作っているのは商品の“顔”…ボックスアートから完成品写真や取説にまでこだわり、ファンの“組み立てたい欲”を刺激【ガンプラ開発陣インタビュー】

40年以上の歴史を誇り、国内はもちろん、海外でも絶大な人気を誇る『ガンダム』シリーズのプラモデル(通称:ガンプラ)。同商品にクローズアップしたイベントやテレビ番組に加え、“製作技術”世界一を決めるコンテスト「ガンプラビルダーズワールドカップ」も定期的に開催されるなど、その人気はとどまるところを知らない。
ウォーカープラスでは、そんなガンプラの“国内唯一の製造拠点”としても知られる、BANDAI SPIRITSの事業所兼工場「バンダイホビーセンター」の取材を実施。企画・設計・金型・原料・成形・デザインというポジションでガンプラ製造に携わる開発陣にインタビューを行い、その模様を全6回の連載形式で紹介する。
最終回となる本稿はデザインチームの蒔山優さん。その業務内容や、ガンプラ開発において注力しているポイントなどを話してもらった。
パッケージ、取扱説明書…制作時のこだわりとは

デザインチームの主な業務は、パッケージ・取扱説明書(以下、取説)の解説ページ、組立説明図の3点の制作に分かれる。まずは各業務におけるこだわりを聞いた。
パッケージ制作においては、ボックスアートが肝になるそうで、常に「想像を掻き立てるボックスアートづくり」を意識しているそう。
「いかにして、お客様に“欲しい!”と思っていただけるかを大事にしています。ボックスアートはただ格好いいだけではダメで、絵を見た瞬間、その機体の動いている姿やシーンが想像できないといけません」と、作中で活躍するさまが浮かんでくるような、想像力を掻き立てるパッケージに仕上げることを意識していると強調する蒔山さん。イラストレーターと構図について綿密な打ち合わせを行い、ときには印刷所に赴いて色調整に立ち合い、ボックスアートの見栄えにとことんこだわる。

続いて、パッケージの側面や、取説の解説ページで使われる「完成品の撮影」について聞いたところ、「ただ単に『こういう商品ですよ』と伝えるのではなく、その機体の魅力をいちばん引き出せるポーズや構図を考えて、撮影するようにしています」とのこと。

また、設計チームがこだわったポイントを汲み取りつつ、ガンプラファンの「組み立てたい」という気持ちも刺激するよう、ときには2時間以上かけて、商品ギミックが最大限に伝わるこだわりの1枚を撮影することもあるという。
そして、組立説明図の制作におけるこだわりポイントとしては、「初見の方でも詰まることなく、組み立てを楽しんでいただけることを意識しています」と話し、こちらに蒔山さん自身の“組み立ての説明”に対する考えも、強く反映されているのだそう。

「最初から完成品を手にするのではなく、それを自分自身で作り出す“組み立ての工程”こそ、プラモデルの最大の特徴であり、魅力だと思います。だからこそ、組み立てるという行為をよりわかりやすくし、誰でも気軽に楽しめるような工夫を取り入れています。例えばHG『機動戦士ガンダム 水星の魔女』シリーズでは、はめ合わせるそれぞれのパーツのピンと穴に色を付け、位置合わせが一目でわかるようにしています」

そのほか、組立図ひとつにも「どの角度がいちばん見やすいか?」「どういう順番で組めば組み忘れを防げるか?」など、細かいところまで気を配り、デザインに落とし込んでいる。
ボックスアートやパッケージの魅力をもっと伝えていきたい
ここで改めて、パッケージ制作について深掘りしてみることに。
40年以上の歴史を誇るガンプラパッケージだが、伝統に固執せず、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢を大事にしているという。
テレビアニメ最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の商品シリーズでは、10~20代の若い層にも親しまれるようパッケージデザインを一新。雰囲気をガラリと変えて、透明感あふれる白いパッケージに変更したほか、同作のロゴに合わせて、各種テキストもスマートなフォントに変更。10~20代のユーザーにも親しみやすいデザインに仕上がっている。

そこで気になるのが、ボックスアートを手掛けるイラストレーターの存在だ。蒔山さんによると、HGシリーズやMGシリーズなどで、長年にわたってパッケージを手掛けてきたイラストレーターにはファンが多く、「この人のボックスアートだから購入する」というケースも多いという。
その一方で、新しい表現を積極的に取り入れたい…という狙いもあるようで、先述のHG『機動戦士ガンダム 水星の魔女』シリーズでは、作品の世界観に沿った透明感あるタッチを得意とするイラストレーターを採用している。蒔山さんがイラストレーターを探す上で、求めることは以下だという。
「ボックスアートはただかっこいいガンダムを描けるだけでは難しいです。想像力を掻き立てるシーン構成、躍動感溢れるポージングや、機体のディテールといった細かいところまでこだわります。その上で、商品の可動域と照らし合わせてあまりに逸脱したポーズは取らせないよう気を付けたり…。そういった点にも気を配っていただけ、そのうえで機体の魅力や、作品の世界観を表現できるスキルをお持ちの方に、お声がけさせていただいています」
最後に蒔山さんに「今後挑戦してみたいこと」について質問したところ、パッケージそのものに付加価値をもたせる取り組みを進めていきたい、と目を輝かせた。

「パッケージをもっと魅力的に感じてもらうために、デザインや印刷技術についても、こだわっていきたいと思っています。ボックスアートを“ガンプラを構成する大切な資産”として捉え、アナログ的な付加価値だけでなく、デジタル方面でもどんどん新しい展開をしていきたいと考えています。伝統は大切にしつつ、例えばデジタル技術との融合など、新しいチャレンジをしていきながら、パッケージデザインの可能性をさらに広げていきたいです」

取材・文=ソムタム田井
(C)創通・サンライズ