彼女の手料理「茶色すぎる」と言ったらプロポーズで振られた…「料理にダメ出しをする夫」の記事が制作のきっかけに【作者インタビュー】

5年付き合った彼女の料理にいつも「でも」や「しいていうなら」とアドバイスする男って…?画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

鮎美が作る夕飯は、筑前煮やサバの味噌煮など勝男が好きな和食がメイン。勝男は「美味しい」「いつもありがとう」と言いつつも、「しいていうなら、全体的におかずが茶色すぎるかな?」とアドバイスした。この関係が順調だと思っていた勝男は、しかし、6年目の記念日にプロポーズをすると振られてしまう。失って初めて、彼女がどれだけ丁寧に料理を作っていたかを知る、 「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(ぶんか社)を紹介する 。「今夜すきやきだよ」(新潮社)で、第26回 手塚治虫文化賞 新生賞を受賞した谷口菜津子さんの最新作だ。


出汁を取って、飾り切りをして作られた「筑前煮」をただの煮込み料理だと思っていた

【漫画】「じゃあ、あんたが作ってみろよ」第1話画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社


大学時代、パーフェトカップルといわれた勝男と鮎美。常に完璧を求めてきた勝男は、鮎美の手料理に「でも」「しいていうなら」といつもアドバイスをした。この悪気のない言葉が、どれだけ時代錯誤で世間とズレているかを知るのは、別れてからになる。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(2)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

勝男は、子どもの頃からモテ街道を歩んできた。しかし、合コンで「筑前煮を作れる彼女がいい」「和食が作れたらもっと魅力的」と話すと「この世代にそんな化石みたいな人いたんだ!」と言われてしまう。さらに「じゃあ、筑前煮作ってみたらどうです?」と部下のアドバイスを受け、勝男は実際に筑前煮を作ってみることにした。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(17)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

出汁を取るのはとても手間なこと、サヤインゲンは彩りのために別ゆでする必要があること、筑前煮はただ煮込めばいい料理ではない。勝男は飾り切りされていた鮎美の筑前煮が、どれだけ手間をかけて作られていたのかを知る。

「完璧」でありたいと彼女に自分の理想を押し付けていた

今回は、本作の誕生のきっかけや込められた思いについて、漫画家の谷口菜津子さんに話を聞いた。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(8)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――付き合ってまもなく6年目になろうというカップル。プロポーズがきっかけで別れることになった2人が生まれたきっかけを教えてください。

SNS上で時々見かける「料理のダメ出しをする夫への不満」を読んで腹が立ったり、悔しい気持ちになったりすることがあるのですが、もしその「料理のダメ出しをした夫」が自らそのダメ出しをした料理を一から作ったらおもしろいだろうなと思ったのが、この作品のアイデアの種でした。そこから編集さんとどんな兄弟構成なのかとか、好きなドラマはなんなのかとか、想像しながら勝男と鮎美のキャラクターを作っていきました。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(14)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――勝男が振られてから自分の価値観が間違っていたと気づき、再起するストーリー。キャラクターを作るうえで参考にしたもの、こだわったところはありますか?

学生時代からの女性の友人が「女の子らしい髪型が好きだし、スカートも好き。恋愛対象の異性に対しても”男らしい”姿を見てキュンとくる。でも、今の時代それを口にしちゃいけないのかな?」と言っていたことがありました。それを聞いて、当時の私はジェンダーのことや個人の自由など、問題がいくつも重なっているように感じ、何て答えていいかわらず考え込んでしまいました。同時に、学生の頃から変わらずにいると思っていた彼女が、いろんなメディアから発信されている価値観の変化を感じ取って、自分の趣向に疑問を持つということができていることに少し感動したりもしました。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(15)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

そして、これは単行本1巻の後書きにも書いたのですが、「自分自身は本当についていけているのか?」と思うことが年々増えてきていることにも気づき始めました。勝男が主人公なので、男性が価値観を更新する物語のように捉えられるかもしれませんが、どんな方でも変わることへの希望が持てるような物語にしたいと願って、ストーリーやキャラクターを作っています。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(16)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――タイトル「じゃあ、あんたが作ってみろよ」が目に入った途端、読みたくなりました。とてもいいタイトルですが、どのように決めたのでしょうか?

1話の内容が決定しタイトルを考えてるとき、とある芸人さんが、同棲している恋人にご飯を作ってもらっておきながら「今日の献立、茶色いね」みたいなことを言ってしまい、それを聞いた恋人が泣いてしまった、というエピソードを話されていたのを思い出しました。

茶色い料理は美味しいものが多いにしても「頑張って作った料理の感想がそれはしんどいだろうな」と思いつつ、このような「うざい料理へのダメ出しをタイトルにするのがいいんじゃないか?」と考え始め、結局、そのセリフに対するツッコミのような感じで「じゃあ、あんたが作ってみろよ」というタイトルにすることにしました。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(22) ※単行本1巻では、1色の掲載になります。画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――第1巻が発売されましたが、見どころを教えてください。

勝男の成長と、鮎美の自分探しを見守っていただけたら幸いです。単行本1巻では、おまけでささやかな4コマが数本収録されています。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(25)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――続きは、どちらで読めますか?

電子雑誌「 comicタント 」で毎月最終金曜に配信中です。1巻の続きとなる第8話は、2023年12月29日(金)配信のvol.49に収録されています。各種電子ストアで、分冊版も配信中です。

じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(27)画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社

――そのほかに、どのような漫画を描いていますか?

2024年は「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に加えて、別媒体になりますが”発酵”をテーマにした漫画を連載予定です。 トーチweb でも不定期にSF短編漫画を掲載していただいているので、こちらもよろしくお願い致します。

作ってくれた料理に対して「これ味見した?」「味付けした?」と意見したり、当たり前のことだから「おいしい」も「ありがとう」とも言わない人が多いのでは?料理を全くできない・しないのに、ダメ出しをする人は、勝男視点・鮎美視点それぞれの価値観の違いを読んでみて欲しい。


取材協力:谷口菜津子(@nco0707)

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