「鳩のフンが降ってくることを想像してください」日常生活のテンションを自在に操る斬新な思想とは?【作者に聞いた】
動物、お金、食文化などさまざまなモチーフを題材に、シリアスとギャグを詰め込んだ4コマ漫画を描くのは、漫画家・イラストレーターとして活躍する雪のヤドカリ
(@yukinohotel)
さん。意味がわかるとおもしろい、じわじわ笑えてくる「癖になる文学的なオチ」を味わってみてほしい。
今回は、殺人現場で一度は言ってみたいセリフ「犯人はこの中にいる!」を放つ名探偵などを含む、推理をテーマにした4コマ漫画をご紹介。編集者が著者に取材する形で、その創作の秘密に迫る。




これだけのメンツに囲まれた旅館で呑気に推理をしている探偵さん。よく考えると、この次に殺されるのは100パーセント探偵なのではないかと思われる。居ても立っても居られなくなり、探偵が生き残る術を雪のヤドカリさんに聞いてみた。
雪のヤドカリさんは慌てる様子もなく、こう答えてくれた。
「即座にパンイチになり、警察が到着するまで葉っぱ隊のYATTA!を踊り続ければいけます」
そんな抜け道があったとは、まったく気がつかなかった――。




証拠物件の匂いを嗅いだ犬の推理と、それに対するツッコミが最高な4コマ漫画だった。「分かり方」という、この体言止めツッコミを日常使いしたいと思った僕は、雪のヤドカリさんに体言止めツッコミのコツを乞うた。
すると雪のヤドカリさんは「まずは、普段から述語で締めない生活を心がけてください」と平然と語り出した。
それだけでは体言止めツッコミを会得できそうになかったため、具体例を出してもらうことにする。
雪のヤドカリさんは続けてこう言う。
「お渡しします、資料」「拝受しました、メール」「とりあえず、生」
「こんな感じで体言止めで話し続ければおのずと身に付きます。私はこの言葉遣いが原因で3回クビになりましたが」
何事もリスクなしには体得できないようだ。




訳知り顔の鑑定士もどきが見せたテンションの高低差が最高な4コマ漫画だった。このテンションの高低差も日常使いしたいと思った僕は、再び雪のヤドカリさんに突撃して、コツを教えてもらうことにした。「教えてください、コツ」
「鳩のフンが降ってくることを想像してください」
突然何を言い出すのかと思ったが、僕は言われた通り、鳩のフンが降ってくる様子を想像してみることにした。
「いいですか?」と雪のヤドカリさんは続けて言う。
「目の前に美しいダイヤの指輪があるとします。『わあ!きれいな指輪だ!!』とテンション高めの感想を持つ、ここまでは普通ですよね」
少し沈黙…。
「では指輪に鳩のフンを落としてください」
え!
「テンションが下がりますよね。『美しいダイヤの指輪だが、鳩のフンまみれだから10円の価値もないな』と」
フンまみれ…降ってきた鳩のフンは一発ではなかったのだ。水で洗って磨けば復活するのではないかと思ったが、確かに一度鳩のフンにまみれた指輪だとわかっていながら、もう以前のようなテンションで指輪を綺麗だと思えないことに気がついてしまう。
「これです。このように日ごろからすべてのテンションが上がる事象に鳩のフンを落とし続ければ、テンションの高低差を自在に操れるようになるのです。メメント・鳩フン。鳩のフンを想え、というわけです」
とんでもない思想だった。恐るべし、鳩のフン。




さて、またまた名推理をかました探偵さん。今度こそ、次殺されるのは確実に探偵さんだと思われる。むしろ今まで生き残っていたのが不思議でしょうがない。彼は殺しても意味のない些末なゴミだと思われていたのだろうか?
探偵さんの行く末について聞いてみると、雪のヤドカリさん「そう言われて初めて気づきました。あのように軟弱げな探偵だけが生き延びているのは本当に妙ですね」と目を閉じ、首を傾げた。
そして少し考えてからこう言った。
「倒れているのは全員探偵の助手で、彼をかばって皆死んだということにしておいてください」
今回は「体言止めツッコミ」と「テンションの高低差の日常使い」について伝授してもらった。明日からの世界が変わりそうだ。
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