プラモデルの未来を創る「プラモを“ライフスタイル”に」【ガンプラ開発陣インタビュー】

40年以上の歴史を誇り、国内はもちろん、海外でも絶大な人気を誇るガンダムシリーズのプラモデル(通称:ガンプラ)。同商品にクローズアップしたイベントやテレビ番組に加え、“製作技術”世界一を決めるコンテスト「ガンプラビルダーズワールドカップ」も定期的に開催されるなど、その人気はとどまるところを知らない。


ウォーカープラスでは、そんなガンプラの“国内唯一の製造拠点”としても知られる、BANDAI SPIRITSの事業所兼工場「バンダイホビーセンター」の取材を実施。企画・設計・金型・原料・成形・デザインというポジションでガンプラ製造に携わる開発陣にインタビューを行った。その模様を全6回の連載形式で紹介する。
第1回となる本稿は、企画チームの諸岡由輔さん。その業務内容や、ガンプラ開発において苦労したエピソードなどを聞いた。

企画チームは“ガンプラ開発の心臓”として全部署と連携
もともとは設計チームに所属していたという諸岡さん。2年ほど設計に携わったあと、企画チームに配属されたそうで、同部署は今年で5年目になるという。業務内容は、商品の企画を考えるところから始まり、試行錯誤しながらの開発、そうして無事に発売されるまで…という、プラモデル製造の全工程に関わるもの。当然、効率よく業務を進めるにはすべてのセクションの知識が必要になる。また社内だけでなく、版権元や協力メーカー、各種取引先とも密に連絡を取り合うことになるので、まさに“ガンプラ開発の中心的ポジション”といえるだろう。
ちなみにガンダムシリーズの場合、他のアニメ作品とは“アニメとプラモデルの関係性”が大きく異なるそうで、新作の企画が立ち上がった時点でホビーディビジョンにも連絡が入り、会議には最初期から同席することになるという。
「モビルスーツ(MS)のデザインに関してクリエイター陣から意見を求められるので、メカデザイナーさんと相談しつつ、商品化も念頭に置いた企画案を提出しています。その他にも、過去のガンダムシリーズのデータと照らし合わせながら、“1クールにつき、何種類のMSを登場させるのが理想か?”といったことも提案したりしています。単純にたくさん登場させれば、商品の売り上げにも繋がる…というわけではありません。劇中でしっかり活躍させないと、お客様の印象には残らないし、何より種類が増えすぎると作画も大変です。その辺りも考慮しながらアニメを制作するバンダイナムコフィルムワークスと話し合って、MSのデザイン案を固めています」
空前の大ヒット!『水星の魔女』のガンプラもプロデュース
そんな諸岡さんは現在、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のガンプラを担当しており、同作のMSのデザインには諸岡さんの意見が多く取り入れられているという。なかでも特に重要視されているのは“機体の関節部”に関する意見だそうで、詳細を聞かせてもらった。


「イラストだけだと想像しにくいのですけど、僕たちは毎日のようにガンプラを間近で見ているので、このデザインだと立体にしたとき、関節はここまでしか曲がらないな…といったことが感覚でわかります。ですので、この腕の曲げ方や足の開き方を再現するなら、関節部位はこうしたほうがいい…といった意見をラフの段階で伝えます。そうして修正を重ねながら、アニメとガンプラ、両方のクオリティをさらに高めるためのお手伝いをさせてもらっています」


メカデザイナーとの交流がターニングポイントに
今でこそ大ヒット商品を担当し、各セクションからの信頼も厚い諸岡さんだが、ここに至るまでには並々ならぬ苦労も経験しているという。企画チームの場合、社内外を問わず人とのコミュニケーションが主な仕事になるが、そこで知識不足が露呈すると相手に不信感を与えてしまうため、勉強のみならず、モノづくりに関する体験にも率先して取り組み、経験値を積んでいったという。
「ファーストインプレッションで“こいつ、知識が浅いな”と思われてしまうと、良い関係は築けないし、仕事も円滑に進まなくなるので、そこは徹底して補うようにしました。企画チームとしてはもちろん、場合によっては会社の代表として行動することもあるので、少しでも早く先輩たちの知識量に追いつけるよう、研鑽を重ねた結果、今に至ります」
そこで気になるのが、諸岡さんが自身の成長を具体的に実感できた、ターニングポイントはいつなのか…という点だ。こちらについて深掘りしたところ、企画チームに配属されて最初に担当したブランド『マスターグレード Ver.Ka』(※)での作業経験が大きく影響しているとのこと。約2年間、メカデザイナーさんとやり取りを重ねて、高品質なガンプラを多数開発。それらを世に送り出してきた経験からは得るものが非常に多かったそうで、以下のように話してくれた。
※:メカデザイナーとして、多くのガンダムシリーズでメカデザインを担当するカトキハジメ氏がプロデュースするマスターグレードブランド。




ガンプラ『マスターグレード Ver.Ka』開発での2年間「職人の考えや心情を汲み取れるようになった」
「設計チームにいたころは、送られてきた企画書を読んで、“自分の作業に必要な情報だけを吸い取る”という考えでしたが、企画担当として他のセクションに情報を発信するからには、その源流にいる人たちの思想にも触れる必要があります。どういった思いでこの商品をクリエイトしているのかを正確に理解しなければならない。そう考えるようになって。毎週のようにメカデザイナーさんとお会いして、開発中の商品だけでなく、これまでに手掛けてこられた作品についても、その歴史や思想を聞かせていただきました。この体験を通して、ガンプラに対する認識が大きく変わりました。ポジションを問わず、クリエイトに関わる方たちの考えや心情を汲み取れるようになり、コミュニケーションも格段に取りやすくなったように思います」
今後の目標のひとつは継承…「後輩の育成も行いながら、幅広い層にプラモを普及させたい」

こうして着実に実績を積みつつ、新たに担当した『水星の魔女』関連の商品は、ガンプラ史上、空前の大ヒットを記録。テレビアニメ、ガンプラともに大成功を収めた“ガンダムシリーズ”として、今後も語り継がれる作品となった。
この度の経験を踏まえ、諸岡さん自身は今後どのようなコンテンツの企画・開発に取り組んでいくのかを聞くと、「後輩の育成も行いながら、より幅広い層にプラモデルを普及していくことが目標です」と即答。さらに深掘りしたところ、以下のように話し、インタビューを締めくくった。
「ホビーディビジョンのビジョンとして“プラモデルをライフスタイルにしよう”というものがあります。数あるエンターテインメントのなかでも、プラモデルはひと際、“コアな趣味”というイメージがありますが、『水星の魔女』がヒットしたことで、これまでプラモデルを組み立てたことがないライト層の方も参入しています。“プラモデルは気軽に楽しめる趣味”という風潮が徐々に浸透しつつあるように感じています。そういったお客様を増やし、なおかつ定着していただくには、“どういった商品を、どのようなスパンで展開していくか?”をよりしっかりと見定める必要があります。もちろん今まで支えていただいたファンがあっての今だと思いますので、ユーザー視点を忘れずに幅広いお客様が楽しめるものにもしていくことが大切です。そして、プラモデルがたくさんの人にとってのライフスタイルになる未来を創っていくことが私たちの使命だと感じています」
※商品の写真・イラストは実際の商品と一部異なる場合がございますのでご了承ください。
取材・文=ソムタム田井