“なんで美人なんだよ”美しさが足枷となってしまう芸人の葛藤描く「美人芸人華道笑子」に惹きこまれる【作者に聞く】
「かわいい」「きれい」と、容姿の美しさを無条件で肯定する風潮は今も残るもの。けれど、自分の生き方にとってそれが「足枷」になっていたら…。漫画家の信楽優楽(
@sigaraki777
)さんが2月、自身のTwitterに投稿した漫画「
美人芸人華道笑子
」は、売れっ子お笑い芸人を目指しながらも自身の容姿しか評価されない女性の苦闘を描いた作品だ。

ヤングマガジン第463回月間賞佳作&TOP賞作品を受賞した同作。アイデアのきっかけや作品へのこだわりについて、作者の信楽さんにインタビューした。
笑いをとりたいのに容姿しか認められない…「美しさの足枷」描く読み切り
「被ってるそれスベってるよ」。物語は、怪物の被り物をしたお笑い芸人が、お笑いグランプリで酷評を受ける場面からはじまる。「今年もまたダメだったな…」と落ち込む彼女「華道笑子」の素顔は、自他ともに認めるほどの類まれなる美貌だった。

売れっ子お笑い芸人を夢見て、高校卒業後すぐに上京した笑子。24歳になった今もだがなかなか芽は出ず、マネージャーからは「顔出して行こうよ」と、自身の容姿を活かして女優やモデルとして売り出すことを提案される。
気が進まないものの、仕方なくファッションショーのモデルの仕事を引き受けることになった笑子。持ち前の美しさとスタイルで観客を魅了する笑子だったが、「なんで私こんな事してるんだろ…」と、ステージ上で大粒の涙をこぼしてしまう。

自身の美貌で売り出すことを笑子がかたくなに拒むのには理由があった。小さい頃、子役として華々しい活躍をしていた笑子だったが、流されるまま子役を続けることを苦しく思っていた。そんな時、共演したお笑い芸人と仲良くなった笑子。彼に見よう見まねで作ったコントを披露した体験が心の底から楽しいと感じた彼女は、お笑いの道を志したのだった。

だが、周囲からは容姿のことばかりでネタには見向きもされず、それ振り切るべく顔を隠したお笑い芸人として活動をはじめても評価されない。そんな日々に、なぜこんなにも美人なのだと、自分の容姿を呪って泣きじゃくる笑子。いっそ顔をズタズタに傷つけようかと思い詰める彼女はしかし、「美人」というレッテルを跳ねのけようと奮起する――、というストーリーだ。
「絵なんか描いてないで」自身の葛藤を物語に昇華
叶えたい夢にとってマイナスでしかない自身の容姿に翻弄される女性の苦悩と、「美人はただのフリだから」と、足枷をプラスに変える結末に惹き込まれる同作。自身の体験にアイデアの一端があると話す信楽さんに、本作への思いをうかがった。

――美しさがマイナスになってしまう女性を描いた本作は、どんなところからアイデアが生まれたのでしょうか。
「せっかく取材の機会を頂いたので正直に答えようと思います。着想のきっかけは自身の経験からです。
私はおそらく容姿が目立つ方で、それこそ芸能事務所に声をかけてもらう事もありました。ただ自分は漫画が描きたかったのでそれを断っていたのですが、周囲からは『貴方は絵なんか描いてないで芸能界に行った方がいい』などと言われることもありました。
そうした反応にいろいろと葛藤があったのですが、ある時『この感情を物語にしたら面白いのでは?』と考え、その葛藤を最大限生かせる設定をと考えたのが、顔を出す必要性がある職業で、かつ人を笑わせる実力もなければならないお笑い芸人を美人に目指させる、というものでした」
――そうした設定とともに、美人として描かれるからこそ、笑子の生々しい表情や涙に説得力を感じます。描く上で意識したポイントはどんなところですか?
「作画面では、なるべく笑子が目立って見えるように、黒髪の容姿にしたりと明度のコントラストがなるべく笑子に集中するよう描きました。キャラの内面では『“主人公は芸人になりたい、だが美人である事が足枷となっている”ことを冒頭で提示し、それをクライマックスの見開きページまでに葛藤を繰り返し、解決を経て総括する』という作品の大きな流れとを念頭に置いて描きました」
――「美人はただのフリだから」という見開きシーンは、作中で描かれた笑子の数年が読者に対するフリにもなって印象的です。当初からクライマックスとして想定されていたのでしょうか?
「着想時点から考えると、思いついたのは後になってからです。初期のネームでは、笑子は顔を隠したまま芸人として成功するような話を作っていて、これは自分でもあんまり面白くなく、一緒に作っていた担当さんにもそう言われました。どうしようかと思っていた当時、通っていた美術大学の教授の『生きている限り作品だけで評価をもらえる事はない、しがらみはなくならないよ』という言葉を聞いたのがきっかけで、“容姿より実力を見てほしい”と言う考えに一つ折り合いがついて、ネームの方でも『美人はただのフリだから』というセリフに辿り着けました」
――本作を描く際、挑戦したことや、それまでの作品とアプローチを変えた点があれば教えてください。
「美人を主人公にした所だと思います。それまでは綺麗な顔でキャラを描く事はあっても、それが美人である事を周りから言葉や反応で表すような事はしていなかったので、“美人と設定した”ことがそれまでと違ったかと思います。そのおかげでキャラの印象は強く出来たかなと思います」
――信楽さんは現在、連載作品を準備中とうかがいました。今後の漫画制作への思いを教えてください。
「世に出したい物語がたくさんあるので、漫画が描ける内になるべく形にできればなと思います。とりあえずしばらくはヤンマガWebでの連載に向けて頑張ります。『美人芸人花道笑子』とはテイストの違う作品ですが、応援してもらえたら嬉しいです」
取材協力:信楽優楽(@sigaraki777)