【漫画】二人乗りが織りなす昭和の青春。正反対な少年と少女が夢追う姿に「素晴らしい」「王道」と反響
「君に仕事を頼みたい」と持ち掛けられた少年。その仕事の内容は、足が不自由な少女との二人乗りだった――。昭和30年代を舞台に、夢を追う二人の姿を描いた創作漫画『車輪の唄』に、Twitter上で6000を超えるいいねとともに「素晴らしい」「王道で本当に良い話」と反響が集まっている。作品のあらすじとともに、作者の天野リサ(
@amano1972
)さんに話を訊いた。

足が不自由な少女を送迎する少年。二人の夢の行く末に感動
とある夢を叶えるためにお金が必要だった少年「晃彦」。彼は近所のお屋敷に越してきた男性からある仕事を依頼される。それは男性の娘「梅子」を学校まで送迎すること。歩くのに松葉杖が欠かせない梅子を、自転車の荷台に乗せるのが仕事の内容だった。

金のために“仕事”はこなしたものの、晃彦は後ろに座る梅子のことが嫌いだった。送迎以外にも足として連れ回され、四六時中話しかけてくる“お嬢様”を鬱陶しく感じていたのだ。

ある日「私は私の意思で私の足で自由に行きたいの」と、梅子は自らの夢を口にする。「なにか夢はないの?」と問われた晃彦は後日、駅の見える高台へ彼女を誘った。蒸気機関車を眺める彼の心に秘められた夢は、線路が続く東京へ出て記者になることだった。

だが、長男の彼は家を継ぐことを強いられ、親はその夢を一顧だにしなかった。そのわだかまりを告白した晃彦は、梅子から「十歳までは普通に歩けていた」と教えられ、卒業とともに梅子が足の治療のため東京へ出ることを知る。
一見正反対ながら、ともに不自由さを抱えていたことに気付き、しかも梅子は夢を叶えられるかもしれない。そんな屈託を残したまま季節は巡り、雪の降る朝、東京行きの列車が待つ駅に向かうため、晃彦は梅子を乗せ、自転車を漕ぎ始める――、という物語。

夢を持つ二人の繊細な感情表現に引き込まれる
自分の体、家庭の無理解、それぞれの事情から夢に立ちはだかる壁が高い二人の日々を丁寧に描いた本作。歳月が過ぎ、クライマックスで描かれる成長した晃彦と梅子の再会には胸が熱くなる。
作者の天野リサさんは、少年サンデー(小学館)にて短期集中連載した『ギニーピッグと運び屋』をはじめ、読み切り作品などを発表する漫画家。『車輪の唄』は天野さんが大学の卒業制作として描いた作品だという。ウォーカープラスでは、同作に込めた思いをインタビューした。
――二人の過ごす時間がビビッドに描かれた作品です。本作を描いたきっかけを教えてください。
「こちらの作品は大学の卒業制作作品として完成させたものですが、原稿に入る前のネームは大学2回生のときの課題で制作したものでした」
――その時の課題はどういう内容だったのでしょうか?
「その課題のお題は『駅』でした。そこから、駅で離れ離れになった男女が再会する話を描こうと考えました。また、その話にBUMP OF CHICKENの『車輪の唄』の楽曲のような雰囲気やイメージを絡められないかと思い、制作しました」
――晃彦と梅子の二人が何を思い何を葛藤するのか、その描写が本作の大きな魅力に映ります。キャラクターを描く上で特に意識した点を教えてください。
「2人を真反対なキャラクターにしたことです。全てが違うからこそ、『夢を追っている』という一点の共通点がとても重要なものになったと思います。また、2人を自分勝手なキャラクターにしたことです。目標があって、それだけを考えて行動してる晃彦と梅子だからこそ、芯のあるキャラクターにできたと思います。作中では2人以外の親やモブの表情は意図的に隠してあるのですが、これは周りが見えていない2人の状況を表現したものです。

――昭和30年代の山間部という舞台設定を選んだ理由は?
「未来で再会するオチが決まっているので、環境のギャップがあった方が面白いと考え、時代設定を高度成長期、舞台を田舎にして発展した東京で再会するという形にしました。また、二人乗りが合法な時代にしたかったことも理由です」
――本作を描く上でこだわったポイントを教えてください。
「感情の表現にこだわりました。コマ撮りのように表情を見せたり、自転車も軋む音で表現したり、細かい感情を伝えられるように意識して制作しました」
――本作を描き、後の漫画制作に繋がっていることはありますか?
「先にお話した通り、こちらの作品は大学2回生のときに制作したネームが元となっています。卒業制作作品として仕上げるに当たって、当時は正直全部一から手直ししてしまいたかったのですが、時間が足りなかったため、確実に修正がないであろうシーンとカットを先にペン入れしつつ、ネームを直すというライブ感のある描き方をしていました。この経験のおかげで、『なんだかんだやればなんとかなる』という自信がつきました。制作中に持つネガティブな考えは薄くなったと思います」

――天野さんは短期集中連載の『ギニーピッグと運び屋』をはじめ、精力的に活動されています。今後の創作活動の展望を教えてください。
「週刊連載してみたいです…!読み切り作品も含め、サンデーさんでお世話になっておりますので、連載できるよう頑張ります。現在Twitterで更新している『ウィッチ&シーフ』や、『サンデーうぇぶり』(小学館)に掲載している過去の短期連載作品や読切作品がありますので、読んでいただけたらとても嬉しいです!」
取材協力:天野リサ(@amano1972)