悪霊退治のホラー漫画と思いきや…“適材適所”な除霊描く連作に「有効活用」「凄い発想」【作者に聞く】
さまざまな怪奇現象を起こし、人に災いをなす悪霊。霊力で退治したり未練を叶えて成仏させるのがフィクションの常だが、一風変わった幽霊退治もあるもので……。

矢薙(
@yanaginga
)さんの創作漫画「悪霊を退治する人の話」シリーズは、タイトルや雰囲気とは裏腹な“前向きな除霊”を描く連作短編。pixivでは3万ブックマークを超え、Amazon Kindleインディーズで公開中の無料電子書籍にもシリーズ累計9000件以上の評価がつく人気作品だ。作者の矢薙さんに同作の制作秘話を取材した。
「退治」ではなく「更生」!?斬新な悪霊払いに笑いと感動

「悪霊を退治する人の話」は、怪しげな笑みを浮かべる退魔師を主人公にした連作シリーズ。中でも、矢薙さんが2022年12月にTwitterに投稿した第1話には6万7000件を超える「いいね」を集めた。

外出時、近くで変な足音がすると相談する女性に、「悪霊が憑いてるよ」と答えるけだるげな男。悪霊退治の専門家である彼は、「べとべとさん」の名で知られる霊をあっさりと封印するが、相談者が帰った後、封じ込めたお札を破って悪霊を呼び戻してしまう。

驚く悪霊に、「もっと面白いことしない?」と酷薄な笑みを浮かべる男。悪霊もにんまりと笑い、さらなる悪行を働く――と思いきや、べとべとさんが新たに取りついたのは、白杖をついて歩く目の不自由な女性。霊の足音で周囲の安全を伝えるようになったべどべとさんに、悪霊退治の男はサムズアップを向けるのだった。

ギャップが魅力の心霊作品「温かな気持ちになれるシーンを」
それまでの行いはまさしく悪霊でも、とりつく人や場所を変えて善行をさせるという斬新な“悪霊退治”を描いた短編シリーズ。ユニークなアイデアと、笑えてほっこりするエピソードに、読者からは「凄い発想」「なんて優しい世界」と多くの反響が集まっている。
作者の矢薙さんは同作をはじめ、Twitterを中心にSNSでオリジナル作品を数多く発表する作家。ウォーカープラスでは「悪霊を退治する人の話」を描いたきっかけについて話を聞いた。

――「悪霊を退治する人の話」を描いたきっかけを教えてください。
「元々は『透明人間の話』を考えていた際に、目が不自由な人とのドラマを2パターン思いつきました。そのうちの一つの恋愛話は『暗殺者クリア』という読み切りとして描き、もう1パターンの目の見えない人に霊が道を導く話が、第1話の『足音の悪霊』の話になり、その後シリーズになりました」
――悪霊たちを更生させるというアイデアと、「適材適所」な解決法がユニークです。アイデアはどんなところから考え出されたのでしょうか?
「アイデアは『悪霊の能力』から考える場合と『オチ』から逆算して考える場合があります。人を乗っ取る悪霊関連の話は前者なので、比較的話が作りやすいです」
――いかにも怪しげな主人公とタイトルでホラーを連想するところ、退治の仕方や親しみを感じる悪霊姿とのギャップが魅力的です。
「このギャップは狙っていました。基本4ページでまとめないといけないので、前振りに時間を使わないため強調して描いています」

――本作を描く上で特にこだわったポイントや、作者として思い入れのあるシーンがあれば教えてください。
「後味の悪い終わり方にはならないように気を付けています。特定の思い入れのあるシーンは特にないのですが、1話に1つは温かな気持ちになれるシーンを入れられるように意識しています」
――矢薙さんはTwitterをはじめ、電子書籍などで多くのオリジナル作品を発表されています。今後の漫画制作の目標や展望を教えてください。
「今後もネタを思いつく限り形にしていきたいと思っています。いろんな方々に読んでいただけるとうれしい限りです」
取材協力:矢薙(@yanaginga)