呪いの日本人形は老人を殺さない。“夏の終わりに怖い話”と銘打つ短編に「優しい話」「怖イイ話」と反響
日本の伝統的な工芸品である日本人形は、その美しさや文化が親しまれる一方、「人をかたどったもの」として怪談に描かれることも多い人形。そんな日本人形を題材にし、「夏の終わりに怖い話」と銘打ってTwitterに投稿された短編漫画の感動的な結末に、「めっちゃ素敵」「優しい話でした」と反響が集まっている。
呪殺の獲物は生い先短そうな老人で…「怖い話」が心温まる展開に
話題を呼んでいるのは、『吸血鬼伯爵は美少年メイドに踏まれたい』(コミックWACHA)と『董京少年あるじとしつじ』(コミックガガ)の2作を連載中の漫画家・櫻日和鮎実(さくらかわ あゆみ)(
@ayuneo
)さんが自身のTwitterで公開した作品。とある民家の物置深くに放置された不気味な日本人形が、人間を呪い殺そうとたくらむところから話ははじまる。


多くの人が自らを気味悪がってきたことに恨みを溜めていた日本人形。物置に入ってきた人間を獲物にしようとするが、現れたのはよぼよぼの老人だった。「放っといても死にそうな奴きた…」と拍子抜けしながらも、まずは小手調べとばかりに一晩で人形は自身の髪を伸ばし、歯を剥いた姿でおどろかそうとする。


だが、老人は「年を取ると毛も歯も抜けるばっかりでの」と、恐怖どころか逆にうらやましがるほど平然としたまま。さらには伸びた黒髪に櫛を通し、日本人形をいたわる。
老人の亡き妻の遺品である櫛で手入れされ、果ては妻とのノロケ話も聞かされることになった人形。その後も老人は衣装を用意して着飾らせたり人形のために尽くし、人形も「悪くないわね」と心境に変化が生まれていった。


毎晩老人の眠りを見守り、ある夜、老人のもとに死神がやってきた際には、呪いの力で死神を驚かせ退散させるほどにほだされていた日本人形。最初は呪い殺すはずつもりだったはずが、「こんなに可愛くしてもらったんだもの」と老人との時間に満足し、極楽浄土へ向かうと告げる。


去り際、眠っていたはずの老人は「じじいの独り言に付き合ってくれてありがとうね」と人形へ言葉を返す。妻への言付けとともに、「イイ人を見つけなさい」と励ます老人に、“呪いの日本人形”は「長生きしてねおじいちゃん」と微笑みを浮かべるのだった。


根強い人気を誇る「怖イイ話」が生まれたワケ
Twitterの投稿には6万件以上のいいねとともに、「最後のやり取りに泣いた」「怖イイ話」と、心温まる結末に称賛するコメントが多く集まった本作。2017年ごろに描かれた作品で、今回だけでなく当時からSNS上でたびたび再掲されてきたが、そのたびに数万件のいいねがつくという根強い人気を誇る短編だ。
作者の櫻日和鮎実さんに話を訊くと、本作は「日本人形はもともと子供を守るために作られたもので怖いものではないんだよという気持ちと、むやみに怖がらず可愛がって接していればちゃんと応えてくれるはずだよという気持ちで、説教臭くなく笑えるようにほっこりした絵柄を選んで描きました」とのこと。
掲載のたびに多くの反響が集まることについては「純粋にとてもうれしいです。『この話好きなやつだ!』と覚えていてくださる読者さんも多く、コメントはすべてありがたく読ませていただいております」と話し、「たくさんの方が可愛い話だと思ってくれたらそのぶん思い入れが深まります」と、読者へ変わらない感謝を告げる。
商業連載のかたわら、本作のように個人制作も精力的に発表している櫻日和鮎実さん。pixivなどで公開しているオリジナルのイラスト漫画シリーズ「おばちぇ」も人気を博しており、クレーンゲームでのプライズぬいぐるみ化されたほか、10月中頃からは池袋PARCO別館にてポップアップショップが開催予定だという。
取材協力:櫻日和鮎実(@ayuneo)