許可なく妊娠したと怒られる、新人が1年で辞める…。看護師が職場のリアルを描いた1600本の漫画にあふれる共感!【作者に聞く】
病院での出来事を漫画にしてInstagramで発表している、ぱれちにさん(
@paretiny
)は、現役の病棟看護師をしながら漫画家としても活躍中。2016年から投稿をはじめ、1600以上の作品を公開している。

漫画は「看護師あるある」など、看護師の日常をつづった内容が多い。「(看護師の仕事は)やりがいはある分、大変だしきついし、しんどいし、泣きたくなるし、話聞いてほしいし的なことがめちゃんこ多いので、もう吐き出さないとやっていけません。それを何らか形にしたいと思ったのがきっかけです。(描くことは)最初はゲロを吐く用のガーグルベースン代わりでしかありませんでしたが(すみません)、いろんな人が反応してくださるので、今では楽しい場になっています」
※ガーグルベースン=ベッド上などでうがいした水や嘔吐物を受けるのに使う、カーブした洗面器のようなもの
“ねこにんげん”の看護師・ぱれちにさんの実体験を元に漫画化。ちょっとムカつくことも独特のタッチで明るく表現
漫画の中のぱれちにさんは、ネコのような姿で表現されている。これは「ねことにんげんのハーフです。品種改良です。ねこにんげんです」とのこと。特別にキャラクターを作ったのは「普通の人間だと見ていておもしろくないし、リアルみが出て仕事を思い出しすぎるからです」とか。ほかにも、正義感が人一倍強いねこまるさん、しっかり者のうさぎ先輩などが登場。病院の厳しい現実を、少しほのぼのとした雰囲気に見せてくれる。

Instagramのプロフィールに『看護師向けの漫画を描いている』とあり、コメント欄を見ると現役の看護師が大半。実際に「アンケート取ったら、(読者は)やっぱり看護師さんが多かったですね」という。ネタは『看護師あるある』や、看護師としての仕事にプラスになるような技術的なことが多いが、一般企業に勤めている社会人にも共感できる内容は多い。「読んでいてなにか感情が動かせるものだったらいいなあと思っています。知識としてためになる系もたまに描きますが、描いていて楽しいのはおもしろい話なので、(ジャンルは)エピソード系に傾いているなって感じがします」
新人がどんなことを一番多く言われたのかを表した「私が新人の頃怖い先輩から言われたひらがなのグラフ」や、許可なく妊娠したことを怒られる「上司から言われた理不尽すぎる発言」などは、看護師じゃなくても共感する人が多数。「あとは昔描いた、フォロワーさんの話ですが『4人部屋で患者さんみんな全裸になって、院長先生を待っていたという話』はぶっ飛んでいて好き」など、実際には楽しい出来事ではないことも、笑いに変えて表現してくれるのも魅力だ。


「なぜ看護師になったのか」をテーマにした漫画は、どの人にとっても、仕事に向かう姿勢を考えさせられる
内容は看護師や病院内の話だが、一般的な内容もあり、広く反響があった作品も多い。「『看護師一年目さんが入って数ヶ月でやめた話』は反響が大きかったです。先輩や、同じ一年目さんからの共感する声が目立ちました。やっぱりどこの職場でもあるんだなあと震えました。こわ」。
これは、指導する立場の先輩に向かって、指導方法を見直しすることを助言する内容で、「わかります!使えないって言って辞めさせて、また雇って辞めさせて。育つ前に辞めさせるからいつまで経っても人が増えないです」といった同感する意見や、「指導だけできる環境じゃないから、こうなるんだろーなー」「先輩達だけが一概に悪いわけではないと思うので、先輩の目線でのやり取りも投稿してほしい」と先輩目線で見る人など、さまざまな意見が交差し、考えさせられる作品でもある。









コメント欄に「(自分も)(周りに)似たようなことがあった」という言葉が多数あふれた長編漫画で、読者が登場人物に共感したり、感情移入したりして、コメント欄も盛り上がっている作品「ナース1年目」。この1年目を描いた漫画のなかで、ぱれちにさんがお気に入りのシリーズが「どうして看護師になったんですか」という作品。新人に対して高圧的な態度で接する先輩に、後輩が「どうして看護師になったんですか」と問う話だ。辛い出来事が続くが、読後はさわやかな気持ちになれるはず。






同様に、「ねこしまさんがブラック病院から脱出する話」も、どんな仕事に就いている人にとっても「なぜ、この仕事に就こうと思ったのか」という、初心に返ることができる内容だ。


また、漫画を描くことで、ぱれちにさんの漫画を発表する気持ちに変化も。「新人さん向けの作品とか、新人のころの思い出を漫画にしたものや、逆に怖い先輩のエピソードを描くと、自分も気を付けないとなあと思わされます。DMで『この漫画を読んで勇気をもらえた』や、『私のほかにもそう思っている人がいて安心しました』などメッセージをいただくことも多いので、それが励みになっています」と語る。
これからについては「とにかく体を壊さないように、無理せずに看護師を続けながら、気分転換になるような漫画を描いていきたいです。年々体調を崩すことが多くなってきているので」と、ぱれちにさん。今後もぱれちにさんと一緒に「こんなこと、あるある!」と言いながら、スッキリしたり、感動したりできそう。
取材・文=澤田佳代