「異世界転生」ってこんなだっけ?“作者が詳しくない”からこその新解釈コメディ漫画がユニーク【作者に訊く】
夏休みに遠出をする人はもちろん、猛烈な暑さでおでかけせず家でゆっくりする人まで、過ごし方はさまざま。そこでウォーカープラスでは、出かけられなくてもおうちでおでかけ気分や別世界に浸れる漫画を特集。

今回紹介するのは、漫画家のsho.t(ゆのこショウ)(
@shoshot005
)さんが公開している「異世界転生モノにさほど詳しくない人間が描いたギリギリ異世界転生しないお話」と、スピンオフ作品の「ISEKAIジョージ」。制作以前は「異世界転生・転移」というジャンルにあまり詳しくなかったという作者が描いたからこその、既存のイメージを覆す展開に多くの反響が集まった作品だ。
「英語の教科書風」や「異世界に転生しない」…お約束を吹き飛ばすアイデアにニヤリ

「異世界転生モノにさほど詳しくない人間が描いたギリギリ異世界転生しないお話」は、主人公の矢田くんが「異世界トラック運転手」にはねられてしまうという導入からはじまる短編作品。異世界転生ものではしばしば交通事故で不慮の死を遂げた人物が気付くと異世界に……、というはじまりが描かれるが、本作ではそれが偶然ではなく故意に転生者を作ろうとしていたと明かされる衝撃的な展開に。

そして、殺されかけた矢田くんの窮地を救ったファンタジー世界の住人とおぼしき装いのパーティーも、異世界からやってきた冒険者などではなく単なるコスプレ仲間と、あくまで現実を舞台に異世界転生もののお約束をぶつけたコメディとして昨年SNS上で注目を集めた。

また同作のスピンオフとして描かれた「ISEKAIジョージ」は、矢田くんの隣人で、いわゆる“英語の教科書の登場人物”のような外国人・ジョージが異世界に転移してしまうという連作。

作品の構成も英語の教材に載っているような会話劇という体裁だが、教科書風のキャラクターが異世界ものでやはりありがちな“チート級に強い”状態になってしまったことから、定番の展開のはずがどんどんとカオスな光景になっていくという読み味が独特な作品でこちらも好評を博している。
情報がないからこその新鮮な視点と好奇心が生んだ独創的なアイデア
読者もイメージや先入観を共有しているジャンルだからこそ、王道展開をひっくり返したり異色の掛け合わせで独創的な作品となっている両作。
こうした作品が生まれたきっかけは、詳しくないからこそそうした“お約束”の裏側の事情が気になったからだとsho.tさんは話す。
「『異世界転生モノにさほど詳しくない人間が描いたギリギリ異世界転生しないお話』では、他の異世界転生もので主人公がトラックにはねられるというケースが多かったので『トラック運転手は仕事として主人公をわざとはねているのでは?』と思ったのがアイデアの元となっています。
『ISEKAIジョージ』も、『何故日本語しか喋れない人が異世界の人と普通に喋れるんだろう』という疑問から、きっと異世界の共通語は日本語なのだと思い、それなら英語しか喋れない人を送り込んだらどうなるだろうという好奇心で続きを描いたのだと思います」

作品を描き始める前、異世界転生・転移を描く作品や、それらを紹介するレビューや動画、また編集者などから話を聞くなどして、「お決まりの様式や流行が存在していることに気づきました」というsho.tさん。転生や転移をしない物語や、RPG的で見るレベルやステータスの概念が存在したりと、戸惑いも多かったと振り返る。
一方「一見すると同じような作品に見えても、導入部分に作家さんごとの個性や演出の工夫が感じられてとてもおもしろかったです」と話す通り、先入観のない状態だったからゆえの視点と、真新しい好奇心が一連の作品に結びついたと言えるだろう。
これらの個人制作でたびたびSNS上で注目を集める一方、商業作家としての活動も行うsho.tさん。今秋には新連載も控えているという。
「9月より『ゆのこショウ』名義でWEBコミックサイト『コミプレ-Comiplex-』(株式会社ヒーローズ)の
『ヒーローズ』
というレーベルで連載がスタートする予定です。

『天津水市「がご」撲滅だより がごはん』というギャグ漫画で、天津水市という熊本県内の架空の街を舞台に4人の一般女性が、“がご”と呼ばれる妖怪のような存在を退治する物語となっています。これまでの作品と併せて読んで頂けるとうれしいです」
取材協力:sho.t(ゆのこショウ)(@shoshot005)