楽屋の「スト2」ネタからカプコン常連芸人、そしてEVO挑戦へ。格ゲーお笑いコンビ「NOモーション。」に実直のYASが訊く!【格ゲー夜話】
目次

格闘ゲームシーンの舞台裏を、今最もHOTな格ゲーストリーマーのひとり・YASが切り取る連載企画「実直に訊く!YASの格ゲー夜話」がスタート。記念すべき第1回のゲストは、「スト2」音ネタでバズり、現在はカプコン公式配信の顔としても知られるお笑いコンビ「NOモーション。(ノーモーション)」。お笑いと格ゲーの二刀流でEVO挑戦を果たす2人に、コンビ結成の秘話からネタの裏側、そしてプレイヤーとの関係性や配信カルチャーの変遷まで深く訊いた。舞台は“格ゲーファンの隠れ家”、日本酒バル「BET.50(ベットハーフ)」。

格ゲーお笑いの実力は唯一無二!お笑いコンビ「NOモーション。」
格闘ゲームの新規ユーザー層を開拓し、ストリーマーをはじめ配信シーンでも大ヒットし全世界500万本突破の「ストリートファイター6」。その公式大会「CAPCOM Pro Tour」配信で一際異彩を放つのが、ケンとエドモンド本田に扮したお笑いコンビ「NOモーション。」だ。
「星ノこてつ。」と「矢野ともゆき。」の2人からなるNOモーション。は、スト6リリース以前の2018年、スト2の音ネタというディープな格ゲーモノマネの動画がTwitter(現X)で拡散され、日本のみならす海外のユーザーにも大ヒット。現在では本家本元であるカプコンのイベントにも多数出演するなど数あるお笑いコンビのなかでも特異なポジションを確立している。
2025年夏、アメリカ・ラスベガスで行われる世界最大の格ゲー大会「EVO」挑戦へのクラウドファンディングを達成し、お笑いと格ゲーの二刀流で世界の舞台に挑むNOモーション。の2人を、スト6国内屈指のリュウ使いとして知られるYASさんがインタビュー。格ゲーファンの隠れ家として知られる東新宿の日本酒バル「BET.50(ベットハーフ)」にて、格ゲー芸人としてのターニングポイントやネタの舞台裏、EVOへの思いをYASが聞いた。


はじまりは「ベジータとナッパ」だった!?NOモーション。が格ゲー芸人に至るまで
【YAS】はじめに、どんなコンビかあらためて自己紹介をお願いします。
【星ノこてつ。】どうも、格ゲーモノマネ、そしてゲーム全般大好き・サブカル大好き「NOモーション。」です。NOモーション。のエドモンド本田、職業本田、「星ノこてつ。」と。

【矢野ともゆき。】「手加減は期待しないでくれ。」……ケンと言い張ってます、「矢野ともゆき。」です。

【矢野ともゆき。】もともと別々のお笑い芸人として活動してたんですよ。僕がトリオで、彼がピン芸人で。岐阜のものまねショーパブで会いまして。
【星ノこてつ。】仕事で呼ばれたショーパブに、その日は誰もお客さんがこなかったんです。だから楽屋でずっと8時間ぐらいしゃべっていて、「なんか趣味合いますね」と。
【YAS】お互い、格ゲーが趣味という。
【矢野ともゆき。】僕は最初、ゲーム業界に行きたくて北海道から上京してきたんですよ。当時ゲームの専門学校に行きながら、新聞奨学生として四谷三丁目で配達して。その頃、彼は四谷三丁目の太田プロの養成所に通っていて。
【星ノこてつ。】ちょうどその頃(四谷三丁目に)1つだけゲームセンターがあって、格ゲーやってたら毎回当たるやつがいたんですよね。(岐阜のショーパブで)「あれ、ZERO3でダルシム使ってた?」「もしかしてリュウ使ってた?」って話になって。
【矢野ともゆき。】もしかしたらそこで戦ってたのかもしれないと。
【YAS】10年前に出会っていたかもしれない。運命的なものを感じますね。
【矢野ともゆき。】知り合ったあたりりから、ドン・キホーテに(『ドラゴンボール』の)ベジータとナッパの衣装が売られるようになって、そのとき相方から「ベジータとナッパでユニットコントをやらないか」って提案されて。そのモノマネコントから「NOモーション。」がはじまりました。
【YAS】最初からゲームネタではなかったんですね。
【星ノこてつ。】ゲームも趣味だし、アニメも趣味だから、最初はアニメキャラクターのモノマネコンテンツなんですよ。

【YAS】今、ベジータのモノマネと聞くと、R藤本さんのイメージが強いです。
【矢野ともゆき。】僕らがやったときはR藤本さんは大阪で。同時期に別々の場所でベジータのモノマネやっていたみたいです。
【星ノこてつ。】R藤本さんが東京に出てきて、「あっちは吉本だから戦うのやめよう」ってことで、(北斗の拳の)ケンシロウとハート様に変えたんですよ。そうしたら今度、また吉本芸人からケンシロウとモヒカンのコンビ(お笑いコンビ「キャベツ確認中」)が出てきちゃって(笑)。
【矢野ともゆき。】で、そんなこんなで、モノマネ芸人としていろいろやっているなか、オーディション番組の楽屋で「スト2」のものまねをふざけてやってたんですよ。「ラウンドワァン」って言ったら、周りの芸人にめっちゃウケてて。「それ、オーディションで見せました?」って。
【星ノこてつ。】こっちは、「スト2」で地上波に出られるわけないと思ってるじゃないですか。
【矢野ともゆき。】で、あるとき、フジテレビのモノマネオーディションの一番最後に「ラウンドワァン」…
【星ノこてつ。】「ユーウィン!」
【矢野ともゆき。】ってやったら、審査員から「……それは衣装ありますか?」と聞かれて、「もちろんです。あります」と。(その当時、スト2の)衣装なんかあるわけないんですけど(笑)。
【YAS】このチャンスを逃すわけにはいかないと。
【星ノこてつ。】(手芸用品の)オカダヤに写真を見せて、「エドモンド本田の青い縦縞の浴衣と同じ生地ありますか?」って聞いたら「似たカーテンがあります」と言われたので、それを3メートル買って自作しました。
【矢野ともゆき。】正味870円ぐらいでした。
“スト2の音ネタは世界共通”格ゲーあるあるの舞台裏

【YAS】NOモーション。にとって大きなターニングポイントですね。
【矢野ともゆき。】そのモノマネでMVPをいただいて、そのときに視聴者の方がYouTubeにそのネタをアップしてバズったんですけど、(テレビ番組の違法アップロードなので)すぐに削除されて。
【星ノこてつ。】でも、そのときのネタでNOモーション。を知った方から「レトロゲームを扱うイベントにゲストとして来てください」と声がかかったんです。その営業風景がXでバズって、800万表示ぐらいいったのかな。日本のだけじゃなくて、海外の方がすごい見てくれたらしいんです。しかも(ゲームセンター)「ゲームニュートン」の松田(泰明)さんがリツイートしてくれて。僕らもまったく計算してなかったんですけど、「スト2」の音ネタって世界共通だったんですよ。
【矢野ともゆき。】今みたいに海外音声ってまだなかったから。「(タ)アイガー!」って言ったら海外版も「(タ)アイガー!」。
【星ノこてつ。】「ヨガフレイム」って言ったら世界中の人が笑いますからね。海外から「めちゃくちゃおもろい」って言われて、「そういえば同じ声かー」って、あとから気づいたみたいな。
【矢野ともゆき。】そのバズりのおかげで、カプコンさんから「東京ゲームショウのストリートファイターアニバーサリーコレクションブースに出演してください」と。そのあともスマホゲームの「スト2」コラボ衣装が出たときにゲストでと、仕事をいただけるようになりました。
【YAS】そこからカプコンさんとのつながりができたんですね。
【星ノこてつ。】そのあとコロナ禍があって、オフライン大会がオンライン開催になったじゃないですか。CPT(カプコンプロツアー)の日本語実況が始まったときに僕らに白羽の矢が立って。「ストリートファイターV」のシーズン3ぐらいかな。おかげ様で、その辺りでゲーム好きな方に知ってもらえるようになりました。
カプコンさんも試験的にやってくれたと思うんですけど、ありがたいことに格闘ゲームに興味なかった人が「なんか(NOモーション。)おもしろいからCPTを見る」みたいなことが増えてきたらしくて。で、たとえばいろいろなメーカーのキャスターさんがキャラの格好しだしたり、そういうスタイルの走りになったのかな、みたいな。


ギリギリを攻めながら笑いに昇華(NOモーション。)
【YAS】この機会に、格ゲーネタの裏側についても教えてください。NOモーション。のネタに「ゲームあるある」がありますが、あれはどこまでが実体験なんですか?
【星ノこてつ。】ほぼ実体験です。
【矢野ともゆき。】コントにしたらこいつがちょっと大げさにするという。厳密に言うと、たとえば「スト2」の倒される声のモノマネは「うわーうわーうわー…」ってエコーをかけてるんですけど、これってスーパーファミコン版だけなんですね。アーケード版は「ううーーーー」って長いんですよ。ただ、テレビで見せるときにエコーのほうがおもしろいだろうっていうことで、ちょっと脚色したりしています。
【星ノこてつ。】こっちはわかってやってるんですけど、わからない人はそういうものだと思いますし。あと、スーパーファミコンでやってたっていう人たちには、むしろそっちのほうが馴染み深かったりとか。
【YAS】伝わりやすさや、おもしろさ、を優先しているんですね。逆に「やりすぎた」ネタってありますか?
【星ノこてつ。】一番は、カプコンさんに「生配信で格ゲーをやってる風景を撮りたい」って言われて。その収録時、倒しきるときに「死ね!」って言ったことですか。
【YAS】それはまずい(笑)。
【矢野ともゆき。】「おー、ラインを超えたかー」「これは超えましたね」って、大和(周平)となない君にフォローされるという(苦笑)。
【星ノこてつ。】めちゃくちゃ怒られましたよ。偉い人に「ちょっと」って呼ばれて、「何してんだ?」って。でもそういうことで、配信はテレビとはまた違う媒体なんだってことは学んでいきましたね。
【矢野ともゆき。】CPTで、中サイコアッパーの空耳でとあるIPを連想するネタをやったんですけど。本社に配信をチェックする部署があるらしくて「矢野さん、そのネタはもういじらないようにしていただいて」って連絡が飛んできたり。そういうギリギリを攻めながら笑いに昇華して、「ちょっとやりすぎたかな」ってスタッフさんの顔色を伺いながら、いつもブレイク入って「怒られなかったー」ってホッとしてます。
【星ノこてつ。】だからそういうネタは、オフイベントに来てくれた人には見せられるように、ということもしています。


【YAS】お笑いの現場と格ゲーの現場、それぞれの空気ってどんな違いがありますか?
【星ノこてつ。】うーん「どこまで冗談通じるかな」みたいなところはありますけどね。
【矢野ともゆき。】僕らも模索してますね。厳しく言えば「実況解説にお笑いいらないだろう」って人もいらっしゃるだろうし。
【星ノこてつ。】最近は、現場で一緒になったプロゲーマーさんから「僕らは『こういうことがあった、こいつがおもしろかった』をうまく伝えられないから、もっと絡んで話してほしいって言われます。
【矢野ともゆき。】去年、SFLのグランドファイナルにレポーターとして呼んでもらったんですけど、やっぱり真剣な舞台なんで。僕らも真面目にレポートしたりして。そうしたら直前の楽屋で、プレイヤーの方から逆にボケてもらったりしてね。
【星ノこてつ。】去年はすごい大爆笑でした。ずっと鶏めしさんが浮いてたり(笑)。プレイヤーさんたちが「NOモーション。がなんとかしてくれる」って投げっぱなしでボケてくれたり、そういう関係値を築けているのが僕らもうれしいなって思います。
【矢野ともゆき。】あと、お客さんのなかにも「彼氏がCPTを見ていて、私はもともと格ゲーには全然興味なかったんですけど、2人がお笑いで盛り上げるのがおもしろくて、見てたら私もスト6にハマっちゃいました」みたいな人とかもいて。
【星ノこてつ。】そういう意味で、架け橋になったり、興味がない人を引き込む役には立てているのかな、それはやっててよかったなって思っています。もちろんゲームがおもしろいからなんですけど、きっかけの一歩になればなと。
「笑いと勝負」ファンの声が後押しした、本家EVOへの二刀流挑戦

【YAS】先日、EVOへの挑戦クラウドファンディングが208%で達成されました。スタート前はどんなお気持ちでした?
【矢野ともゆき。】いや、絶対達成しないだろうと思ってました。それこそ、スタートからずっと「本当に増えるのかな」って(クラウドファンディングの進捗率と)にらめっこしていたんです。最初の10分ぐらいはまったく入らなくて。
【星ノこてつ。】2人で通話しながら「あ、1人入った!」「7980円、すごいね」みたいな。
【矢野ともゆき。】そのうち、ちょっと寝ようかなって寝て、起きたら達成してたんですよ。120万円!
【星ノこてつ。】CPTだったりがきっかけで、全国の見ている方が本当に応援してくれたなって。一番うれしいのが支援者のコメントなんです。全部見られるんですよ。支援してくれたお金の額もそうなんですけど、クラウドファンディングのページに並ぶコメントが、まあうれしくて。
【矢野ともゆき。】僕が死ぬときは、コメントを全部印刷したやつを棺桶に入れてもらうと思います。

【YAS】配信でもそうですけど、応援のコメントって何よりもうれしいですよね。モチベーションになりますもん。
【星ノこてつ。】本当にそうですね。「こうなるところを見たい」って具体的なコメントももらえたので。だからラスベガスに行っていいお土産というか「ああ、行かせてよかったな」って思ってもらえるようなものを持って帰れるように、今から頑張らなきゃいかんと。
【矢野ともゆき。】(リターンに)モノマネビデオレタープランというものあったんですけど、「旦那と結婚10年目で、2人とも格ゲーマーでストVのCPTから好きで見ています。旦那へのサプライズで動画をください」というのもいただいたり。
【YAS】ちなみに、EVOの現地ではどんな活動を予定されていますか?
【星ノこてつ。】今回EVOに挑戦したいってきっかけになったのが、「僕らがバズった最初の『スト2ネタ』を、世界の格闘ゲーム好きの前で見せたいな」だったんです。ほかの現場でも、海外のキャスターやプレイヤーに合うと絶対その(スト2)ネタを知っていますし。
【矢野ともゆき。】「カプコンカップ11」の両国国技館の現場ではTasty SteveやSaint Cola、それにViciousにお会いして。「ライウーライウー」って言ったら「ライウー!I know,I know!」と、会えてうれしい、海外のキャスターみんな知ってるよ、EVOには来ないのか、って。「クラウドファンディングで行きたいと思います」と言ったら「絶対成功を祈ってる」「着いたら君たちは迷える子羊だから僕が面倒を見てあげるよ」とやり取りさせていただいて。
【星ノこてつ。】そういうこともあって、最初はパフォーマンスをメインで考えてたんです。けどこの前、EVO Japanでクラウドファンディングのリターン品を直接渡すって企画をやったんですよ。そこで多くの方が「せっかくEVOに行くんだから、パフォーマンスよりも格ゲーがちゃんと強いところを見せてください」と言ってくれて。
僕らの頭の中では「どうパフォーマンスしようかな」でしたが、これまでのEVO Japanを見ても、コスプレする人がゲームをしているところをあまり見ない。逆に、コスプレイヤーなんだけどちゃんと大会にも出ている人には「めちゃくちゃ親近感湧くな」と。それは海外の人もそうじゃないかなってハッとして。格ゲーをちゃんと練習して、大会にもエントリーして、出来はともかく「やっときゃよかった」ってならないようにやろう、パフォーマンスと大会の二刀流で行ってみようと。
【矢野ともゆき。】で、あわよくばネタをやっていて、「君ら、明日EVOのステージ出ちゃいなよ」みたいな展開を期待しています。
【YAS】最後に、読者へのメッセージをお願いします。
【星ノこてつ。】格闘ゲームをもっと多くの友達に広めて、コミュニティを広めていきましょう!
【矢野ともゆき。】そしてNOモーション。を呼んでください。
【YAS】大事なことですね(笑)。
【矢野ともゆき。】自主的に大会を開催されている方とかもいっぱいいらっしゃるじゃないですか。そこに“笑いのエッセンス”がほしい方は、ぜひ呼んでいただければと!
【星ノこてつ。】場が堅苦しくならないように“ほぐし屋”としてね、NOモーション。を知っていただければと思います。
【YAS】ありがとうございました!

取材協力:日本酒バル「BET.50」
住所:東京都新宿区大久保1-1-11コントワール新宿209