寝てばかりの夫。ダラダラすんなと思っていたら「バセドウ病」だった!家族から見たバセドウ病レポート漫画が知見に富んでいる
芸能人でバセドウ病だと公表している人もいるが、バセドウ病がどんな病気なのかを理解している人は多くはないのではないだろうか。そんな人にもバセドウ病がどういった症状をもたらすのかが分かるレポート漫画が話題を呼んでいる。
※本作で紹介している症状は、個人の体験談でありすべての人に当てはまるものではありません。症状で悩んでいる場合は医師・看護師等の専門家に相談してください。また、センシティブな内容を含む為、閲覧にはご注意ください。

漫画を描いたのはイラストレーター、漫画家として活動する桜木きぬさん(@kinumanga)。ある時から夫が朝は起きず、休みの日も一日寝てばかり、それなのに夜もすぐに寝てしまう…。「ダラダラすんな」と内心怒りを覚えていた桜木さんだったが、その後、動悸や息切れ、手の震えなどの症状が現れ、ついに夫はバセドウ病と診断される。「思えば半年くらいずっとしんどかった」「まるでいつもプールの授業の後の5時間目みたいだった」と語る夫に、桜木さんは「かわいそうなことをした…」と反省をしたんだそう。また、夫本人に自覚はなかったが、バセドウ病の影響で夫がせっかちになっていることに桜木さんは気づいていたとことも語られている。患者本人の症状のみならず、一緒に暮らす家族だからこそ感じたエピソードも描かれているのが印象的だ。桜木さんにこの漫画を描いたきっかけを聞いた。
客観的な目線が生まれたタイミングで漫画を執筆
普段はカットイラストや、広告漫画を手がけている桜木さん。趣味として、日々の出来事や家族との話を漫画にしているんだそう。
「以前からコミックエッセイというジャンルが好きで、イラストの仕事の傍ら時々描いていました。コロナ禍以降、人と雑談することが減ったタイミングがあり、日々の『ちょっと聞いて〜』と思ったことを人に話す代わりに、描くことが増えました」

夫がバセドウ病と診断されたのは2018年の頃。4年が経ってからの漫画化となったのには、何か理由があるのだろうか?
「どんな出来事も渦中にいる時は、客観的に描けないと思っています。学生の頃、交通事故で内臓(肝臓)破裂という重傷を負った経験があるのですが、そのことも20年が経ってから漫画にしました。ある程度消化してからの方が描きやすいと感じています」
内臓破裂を起こした話もTwitterで公開すると1万以上のいいねを獲得し、話題になった作品。「あと1センチずれていたら即死だったよ!!!」と医師から言われたほどの大きな怪我を負ってしまったことを綴っている。怪我に病気にと不穏なテーマの漫画もあるが、桜木さんにとってコミックエッセイは“日々の記録のアルバムのようなもの”なんだそう。
「読み返した時にうれしくて楽しい気持ちになれるものや、がんばったなーと思えるものをたくさん残したいと思っています。それをみなさんにもそっとお裾分けできればうれしいです」
「バセドウ病の理解の助けになったのがうれしい」
そもそもバセドウ病とは、甲状腺ホルモンが異常に分泌される病気。甲状腺とは人間の喉仏の下にあり、ここから分泌される甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を盛んにする働きを持っている。バセドウ病になると、この甲状腺ホルモンが亢進され、新陳代謝が過剰に行われるようになる。すると、動悸や息切れが起きたり、体重が減ったり、体が震えたりするようになるのだ。人によってはせっかちになったり、無気力になったりと精神的な症状も出るため、うつ病や更年期障害などの他の病気と勘違いされることもあるんだそう。バセドウ病患者の家族として、桜木さんが一番困ったこともこの精神状態の部分なんだそう。

「症状が重い時の精神状態が気掛かりです。せっかちで注意散漫になってしまうので、事故に遭わないかヒヤヒヤします。また、私は精神が不安定な夫に対応できますが、子供はそんな父に素直にイライラするので、家の中がちょっとギスギスします。夫からは『気にせずいつもどおりに接してほしい』と言われていて、数値が安定していて症状がほとんどない時は可能ですが、症状が出ている時はすごく心配ですし、正直腹が立つことも多いので難しいですね」
会話にかぶせ気味に返事をしたり、忘れっぽくなったり、本人に悪気があってしていることではないとはいえ、毎日そばにいるとどうしても気になってしまうのは致し方ないこと。夫への接し方が難しいと語る桜木さんだが、バセドウ病だとわかったことで夫への接し方の助けになった部分もあるとのこと。
「朝、なかなか起きてこなくても、これはバセドウ病のせいだなと割り切るようになりました。朝以外は働き者の夫です。反対に、私も生理前などは動きが悪いので、『ホルモンには勝てないね』『お互い様』という気持ちも芽生えました」
漫画でバセドウ病についてまとめたことで、バセドウ病患者の人から感謝の声も寄せられた。
「バセドウ病患者の方が、友人や知人に『実はバセドウ病で…』と打ち明けた時に、私の漫画が理解の助けになったという体験談を寄せてくださったのがうれしかったです。また、放射性ヨウ素を使ったアイソトープ治療や甲状腺切除の手術を経験された方が知見を分けてくださるのがありがたいです」
漫画で描かれているのは、あくまでも桜木さんの夫の話。もしご自身や身の回りの人でバセドウ病の方がいたとしても、症状の出方や、処方される薬や治療方法などは異なる。あくまでも一つの症例として読んでもらいたいが、病気のことを知ることで患者さんやその家族にとって何が大変なのか理解することができる。ひいては、他者への気遣いの目線を持つことにも繋がっていくのだろう。
取材・文=西連寺くらら