統合失調症の患者から、この世界はどんなふうに見えるのか?発症した本人自ら描く漫画が大反響【作者に聞いた】

統合失調症の患者から、この世界はどう見えているのだろう?体験した人でないとわかりにくい感覚を、発症した本人が描くコミックエッセイ 「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる ~統合失調症の私から世界はこう見えた~」 。23年春に書籍として発売され、丁寧な心理描写や優しいタッチの絵柄が素敵と反響を呼んでいる。

「街に出れば大勢の人が私に注目し、暗号で話している」「私は特別な人間に違いないのだ」

著者のHimacoさんは、果たしてどんな思いを込めて描いたのか。漫画を作ることになったきっかけや、伝えたいことを聞いてみた。

※症状の内容には個人差があります。漫画はあくまでHimacoさんの体験を元に描かれたものです。

患者自らが描く「世界の見え方」がリアル

100人に1人が罹患すると言われる 「統合失調症」。決して珍しくはない病気だが、幻覚や極端な妄想など、症状が通常の精神状態からはかけ離れているため、その理解は必ずしも進んでいるとは言えない。

Himacoさんは22歳のころとても不思議な感覚を得た。頭が回りすぎるくらい回転して鋭敏になり“思考が飛躍”。脳が勝手に、どんどん小さな情報を拾ってはストーリーを作ってしまうようになる。

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電車で隣に座った人の貧乏ゆすりを「何かの暗号か?」と脳が解釈してしまったり、テレビでは「いつも自分のことが話題になっている!」と錯覚してしまったり。

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まさか自分が発症するとは思っていなかったというHimacoさん。いつの間にか統合失調症に陥っていくまでの描写は秀逸で、他人には突飛に感じられる妄想が本人にとっては筋が通った感覚であるということがよくわかる。「統合失調症のことをあまり知らない人にも発症時の体験を想像してもらいやすいように、表現を工夫しました。なんでもない日常から幻覚や妄想にいたるまでの道筋を描いています」

お気に入りは、発症編にある服薬した後のエピソードだという。「妄想が広がらなくなってホッとするんじゃなく、症状が激しかった頃の鮮やかな世界が色褪せてしまった喪失感を描きました。感じ方は人それぞれだと思いますが、私の場合は『見て聞いて信じた世界が間違いだった』と気づいたとき自分の存在が足元から崩れるような感覚でした。当時ショックが大きかったぶん印象的で、それをうまく表現できたように思っています」

病の受容も大きなテーマに

症状がやや落ち着いてからも、社会復帰を焦る中で再び精神的な不調に陥ってしまう。それでも徐々に病を受け入れ、やがて自分のペースで生きていくことを決意する。

Himacoさんは「それでも生きていく」というエピソードをぜひ見てほしいそう。「誰しも老いや病によって、思ったように生きることが難しい時期があるかもしれません。避けられない現実に対して、どんな態度を取れば“自分が嬉しくなる”のか考えるというお話です。切り替えて受け入れろ!という話ではなく、抗い続けてもいいし、自分を責めるのも自由だと思います。ただ、自分が嬉しくなる生き方ができたらいいなと考えて描いた思い入れのあるエピソードです」

さらに「当事者の方やそのご家族の方、そしてこの病を身近に感じたことのない人にぜひ読んでいただきたいです」とHimacoさん。水彩画タッチの優しい絵柄でつづられ、統合失調症を知らない人にも病気のことを知ってもらえるこの作品は、さまざまな生き方について考えるきっかけになるだろう。

取材・文=折笠隆

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