戸惑いながらも引き受ける。
似顔絵をSNSに投稿して情報提供を待つ中、青年が漫画を描けることに着目した少女。「君の漫画載せようよ」と、SNSユーザーの注目を集めるために作品を投稿することを提案する。「1回だけなら…」とOKした青年だったが、過去作を投稿するうちにじわじわと反響が集まり、気付けば新作を描き始める。そして少女は青年のよき読者として見守りながら、奇妙ながらも穏やかな関係は過ぎていった。

そして、新作がこれまでにない反響を集めた時、本題の似顔絵にも有力な情報が寄せられる。とうとう捜し人を見つけ出した青年に、少女は「見つけてくれてありがと」と感謝を告げるとともに、「家に知らない人がいたらフツーは追い出すんだよ」と困ったような笑顔を見せ、姿を消した。

その後、青年は殺人事件の犯人が逮捕されたニュースを目にする。行方不明の後、遺体で見つかったという被害者の写真は、確かに夏の間、青年と同じ時間をともにしたあの少女のものだった。青年は、彼女とともに似顔絵と作品を投稿していたアカウントを削除しSNS上から姿を消すが、夏の間にファンとなったユーザーたちからは「この漫画の作者さん探してます」とその消息を求める声が集まっていくのだった。
さりげない描写で魅せる、漫画ならではの演出の妙
14ページの本編内で、結末への伏線や、青年が少女の素性をなぜ詮索しなかったのかを示唆する描写、台詞で語られることのなかった二人の心情がちりばめられ、タイトルも含めて読み返すことでさらに見え方が変わる奥行きを持った本作。ウォーカープラスでは作者のとしきちさんに、本作制作の舞台裏について話を訊いた。

――本作を描かれたきっかけと、アイデアの発端について教えてください。
「『この人知りませんか?』というフレーズをテーマに作成した一次創作合同誌に寄稿するために描いたものです。探されているのが主人公側だったら面白いなと思い、行方不明で探されている女の子と、事件の後姿を消しネット上で探される漫画家志望の作家というオチにしました」
――青年と少女二人の背景には暗いものがありながら、二人がいっしょにいた時間には穏やかな雰囲気が流れているように感じました。
「あきらめの境地に達して穏やかになる人間の持つ空気感や、恐怖ではない死、のような題材が好きなのでそういったものを表現したくて描いていました」
――SNSの投稿や部屋の様子など、何気ない描写にキャラクターや世界の奥行を感じました。なかでも特に意識されたというポイントはありますか?
「少女が幽霊であることが最初からわかるように、でもすぐに気付かれないように、の塩梅を一番意識したと思います。服装が変わっていく主人公に対して少女の服装は一定であったり、少女には影がなかったりなどですね」
――Twitter上で数々の反響が寄せられたほか、pixiv月例賞も受賞するなど多くの注目を集めました。こうした反響についてはどう感じられましたか?
「身内間での合同誌のために描いたものでしたが、思ったより多くな方々に楽しんで頂けたようで嬉しかったです」
――今後の活動の展望や予定があれば教えてください。
「今は停滞中なのであまりありません。また作品を発表できればいいなとは思っております」
取材協力:としきち(@came0141)