「もはや世界地理の教科書」販売本数100万本突破した『桃鉄ワールド』が実況で盛り上がるワケ

世代を超えて一緒に楽しめるゲームとして、株式会社コナミデジタルエンタテインメント(以下、KONAMI)が販売する「桃太郎電鉄」(以下、「桃鉄」)シリーズをあげる人も多いのではないだろうか。2023年11月16日には、最新作「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」(以下、「桃鉄ワールド」)が発売され、人気を博している。

日本から世界へ舞台を広げた「桃鉄ワールド」は、YouTuberや配信者を中心に話題となっており、2024年1月の時点で累計販売本数が100万本を超えるなど、注目を集めている。35年にわたる長寿シリーズなわけだが、なぜこれほどまでに支持され続けているのだろうか。

今回は「桃鉄ワールド」の監督・ゲームデザインを務める桝田省治さんとシニアプロデューサーの岡村憲明さんに、同作の誕生経緯と開発の裏側、さらに累計販売本数100万本突破した理由について聞いた。

今回取材に応じてくれたのは、ゲームデザインを務める桝田省治さんと(画像左)シニアプロデューサーの岡村憲明さん(画像右)【画像撮影=西脇章太】


東京五輪で見たことある国旗を!「桃鉄ワールド」の開発経緯


――前作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」(以下、「桃鉄 令和定番」)は、文字どおり定番の「桃鉄」スタイルを踏襲していますが、「桃鉄ワールド」では一転、世界を舞台に選んだ理由は何ですか?

【桝田省治】「世界戦略」ですね。将来的に海外展開を考えた際、これまでの内容では売り上げが見込めないと思ったんです。そのため、アメリカやヨーロッパなど、世界各地のマップで遊べるほうがより市場で受け入れられるだろうという考えのもと、開発しました。

【桝田省治】当初、どの程度の規模でプロジェクトを始めるか検討していたとき、東京オリンピックの開会式の行進を見て、「桃鉄ワールド」を体験した子どもたちが、テレビの画面に映る国々を見て「桃鉄で行ったことがある!」と言えるような体験を提供したいと考えたんです。ただ、後から思うと、それはかなり無茶な目標でした。

【桝田省治】というのも、オリンピックには200〜300の国と地域が参加しているわけで、それぞれの「物件駅」を入れるだけで300くらいになってしまうんです。さらにその多くが聞き慣れないし、場所もわからない地名なんです。これまでの作品は日本のマップだったので、たとえば「北海道であれば北にあるよね」といった共通認識がありましたが、これが海外の地名になると、途端にただの文字列になってしまうんです。

【画像】「桃鉄ワールド」の貧乏神「世界旅行ボンビー」【画像提供=KONAMI】


【桝田省治】とはいえ、ゲームとして成立させなければいけないので、プレイヤーが地球上のどこにいるのか、どのルートを選ぶのが最適かを簡単に理解できるようにする必要がありました。つまり、全く新しいマップや聞いたこともない地名を使いながらも、いつものように「桃鉄」を楽しめるようにするのが本当に難しかった...。誰もが知ってる地名といえば、有名なニューヨークとかロンドンなど数えるほどしか出てこないんですよ。

【桝田省治】ほかにも、聞いたことがないような場所がたくさん出てきて、それをゲームとして機能するようにデザインする必要があったので、とても大変でしたし、大きな挑戦でしたね。

「ニューヨーク」(到着駅)【画像提供=KONAMI】


日本基準で作れない!「ワールド」ゆえの苦労とは?


――今回「地球の歩き方」が物件監修したと伺いましたが、共同制作が実現するまでの経緯ついてお聞かせください。

【桝田省治】開発するうえで、物件を購入するために必要な資金、収益率、そして物件のカテゴリー。正直これらの要素が明確であれば、ゲームとしては成立するんです。ただ昨今、「桃鉄」は教育的な価値があると言われているじゃないですか(笑)。それもあって、私たちはいろいろな国の文化について一生懸命調べたのですが、やはり日本人の視点からの情報が多く、英語やスペイン語、中国語でさえもネット検索では正確な情報を見つけにくい状況でした。

【桝田省治】ときには個人のブログを調べることもありましたが、いずれも不確かな情報しかありませんでした。ニューヨークなどの世界的に有名な都市では、すぐに多くの優良な物件が見つかりますが、あまり知られていないアフリカの都市などを調べると、地名以外の情報がほとんど見つからないなど、調査は難航していました。

【桝田省治】そこから「これで正しいはずだ」と仮説を立てて、開発チーム内で購入した物件の検証を行い、さらにKONAMIの関係者にも見てもらいました。なかには鉱山が実際には閉山していたなど、予期せぬ発見もありましたよ。そうした試行錯誤のなかで、岡村さんが「タイアップ先を探してきたよ」と紹介してくれたのが、「地球の歩き方」でした。

西アフリカのガーナの首都「アクラ」(到着駅)【画像提供=KONAMI】


――「地球の歩き方」にオファーした理由とは?

【岡村憲明】実際、世界各地にある観光地だけでなく、もっと広範な視点から、地球を巡るような詳細な情報とその精度に自信を持って語れる専門家がいるのは「地球の歩き方」の編集部の方々だなと思い、オファーをさせていただきました。

【桝田省治】印象的だったのは、ニューカレドニアで『天使のエビ』が名物だと知って、それを提供する食堂をゲーム内に登場させようと考えていたのですが、編集部から「『天使のエビ』は高級品で現地で消費されることはほとんどなく主に輸出されています」と言われ、大幅に修正することになったんですよ。

仏領ニューカレドニアの首都「ヌーメア」(到着駅)【画像提供=KONAMI】


――各地でそういった事例が起きたということですよね?

【岡村憲明】そうですね。「地球の歩き方」の編集部には、世界の地域ごとに担当者の方々がいらっしゃるようで、各地の情報を正確にゲームとして反映できました。こうしたやり取りを通じて、「桃鉄ワールド」のクオリティーはかなり高くなりました。「地球の歩き方」の編集部の方々の深い知識とご協力には本当に感謝しています。

――世界が舞台ということで「あいさつ」の種類も多岐にわたりますが、音声収録の様子はどうでしたか?

【桝田省治】「あいさつ」の音声を収録する際は、世界各地のスタジオをインターネットでつないで行いました。たとえば、ヨーロッパの都市の学生を集めて録音し、数時間後には南米のスタジオへ切り替えるというやり取りがあったり、時差のために相手の国では早朝や深夜であることも多く、途中で人が抜けることもあったりなど、いろいろな経験をさせてもらいましたよ。

「南極基地」(到着駅)も採用されている【画像提供=KONAMI】


――今回のマップは球体ですが、こちらも開発するうえで苦労したことはありましたか?

【桝田省治】正直、技術的な課題よりも、実際に地図を描いたり配置を考えたりする作業が、予想以上に困難でした。送られてくるデータはすべて平面なんです。そしてゲーム制作の終盤になって、ようやく白い地球上に直接データを描き込むことができました。それまでの主な手法は「メルカトル図法※」を使ってやり取りしていました。ただ、メルカトル図法を用いると、たとえばロシアのように横に広がる国は大きく表示され、ほかの地域を圧迫してしまうんです。
※地球を平坦に引き伸ばして表現する図法のこと。北極や南極に近づくほど、実際の面積よりも国が大きく表示される。

【桝田省治】その結果、ある程度ゲームの基本方針が固まり、細かい調整へと移行する段階で、マップを一から組みなおしました(笑)。「この方法では無理だ」という結論に至りましたね。また、リアルにすることと、ゲームとしてのおもしろさは別問題なんだとも感じました。というのも、実際には海が陸地を圧倒的に上回っており、これをそのまま再現すると、ゲームのマップ上で街がほとんどない状態になってしまうんです。かといって、海上を移動し続けるだけでは全くおもしろくありませんよね。結局、海上のマスの間を広げることで解決したんですが、この解決策にいたるまでが本当に大変でした。

最初は空路をメインにしたそうだが、『桃鉄』とはまったく違うゲームになってしまったのだとか【画像提供=KONAMI】


【桝田省治】また、楽しさを最優先するため、ゲーム内で独自の空路を設定するなどの工夫をしました。さらに地球を回転させる演出を随所に入れて、プレイヤーが場所感覚を掴めるようにしました。たとえば、日本のマップで北海道から京都へ移動する場合、空路や日本海を回る航路、本州を縦断するルートなどがありますが、地球上で考えると西回りか東回りかで最短距離が変わります。加えて、ゲームが進むとプレイヤーが分散し、位置関係が複雑になります。

【桝田省治】そこで、都度地球を回転させてプレイヤーの現在位置やその他必要な情報を画面上に明示しました。これまでは日本という限定された範囲内である程度ごまかしが効きましたが、世界規模ではその限りではないことに気づかされました。そして開発過程で感じた苦労をプレイヤーにも体験してもらいたくて、「地球の裏側カード」を作りました(笑)。

――「地球の裏側カード」にそんな誕生秘話があったとは!

【桝田省治】このカードを使うと、プレイヤーは現在地の反対側に飛ぶのですが、ほとんどが海に出てしまい、あまり役に立ちません。ただ日本の裏側がブラジル、イギリスの裏側がオーストラリアであるなど、意外な発見もあります。過去にイギリスが犯罪者をオーストラリアに流刑にしていた意味なんかもわかったりして。プレイヤーのみなさんも、ぜひ使ってみてください。

「地球の裏側カード」。各地の裏側わかるという、教科書では学べない興味深い知識だ【画像提供=KONAMI】


教育的意義も!️楽しみながら学べる「桃鉄」の魅力とは?


――では、これほど細部にまでこだわりを持って開発を行う理由は何ですか?

【岡村憲明】先ほど桝田さんもおっしゃったように、「桃鉄」シリーズは今や教育的な価値を持つゲームと考えています。実際、教育現場向けに開発した「桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~」(以下、「桃鉄 教育版」)も展開しておりますので。

【岡村憲明】小学生のプレイヤーの皆様が、「桃鉄」で間違ったことを学んでしまったら大変ですので、そのあたりは神経質に考えています。また、世界を日本人の観点だけで捉えてしまうと、理解できないことの是非もあると思いますし、日本の常識が世界中で通用するわけではない、という風にも考えています。まず私たちが勉強して、子どもたちに見てもらえるようなゲームを作ろうと心掛けました。おこがましいですが、今回の「桃鉄ワールド」を通して、プレイヤーのみなさんが、世界への興味を持つきっかけとなればいいなと思っています。

【桝田省治】おこがましいついでになりますが、累計販売本数100万本を突破したこともあり、おそらく世界の地理に最も詳しいのは日本人ではないかと思います(笑)。

「物件」もワールドワイド【画像提供=KONAMI】


――「桃鉄ワールド」は、もはや世界地理の教科書と言っても過言ではないですよね。

【桝田省治】そうなってくれているとうれしいですね。ちなみに「桃鉄ワールド」では「マイワールド」という地球を、ゲームのマップとは別で配置しています。これは自分が行った駅やプレイしたイベントなどが、地球上に配置されていくのですが、これを回すのが楽しいんですよ。さらに回している人は、位置関係がある程度わかっているから、その時点で世界の地理にかなり詳しくなっていると思いますよ。

「マイワールド」を眺めていたらいつのまにか世界の地理に詳しくなっているかも【画像提供=KONAMI】


――ゲームで学べるとなれば、子どもたちも喜んでプレイするでしょうしね。

【岡村憲明】先ほどお話した「桃鉄 教育版」は、教育とエンターテインメントを組み合わせた「エデュテイメント」というジャンルに属すると思います。このプロジェクトには、小学校の先生やエデュテイメント分野の第一人者として知られる著名な先生にご協力いただいています。気づかないうちに知識が身につくプロセスこそがエデュテイメントの本質で、遊んでいるうちに自然と覚えてしまう。そういう意味では「桃鉄 教育版」は教育に貢献していると思いますし、「桃鉄ワールド」も同じように楽しんでいただければと思っています。

世界の偉人に関するエピソードも多く収録されている【画像提供=KONAMI】


累計販売本数100万本突破!その秘密は配信文化にあり


――累計販売本数が100万本を突破したとのことで、これはYouTubeをはじめとする配信文化が大きく影響しているのではないかと思いますが、どう思われますか?

【桝田省治】確かにYouTubeをはじめとした配信文化の影響は、ひとつの相乗効果だと考えています。とはいえ、「桃鉄」はもともと家族や友人と集まって楽しむゲームで、その雰囲気が配信に近いものがあるんですよね。それに加え、コロナ禍で外出できないなかで、配信という形で「桃鉄」の人気が拡大していったのだと思っています。つまり「桃鉄」はそもそも配信に向いていて、「桃鉄」にやっと時代がフィットしたわけですね(笑)。

「ばらまきボンビー」【画像提供=KONAMI】


――では、累計販売本数100万本を突破したことについて、率直な感想をお聞かせください。

【桝田省治】これは、狙いどおりです(笑)。「桃鉄ワールド」の開発では、“実況映え”する要素を徹底的に追求しました。たとえば人が笑ったり、コメントが飛び交ったりするシーンに注目し、なぜウケているのかを何度も研究したんです。また、カードやマップの配置、ゲームバランスを細かく調整し、より実況に適したゲームを作り上げた結果が、この累計販売本数100万本だと思っています。

――最後に、今後どのような「桃鉄」を作りたいと考えていますか?

【桝田省治】現在「桃鉄」とは何かという、本質的な部分について深く考えています。人によって「桃鉄」の定義は異なると思うんですよ。それこそ世代やシリーズ作品をどれだけプレイしたのかでも変わってくるでしょうし、ほかのゲームとの比較など多様な視点があるはずです。そこで「桃鉄」の概念をいろいろと変えた、いわゆるパイロット版をすでにいくつか作っています。いずれもおもしろいんですが、「はたしてこれは『桃鉄』か?」というようなものもたくさんあります(笑)。

次回の『桃鉄』は一体どのような作品になるのか【画像提供=KONAMI】


――つまり、新しい「桃鉄」を期待してもいいということでしょうか?

【桝田省治】現在開発中のどれかは、いずれ形になると思います。現在、本当に多くのアイデアを試していますので、ぜひご期待ください!

【岡村憲明】「10年、20年続くゲーム」になるといいなと考えていたのですが、「いやいや、50年は続けないとダメでしょう」と言われるようになってきました。私が引退しても、「桃鉄」が長く愛されるゲームシリーズであり続けることを願っています。その実現のために、これからも新しい挑戦をしていきたいと思っています。そして、多くの皆様から愛されるゲームを目指して、これからも開発に取り組んでいく所存です。

――今後のシリーズ展開を楽しみにしています!本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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