「泣きながら読みました」“人を傷つけてしまう病”を抱えた少年と少女のかかわり描く漫画に感動の声【作者に訊く】
「人を食べてしまう病」を患い、外の世界に出られない少年。引っ越した先、柵越しに出会った隣家の少女は「生き物に触れられない病」だった――。

めめっぽ(
@memeppooo
)さんの創作漫画「人を喰べる少年と生き物に触れない少女の話」は、人と触れ合うことのできない病をかかえた少年と少女のかかわりを描いた作品。1月、Twitterで公開した作品には3万8000件超の「いいね」が集まり、pixivマンガ月例賞(2023年1月発表分)の大賞に選ばれるなど、大きな注目と反響を呼んでいる。オリジナル作品としては同作が初めて描く漫画だったという作者のめめっぽさんに、本作にこめた思いや制作の舞台裏をインタビューした。
「人喰い病」の少年が出会ったのは、「生気を吸い取る」少女。触れ合えない二人の結末に涙

衝動的に人を食らってしまう“人喰い病”のある世界。5歳の時に発症した少年ノワールは、母に匿われ、彼とその病を誰も知らない遠い土地へと越してきた。5歳の時以来、約10年もの間一度も人を食べずに耐えてきたが、抗えない飢えを常に感じるようになっていたノワール。同居する母とも極力会わないようにし、自宅の敷地からは一歩も出ずに生きようとしていた。

ある日、庭先に出ていたノワールは、高い柵で隔たれた隣家に住む少女、フィオと出会う。友達になろうと声をかけた彼女を、ノワールは病気を理由に遠ざけようとする。だが、フィオは隙間から足を延ばし、足元の草を枯らしてみせ、生き物の生気を吸い取る病気なのだと告げる。

お互いに、人と触れ合うことができない病に冒されていた二人は、柵越しの会話で少しずつ交流を深め、惹かれあっていく。しかし、ノワールの飢餓感は、今やフィオを前によだれを隠しきれないほどに膨らんでいた。ノワールは人喰いの姿をフィオに見せることがないよう、「もう庭には来ない」と別れを告げる――、という物語。

自分の意思ではどうしようもなく他者を害してしまうがゆえに孤独だった少年と少女、その境遇が重なったからこその出会いと、お互いを慈しむ切実な姿が描かれた作品。悲しくも救いを感じさせる別れの結末に、読者からは「泣きながら読みました」「美しい愛」と感動の声が数多く寄せられた。
作者のめめっぽさんは、2022年にプロのイラストレーターとして活動をはじめた新進気鋭のクリエイター。反響を受け、漫画を描いたきっかけや作品の舞台裏について話を訊いた。
「2人の時間を愛しいと思ってもらえるよう」作品にこめた思い
――「人を喰べる少年と生き物に触れない少女の話」が、Twitterやpixivで大きな反響を集めています。制作のきっかけを教えてください。
「私にとって言葉を尽くすよりも自己表現できることが漫画だったので、生きてきて受け取った素敵なものを全力で形にしたいと思ったのが筆を取った理由です。オリジナルで本格的な漫画を描いたのは本作が初めてでした」
――人と触れ合えない病を抱えた少年と少女のかかわりが胸に響く作品です。物語の出発点は何だったのでしょうか?
「『人と違うままでも愛してくれる人がいる』というテーマから物語を作りました。そこからノワールとフィオが患う病気の内容、キャラクターの性格、舞台が決まっていきました」

――登場人物がみな、苦悩しながらも優しさをたたえた人物なのも印象的です。キャラクターを描く上で軸としたことはありますか?
「“正解の人”と“不正解の人”を作らないことです。柵の外に出るとノワールとフィオにもっと敵対的な人がいると思いますが、彼ら含めて正解の人はいないと思いながら物語を描くようにしました」
――結末は“ハッピーエンド”ではなくとも、どこかに救いを感じさせるものでした。
「この結末は描き始めた当初からぼんやりと決めていました。先述の『人と違うままでも愛してくれる人がいる』とテーマが決まったときに、それならラストには『違うまま愛してもらう』シーンを入れたいと思い、こうした終わり方になりました」
――イラストレーターとしても活動されるめめっぽさんですが、漫画を描くにあたって意識した点はありますか?
「オリジナルの漫画は初めてでしたが、実は既存作品のファンアートなどを含めると、人生で漫画を描いてきた時間の方が長いんです。なので、漫画よりイラストを描く時に挑戦の意識が湧きます。オリジナル作品として意識したことは、読者の方からキャラクターへどれだけ愛着を持っていただけるかによってラストへの興味が異なってくると思うので、前半部分でノワールとフィオ、2人の時間を愛しいと思ってもらえるよう意識しました」
――めめっぽさんのイラスト作品はやわらかな色彩表現が印象的です。モノクロの漫画で苦労したことがあれば教えてください。
「イラストと違い、漫画では設定されたカラーをそのまま再現しようとトーンを貼っても逆にメリハリが消えたりもするので、どこにトーンを貼るか、どこまでをベタにするかといった部分では悩みました」

――今後の創作活動の展望について教えてください。
「本作を描いたのも、小さな頃から夢見た世界を外に出すことの一環だったので、イラストでも漫画でも引き続きそうしていきたいです。私みたいに『こういう世界に行ってみたい』と夢見た仲間が、心を満たせるようなものを描きたいです」
取材協力:めめっぽ(@memeppooo)