「怖い話になるかと」「いい意味で裏切られました」会話を“AI”に頼る少女描く漫画「チャットボットに頼りすぎた話」が投げかける問い【作者に訊く】
AI(人工知能)の進歩が注目される今、身近な活用例として思い当たる人も多いだろう「AIチャットボット」。調べ物や文章の作成など実用レベルに達しているAIに、気になる相手との「会話」をお願いしたら、事態は思わぬ方向に――。

なまくらげ
(@rawjellyfish)
さんの創作漫画「チャットボットに頼りすぎた話」は、会話が苦手な女の子が、同じ部活の男の子とのチャット会話をチャットボットに代筆させる短編作品だ。X(旧Twitter)上での投稿には1.7万件の「いいね」とともに、読者から「怖い話になるかと思ってた」「温かい話でいい意味で裏切られました」と、その設定や展開からすると意外な結末に多くの反響が集まっている。
技術革新を迎え、もはや“フィクションの話”とも言い切れない過渡期の今だからこそ興味深い同作。ウォーカープラスでは制作の背景について、作者のなまくらげさんにインタビューした。
「本当にわたしの会話?」チャット会話をAIに頼る女の子の意外な展開
主人公の國部琴葉(くにべことは)は、会話下手が悩みの中学生。ある日も、同じ部活の男子・中屋くんにスマートフォンでチャットを持ちかけられ、その返事が見つからずにいた。

そんな時目にした「会話のお悩みをチャットボットで解決サポート」という広告を頼りに、AIチャットボットを試してみることにした琴葉。「どう返せばいいですか?」と質問すると、チャットボットは“それっぽい”会話を提案。その文面で中屋くんに返信したところ会話が繋がったことから、琴葉は会話のほとんどをチャットボットに頼るようになった。

「(自分の気持ちが無くたって楽しく会話はできるんだ…!)」と、その状況を素直に喜んでいた琴葉。だがある時、チャットボットの「おまかせ返信モード」を使用したところ、自分のいない間に会話が弾んだうえにおやすみの挨拶まで済んでしまったことに困惑する。
現実では、中屋くんと顔を合わせて話せないままの琴葉。今までのチャットは本当にわたしの会話だったの――?と思い悩み、それを当のチャットボットに相談するというストーリー。

「現実に近い」SFを、一つの物語として紡ぐまで
手軽で便利なチャットボットに助けられながらも、「自分」というものを見失うことにもなった少女を描く同作。結末はハッピーエンドで締めくくられるが、「人よりも人らしく会話できるAI」が今後本当に生まれるかもしれないことを考えると、AIとの付き合い方を考えさせられるSF的作品ともなっている。
自分が日頃考えていることの一端を漫画に描くことが多いという作者のなまくらげさんに、本作のアイデアや方向性について話を訊いた。
――「チャットボットに頼りすぎた話」を描いたきっかけや、アイデアの発端を教えてください。
「前から『中国語の部屋』という思考実験(註:一見会話が成立しているように見えても、その相手(AI)が実際に内容を理解していると言い切れるか?という内容)が好きで、機会があればチューリング・テストや人の自我をテーマにした漫画を描いてみたいと思っていました。そのうちチャットAIが話題になり始め、上記テーマと親和性が高そうなことに気づき、話を考え始めた流れになります」
――「チャットボットに頼りすぎ」という問題をチャットボットに相談する展開は意表を突かれ、結末が明かされたときにも驚きがありました。それぞれのシーンや、作品の構成はどのように作られていきましたか?
「漫画のテーマについて考えてもらいやすくするため、毎回できるだけ意外性の要素を入れるよう心がけています。AI自身に相談する案については割と初めの段階で浮かんでいました。『的確な回答を用意してくれるけど、あなたは一体誰なんだ』と、AIを一個の他人と捉えて主人公と対比させた形です。結末については、実は苦し紛れに浮かんだ案なのですが、結果的にテーマに合ったよい終わり方になったかなと思います」

――SF的な雰囲気が伝わってくる一方、技術的には既に「現実にありえるかもしれない」ようにも感じました。今回の作品の方向性・演出で意識した点があれば教えてください。
「いつもはテーマを際立たせるために非現実的な設定に落ち着くことが多いのですが、今回は前述の流れから比較的現実に接近した内容になっています。実際に近い分『こういう世界だから』みたいな開き直りが通じづらいなと思い、いつもより設定に整合性を持たせるよう気を配りました」
――ちなみに、なまくらげさん本人はチャットボットやAI技術を普段活用されていますか?
「何回かChatGPTに質問して遊んだことはあるものの、私の保守的な性格もあり、 AI技術を日常で積極的に使うことまではしていません。強いて言えば、一部AI技術を取り入れている外部サービスを仕事などで利用することがある、くらいでしょうか。一般に広く普及するまでは、使用ではなく思考の対象になりそうです」
――先日はコミティアにて新作「幸せになる薬を飲んだ話」を発表され、積極的な創作活動を続けられています。今後の活動や作りたいものについてメッセージをお願いします。
「今後も基本的には趣味の範囲で、自分のペースで創作活動を続けていこうと思っています。漠然と描きたいと思いつつ話が浮かばないテーマが山ほどあるので、なんとか一つひとつ形にしていきたいですね。いつ形になるかはわかりませんが、最近は自由意志と刑法の関係について考えていたりします」
取材協力:なまくらげ(@rawjellyfish)