0.1ミリ単位でプラモデルに機能・構造を詰め込む設計思想「作る過程も楽しんでほしい」【ガンプラ開発陣インタビュー】

BANDAI SPIRITSホビーディビジョン・設計チームの小林大介さん撮影:ソムタム田井

40年以上の歴史を誇り、国内はもちろん、海外でも絶大な人気を誇るガンダムシリーズのプラモデル(通称:ガンプラ)。同商品にクローズアップしたイベントやテレビ番組に加え、“製作技術”世界一を決めるコンテスト「ガンプラビルダーズワールドカップ」も定期的に開催されるなど、その人気はとどまるところを知らない。

ウォーカープラスでは、そんなガンプラの“国内唯一の製造拠点”としても知られる、BANDAI SPIRITSの事業所兼工場「バンダイホビーセンター」の取材を実施。企画・設計・金型・原料・成形・デザインというポジションでガンプラ製造に携わる開発陣にインタビューを行った。その模様を全6回の連載形式で紹介する。

第2回となる本稿は、設計チームの小林大介さん。その業務内容や、ガンプラ開発において苦労したエピソードなどを聞いた。

3DCADを用いて、どこから見てもカッコいい造形を追求


小林さんが担当する主な業務は、「3DCAD (キャド)を活用したプラモデルの外観形状および内部構造の作成」と、「量産に耐えうる金型および生産条件を考慮した詳細設計」。

3DCADとは、PC上で直感的に3Dの図面作成ができるソフトで、小林さん曰く「やりたいことや形状を伝える方法として、昔は手書きによる2次元図面を用いていましたが、今は3DCADソフトを活用することで、脳内にあるイメージを3次元的な非常に高い解像度で表現できるようになりました」とのこと。

ちなみに、3DCADでの作成が主流になる以前は、図面といえば正面、側面、背面、上面の図案を2次元で作成するしか方法がなく、それらをもとに立体物を製作したところ、正面からの見た目は良いが、その他の角度から見ると造形が歪だった…ということがよくあったという。

3DCADを使うようになった現在では、画面上で立体的に完成形を確認することができるようになった。それゆえ小林さんは、あらゆる角度からの入念なチェックを欠かさないという。「最近はお客様が思い思いの画角で撮影された商品写真をSNSにアップしてくださっています。そのため、設計の時点で“写真映え”も意識し、360度どこから見てもカッコいい造形になるよう気をつけています。たとえば、足の裏の造形にまでこだわっているので、機会があれば是非お手に取ってみてください」

3DCADを用いて、設定画から立体物を作っていく撮影:ソムタム田井

3DCADなら、ガンプラを360度いずれの方向からも確認できる

HG 1/144 ガンダムエアリアル(改修型)

HG 1/144 ガンダムエアリアル(改修型)


組み立てる過程そのものにも楽しさを盛り込む


前述の設計業務に加え、設計チームでは他のセクションとの細かなやり取りも定期的に発生する。小林さんによると、「企画チームからは、単に商品の企画書を受け取るだけでなく、コンセプトや要望なども理解する必要があるので、細かく話して仕様やコストを検討しています。また設計業務は、金型製作にダイレクトに反映されるため、金型加工時の懸念点などを入念にチェックしています」とのこと。

もちろんその他にも、品質管理チームとは品質仕様の確認、デザインチームとはパッケージや組み立て説明書のチェック、生産チームとは出荷前の製品確認…など多岐にわたる打ち合わせが発生するため、各セクションとのやり取りで慌ただしくなる日も多い。

続けて、設計の業務において“こだわっている点”も質問してみたところ、完成後の造形のカッコ良さだけではなく、「組み立てている過程」にも楽しみを持たせることを意識しているという。

完成時には隠れてしまう部位や、各パーツの裏側も、徹底して造形にこだわっているそうで、「そういった部分もリアルに作り込むからこそ、組み立てている最中もワクワクできるし、これが完成したらどうなるんだろう…という期待値の高さにも繋がると考えています」と思いを込めて話してくれた。

ガンプラの“国内唯一の製造拠点”である「バンダイホビーセンター」にて取材を実施撮影:ソムタム田井


ストレスをなくし、そのうえでとことん作り込めるガンプラを目指す


入社時から一貫して設計チームに所属し、同部署での業務は今年で10年目になるという小林さん。その中でも特に印象に残っている「自身にとって成長に繋がったと思える出来事」を聞いたところ、完全新規のシリーズである『HG 1/144 シャア専用ザクII(オリジン)』を担当したことがターニングポイントになったという。

小林さんが手掛けた「HG 1/144 シャア専用ザクII(オリジン)」の試作造形撮影:ソムタム田井

HG 1/144 シャア専用ザクII(オリジン)

HG 1/144 シャア専用ザクII(オリジン)


このとき小林さんは入社1年目で、通常こうした新規シリーズを新人がいきなり担当することはまずないそう。また、ガンプラそのものに携わるのもこのときが初めてで、可動箇所が大幅に増加するなど、従来のHGシリーズとは一線を画す仕様だったことにもプレッシャーを感じたという。

「ザクの胸部に可動域があり、それによってバズーカの構えが原作に近づけられるなど、こだわりの詰まった商品だったのですが、なにぶん新規のシリーズなので、参考にできる技術や情報が少なく、厳しい状態からのスタートでした。1から自分で考えて、作り上げていかないといけなかったぶん、無事に商品を発売できたときはかなり自信がつきました」

ガンプラ設計への想いを熱く語る小林さん


この時の経験は鮮明に記憶に残っているそうで、今でも設計を行う際は「同じシリーズやグレードの商品でも、商品それぞれで異なる個性や製作体験を提供できるようにしなければならない」ということを強く意識しているという。

とはいえ、パーツの数が増え、組み立ての工程も煩雑になると、それは“取っつきにくさ”に繋がってしまうため「いかにストレスなくプラモデルづくりを楽しんでいただけるか?」ということも、常に意識している課題だという。最後に、これらを踏まえたうえでの今後の展望を話してもらった。

「組み立てのハードルは下げつつ、豊富なギミックで、組み立て中も組み立て後も楽しんでいただくことができる商品を目指しています。そして、より大勢の方にガンプラ製作を楽しんでいただけるようにするためにも、そうした機構をこれからも考案し、形にしていきたいと考えています」

※商品の写真・イラストは実際の商品と一部異なる場合がございますのでご了承ください。

取材・文=ソムタム田井
(C)創通・サンライズ

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