格ゲーに革命を起こした「モダンタイプ」開発当初、ネーミングで社内は大揉め!?「スト6」の新規ユーザー獲得に向けた戦略に迫る!
対戦格闘ゲームの金字塔として知られ、30年以上の歴史を持つストリートファイターシリーズの最新作「ストリートファイター6」。2023年6月2日の発売以来、ゲームとしてのおもしろさはもちろん、eスポーツの種目としても注目を集めている。
そんな同作のなかで、話題になっている要素のひとつが「モダンタイプ」という操作システム。ストリートファイターをプレイしていて「波動拳」や「昇龍拳」を出すのに苦労した人もいるかもしれないが、モダンタイプではそれらの技をボタン1つで出すことが可能に。このような革新的な試みを多く取り入れたことで、同作の新規ユーザーは大幅に増加しているのだとか。
そこで今回、株式会社カプコン「ストリートファイター6」(以下、「スト6」)プロデューサー・松本脩平さんとチーフディレクター・中山貴之さんに、モダンタイプの誕生秘話や新規ユーザー獲得のために施した工夫などについて話を聞いた。
開発当初、ネーミングで社内は大揉め!?「モダンタイプ」の誕生秘話
モダンタイプは「波動拳」や「昇龍拳」といった必殺技を出せず、挫折してしまうプレイヤーが多かったこと、そしてゲームのハードを購入した時に付いてくるゲームパッド(コントローラー)で操作しやすいという2点を踏まえ、開発された新たな操作方法だ。しかし開発当初、カプコンの社内では、従来の操作方法にあたる「クラシックタイプ」のネーミングに懸念の声があがっていた。そんな当時の様子を、中山さんはこう語る。
「社内では『ストリートファイターII』からプレイしている人たちもいるので、現代的という意味を持つ『モダン』に対し、古典的を意味する『クラシック』は『なんだか古いプレイヤーみたいで嫌だなぁ』という声もありました。ただ、クラシックには“伝統的”という意味もあるんだよと認識を変えてもらって、いざ一度目のベータテストにて操作方法を発表したんですが、思いのほか名称に関する批判が少なかったんです。これ以降、社内でも『そういうものなのかぁ』みたいな雰囲気になっていきました」
モダンタイプは、クラシックタイプより簡単な操作方法というわけでなく、あくまで“新しい操作形態”とのこと。そのため、eスポーツの大会においても、モダンタイプでの参加が許可されている。そんななか、一部でモダンに対する批判が起こったことにより、モダン派とクラシック派に分かれるという、通称「モダン論争」が巻き起こった。
これを受け、中山さんは「こうした現象もある程度織り込んで制作していました。荒い言葉になっちゃいますが、『モダンが強いと思うんだったら、使えばいいんじゃない?』というのが私たちの提案です」と語る。また、開発にあたって、使用する操作用デバイスやキャラクターとの相性も考慮したそうなので、自身のプレイ環境や使用キャラクターに適した操作方法を選択してみてはいかがだろうか。
自分の対戦が実況される!eスポーツを楽しめる要素の数々
そんなモダンタイプの採用により、多くの新規ユーザーが参入しており、中山さんは「松本にも友人に勧めやすくなったと言われてうれしかったですね」と話す。また中山さんいわく、操作性以外にも新規ユーザーの獲得を見越した要素があるという。
「今までも対戦格闘ゲームを楽しむ人は多くいましたが、大会やオンライン対戦などを除けば基本的にひとりでプレイするものでした。長年プレイしている人であれば、対戦のなかで何がすごくて何がおもしろいのかがわかるので、例えばeスポーツの大会を観戦していても盛り上がれます。ただ、これから始める方はどこが盛り上がるポイントなのかがわかりません。そこで新規のプレイヤーに向けて、“実況と解説を付けてプレイできる”システムを導入しています」
プレイヤーはもちろんのこと、eスポーツの大会を観戦している人のことも意識しているそうで、新たに追加された「ドライブシステム」では、ダイナミックな演出が見られるなど盛り上がれる要素が多くある。「これらのシステムで対戦することの楽しさを知ってもらえるとうれしいです。そして願わくば、eスポーツの大会を楽しむきっかけになればと思っています」と中山さん。
『スト6』の世界を自由に駆け巡れる!?対戦格闘ゲームの枠を超えた「ワールドツアー」
周知の事実であるが、これまでストリートファイターシリーズは「対戦格闘ゲーム」というジャンルで認知・支持されてきた。しかし「スト6」においては、そんな当たり前を大きく覆す「ワールドツアー」というモードがある。自分だけのアバターを作って、同作の世界を自由に駆け巡れるというシステムだ。
「私と松本は、前作『ストリートファイターV』の開発時、途中から合流したこともあって、作品の課題点を客観視できたんです。そこで、もし次回作を制作するなら、ワールドツアーのようなモードを作りたいなと考えていました。また、開発のゴールとして『コマンド入力で波動拳が出せる』『リュウが好きなものは水ようかん』であることさえわかってもらえればいい。それくらい敷居を低く設定して自由に作りました。つまり対戦格闘に限らず、ユーザーの好みに合わせた楽しみ方を提供したかったんです」
また、これまでのメインユーザー層は30代中盤以降だったのが、「スト6」では20〜30代に変化。メインユーザーの年齢層が、ここまで下がったのは初めてとのことで、これについて松本さんは「多くの娯楽があふれる時代のなかで、興味を持っていただいてから、楽しいと感じてもらうまでの時間が短縮できたことは大きいのかなと感じています」と話す。
一方で、昔からのプレイヤーに対するアプローチもあるそうで、中山さんは「シリーズ36年の歴史を感じていただける小ネタを作品内に散りばめているので、ぜひ探してみてください」と話した。こうした要素を探しながらプレイしてみるのも一興かもしれない。
いつ訪れても楽しめる場所を提供したい!今後の「スト6」の在り方
さらに同作では「バトルハブ」と呼ばれる、いわば巨大なオンラインゲームセンターのようなモードが用意されている。「私自身、かつて顔が見えない相手と対戦することに戸惑いがありました。まだまだそうした人たちが少なくないので、バトルハブを通じて、オンライン対戦に対するハードルが下がってくれるとうれしいです」と中山さん。
「バトルハブを担当してくれたプランナーが地方在住の方でして、東京や大阪などにあるゲームセンターの活気あるコミュニティの様子を見て、常々すごいなと思っていたそうです。そのプランナーを含め、私たちは都会に住んでいなくても、バーチャル上で集まって盛り上がれる場所を再現したいという思いがあって、それらを体現したのがバトルハブです」
「スト6」は発売以降、「CAPCOM Pro Tour 2023」「EVO」「Crazy Raccoon Cup」といった大会で注目を集めており、シリーズ史上最大級の盛り上がりを見せていると言っても過言ではない。今後も数々の大会が控えるなか、松本さんと中山さんは、同作の展望についてどのように考えているのだろうか。
「eスポーツシーンは、今やプロゲーマーの方が参加する大会だけでなく、アマチュアの大会などさまざまな形で開催されています。こうして盛り上げてくれている熱を絶やさないように、コンテンツを追加していくのが私たちの使命です。それこそバトルハブ内では毎月新しいイベントを開催しているので、常に新鮮な体験をお届けできるのかと思います。そのほか、コラボグッズの展開や地域とのコラボイベントなども企画していたり、過去の催しを振り返っていただけるような仕掛けも用意しています。『スト6』から始めた方でも存分に楽しめるコンテンツとなっていますので、ぜひ手に取ってみてください!」
開発チームの革新的な作品づくりによって「スト6」は、従来の対戦格闘ゲームというジャンルの枠を超え、多くの新規ユーザー獲得に成功した。これから新たにプレイする人は、己の腕を試すために世界中のプレイヤーと競い合うのも良し、ワールドツアーやバトルハブで対戦格闘以外のコンテンツをエンジョイするのも良しだ。
取材・文=西脇章太(にげば企画)