憧れの役者はクラスメイトだった。二人の少女の「強さ」と「弱さ」描く青春短編が胸を打つ【作者に聞く】

観ていた映画で目を惹いた一人の役者。スクリーンの向こう側にいるはずの彼女は、実は同じ学校のクラスメイトで――。

スクリーンの向こう側の俳優と友達同士になった少女。出会いと別れの物語が胸を打つ画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)

漫画家の東洋トタン( @To_Yo_Tutan )さんがTwitterに投稿した創作漫画「むこうがわのアリス」は、憧れの俳優であり同級生でもある少女との、出会いと別れを描いた作品だ。Twitterでは4000件を超える「いいね」とともに、読者から「好き」「女の子の強さに惹かれる」と好評を呼んだ本作。作者の東洋トタンさんに制作の舞台裏をインタビューした。

「強い」友人への憧れと、劣等感。少女たちの出会いと別れの物語

「むこうがわのアリス」01画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)

前情報のないまま観た映画で、ある少女の演技に惹かれた高校生の「中山優子」。新学期、新しいクラスで隣の席になったのが、映画の中の俳優「アリス」こと「牧野花」だった。

「むこうがわのアリス」02画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


役者としてのシビアな演技と裏腹に、素顔は陽気な花。映画を愛する共通点を持った二人は、クラスメイトとして瞬く間に親しい友人同士となった。

「むこうがわのアリス」07画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


優子は、家では抑圧的な母にさいなまれる日々を送っていた。そんな境遇から、スクリーンの向こう側で別人になり切る「アリス」の強さと、俳優というあり方に憧れを持つようになっていった優子。だが、弱い自分には花のようにはなれないと引け目を感じてもいた。

「むこうがわのアリス」10画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


ある日、花から映画の仕事への興味を聞かれた優子。「いいなあって思うよ」と答える優子に、花は「ユーちゃんにもできるよ。きっと」と目指すよう応援する。しかしその言葉で、優子は心の奥底で、彼女に対する劣等感と嫉妬を抱えていたことを自覚してしまう。

「むこうがわのアリス」21画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


そして、その感情が思い違いであったことを、優子は花の突然の転校で知ることになる。父親からDVを受けていたという噂が流れ、自分とは違う強い存在だと思っていた花にも苦しみがあったと気付いた優子。最後に会った日、「自分の夢は自分で守ってあげたいじゃん」と困ったように笑うかけがえない友人の姿を思い出し、優子は涙とともに、ある決意を固める――、という物語だ。

「むこうがわのアリス」34画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


「女性同士の関係性」自らの持ち味を再確認した一作

作者の東洋トタンさんは、COMIC BRIDGEで『ラストサマー・バケーション』を連載するプロの漫画家。「むこうがわのアリス」は、連載以前に漫画賞に応募した作品だという。“花”と“アリス”、一人の少女の二つの姿に惹かれた優子の心情にせつなさを覚える本作を、東洋トタンさんに振り返ってもらった。

――本作は漫画賞に応募された作品とうかがいました。どんなコンセプトで描かれたのでしょうか?

「今も昔も映画が大好きなので、一度映画を題材にしてみようと挑戦した作品です。普段映画を観ていると、『滅茶苦茶いい演技をする無名の俳優さん』の存在に惹かれる事があります。本作のメインキャラである花 / アリスの着想はそこから得ました」

――優子と、彼女がスクリーンで出会った「アリス」こと同級生の花、二人が親しくなっていく過程に引き込まれます。日常の姿はどんなイメージで描かれましたか?

「自分が過去に映画好きの友人と映画館に行ったり、一人でレンタルビデオ屋を徘徊したりしているときの気持ちを思い出しながら描いていました。誰かと映画を観たあとに街を歩きながら『いや~いい映画だったねぇ』と唸ってる時間が好きです」

――そんな二人は、お互いに内心に屈託や事情を秘めています。キャラクターの核になった部分を教えてください。

「この作品においてアリスは“強さ”、優子は“弱さ”を担っています。夢を走り続けるには、誰になんと言われようと、人のせいにしたり、自信喪失したりしない強さが必要だと思います。その強さを持っているアリスの眼差しに優子は憧れつつも、劣等感を感じていました」

「むこうがわのアリス」25画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)


――優子は心中の嫉妬や家庭環境も描かれる一方、花は優子の目から見た姿しか知りえないことが、読者と優子の視点が重ねられるように感じました。

「偶然にも花と友人になれた優子ですが、一切弱みを見せなかった花は優子にとって、ずっとスクリーンの向こう側の“アリス”だったのだと思います。優子の妄想ですが、花が映画のスクリーンから優子に話しかけ、優子が思わず手を出すことで冒頭に観た映画の内容とリンクする……、というシーンはこだわった点の一つです」

――本作で挑戦した点や、苦労した点はありましたか?

「今思い返すと、絵や脚本の勉強が全然できていなかったので、自分の実力とやりたいことに差がありすぎて全ての面で苦労しました(汗)。私の描く作品は女性同士の関係性を描いたものが多いです。本作を描く前に何作か男女の恋愛を描く作品にも挑戦してみたのですが、改めて百合やロマンシスに回帰して『やっぱりこれだな』と再確認できたのはよかったかなと思います」

――また、特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば教えてください。

「1ページ目は、新宿武蔵野館で、上映が始まる前に劇場内の様子を撮影してトレスした光景で、思い入れがあります。新宿武蔵野館では確か『佐々木、イン、マイマイン』を観た気がします。素晴らしい映画です。また、14ページ目のコマ運びには人物の動きが感じられて、個人的にお気に入りです」

「むこうがわのアリス」14画像提供:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)

取材協力:東洋トタン(@To_Yo_Tutan)

この記事の画像一覧(全66枚)

Fandomplus特集

マンガ特集

マンガを読んで「推し」を見つけよう

ゲーム特集

eスポーツを「もっと知る」「体験する」

ホビー特集

「ホビー」のトレンドをチェック

注目情報