サンプル品の故障が招いた身震いするトラブル。笑い過ぎて腹筋に影響が出る読者も【作者に聞く】

東京ウォーカー(全国版)

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日常に転がるちょっとした事件を、ドライブ感あふれる筆致でユーモアたっぷりに書き、Twitterとnoteで配信しているやーこさん(@yalalalalalala)。抱腹絶倒の展開と劇的なオチの真相は不明、謎多き存在だが、その世界観に魅了されるファンが増え続けている。

そして、やーこさんのファンアートを投稿し続け、ファン界隈では神絵師とも言われているイラストレーター・栖周さん(@sumiamane)の作品も笑いの起爆剤となり、ますます人気を集めている。

そんな話題の2人がコラボした連載「猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました」がスタート。やーこさんの笑いしか生まれないユーモラスな文章と、その笑いを加速させる栖周さんのイラストを、やーこさんのコメント付きで全10回にわたり毎週お届け。前半の5回はTwitterで反響が大きかった人気作を、後半5回は初公開の新作を紹介する。

第2回となる今回の作品は、あるサンプル品によって一人の男性がとんでもない状況になった「サンプル品を触ったら思いも寄らない怖い目にあった話」。思わず笑ってしまう可能性があるので、念のため周りに人がいないか確認してから読むのをおすすめする(気にしない方はそのままお読みください)。

【サンプル品を触ったら思いも寄らない怖い目にあった話】


個人経営の小さな家電屋に入った。店内を見回すと、子供の頃に欲しかった押すと国名を音声で読み上げてくれる地球儀が置いてあった。思わず懐かしくなり、私はオーストラリアをそっと押してみたが壊れているのか音は鳴らなかった。

すると、見知らぬオヤジが入店し、すぐさま店主に向かい「商品の置き方が紛らわしくて音の出ない普通の地球儀を買ってしまった。サンプルで展示されている物も音が鳴らなかった」と怒り始めた。オヤジが店主に熱く主張をしているなか、私は諦めきれず地球儀を何度か押していたところ奇跡的に音が鳴った。しかし、何度も押した為か「オーストラリア」と発声するところを何故か
「ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ」
と、謎の音が延々と鳴り響いた。オーストラリアの身に何が起こったのだろうか。



「レシート捨てたけど……」
「ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ」
「紛らわしい置き方が悪……」
「ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ」
怒るオヤジの背後で私の押した地球儀が荒ぶっている。気のせいであってほしいが、先程からオヤジの訴えを妨害している気がしてならない。私はオーストラリアを中心に猛り狂う地球を黙らせようと、懸命にオーストラリアを押した。しかし、それがオーストラリアの怒りに触れたのか、加えて不気味なメロディの様な音も流れ出し事態は更に悪化した。ただ一言地球儀に「オーストラリア」と言ってほしかっただけであるのに大変な事になってしまった。地球儀を押しただけでこの様なホラー展開が待っていようなどと誰が想像できただろうか。次第にオヤジの口数は減っていった。私は店主に声をかけ助けを求めた。
「地球から悲鳴が……」などと、環境破壊を語るうえでしか表現しないような言い回しを日常会話で使う日が来ようとは思わなかった。しかし、店主を持ってしても地球を鎮(しず)めることはできなかった。



店主は地球儀を両手で持ち、様々な角度からスイッチを探したが不気味な音は我々の鼓膜を揺らし続けた。

地球儀はしばらく荒ぶり続けた後(のち)、何故か最後に
「めきしこ……」
と、呟き沈黙した。心なしか儚げであった。

私と店主は地球儀に翻弄され、途中から怒っていたオヤジの存在を忘れていた。ようやく思い出しその方向に視線を向けると、オヤジは口元を綻ばせ肩を震わせながら我々から顔を逸らしていた。最後の「めきしこ……」がオヤジに効いたようであった。ここで吹き出しては体裁が保てないと思い、必死に耐えているのだろう。オヤジの先程までの勢いは地球儀と共に沈静化された。オヤジは最後の力を振り絞り
「もう買った物を喋る地球儀と取り替えてくれれば良い」
と、肩を震わせながら願い出た。しかし、店主の口からは
「この飾ってあるやつしかないですね」
と、絶望的な言葉が発せられた。オヤジには音が鳴らぬ普通の地球儀と引き換えに、音が鳴りすぎる不気味な地球儀しか残されていなかった。無い方がむしろ気が楽なレベルの在庫であった。 

オヤジはついにレジに手を置き沈んでいった。地球の悲鳴の次はオヤジの腹筋が悲鳴をあげている声が店内に響き渡った。 (終)

「サンプル品を触ったら思いも寄らない怖い目にあった話」イラスト1(栖周)

「サンプル品を触ったら思いも寄らない怖い目にあった話」イラスト2(栖周)

「サンプル品を触ったら思いも寄らない怖い目にあった話」イラスト3(栖周)



この作品について、やーこさんは「あの喋る地球儀は子供達の憧れである。だが、私は子供の頃から今に至るまで殆どまともに押せた事がない。大抵電池切れを起こしている状態で無言を貫かれる。唯一鳴ったのがこの『ボボボボボ』と『めきしこ……』であったが、なんなら『めきしこ……』は店主が鳴らしたので、私はやはり妙な音しか鳴らしていない」とのこと。

また、その場の雰囲気を迫力あるイラストで表現した栖周さんは、「国名を読み上げてくれる地球儀…憧れの一品です。それがまさかこれほど腹筋を刺激する凶器となるとは…。やーこさんの作品にはクレーマーさんが登場する話がいくつかありますが、おおむね笑顔で終わります。笑顔の原因が奇妙奇天烈極まりないのが最大の魅力です」と話す。

暴走する地球儀によって沈められた男性が無事であることを祈りたい。

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