サイレント映画×ピアノのライブ体験を劇場で!「キネピアノ in テアトル梅田」

2021年3月16日 08:54更新

関西ウォーカー

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サイレント映画の上映にピアノの演奏を添えるイベント「キネピアノ」が大阪梅田の映画館「テアトル梅田」で2021年3月20日(祝)、21日(日)に開催される。

主催は、関西の映画情報サイトの「キネプレ」。運営するシネマパブ「ワイルドバンチ」(大阪・天神橋筋六丁目)ではこれまでも、チャップリンやバスター・キートンなどのコメディから、SFドラマ、アート映画などさまざまなサイレント映画を店内で上映し、サイレント映画専門の楽士・鳥飼りょうさんの即興ピアノ生演奏と合わせて映像世界を楽しむ「キネピアノ」を多数開催してきた。今回は、そのおでかけシアター版。劇場内にアップライトピアノを持ち込んでのサイレント映画最盛期さながらのイベントとなる。

また、このイベントのためだけに作成されたポスターにも注目!ビジュアルデザインを手掛けたのは、アメリカのディズニー公式イラストレーター、大阪在住のカズ・オオモリさんだ。アメリカ本国で展開されるディズニーやマーベルのポスターデザインを手掛けている彼が、このイベントのためだけに、世界で1枚しかないポスターを制作した。

上映作品は鳥飼さんが選んだ極上の2本。このイベント開催に伴い、昨年12月に座談会が行われた。今回はその様子をご紹介!

サイレント映画の歴史や大阪で開催する意味、ディズニーとの仕事で培った公式イラストレーターのカズさんならではの手法が使われていることなど、ここでしか聞けない裏話が飛び出した。

左からカズ・オオモリさん、武部好伸さん、鳥飼りょうさん


サイレント映画の歴史とは?日本で最初の映画上映地は、京都ではなく大阪!?

座談会のゲストは3人。1人目は、今回のイベントでピアノ演奏をする楽士の鳥飼りょうさん。2人目は、著書「大阪『映画』事始め」(彩流社)で日本における映画上映は、京都ではなく大阪・難波が発祥地だということを提唱しているエッセイストの武部好伸さん。ケルト文化、ウイスキーなどいろいろなテーマにも精通している。3人目は、ポスタービジュアルを担当したカズ・オオモリさん。チャップリンが大好きでサイレント映画にも深い興味を持っている。

「フランスのリュミエール兄弟が作ったシネマトグラフで撮影した作品が初めてパリで有料上映された、つまり映画として興行されたのが1895年12月28日。日本での興行は2年後の1897年の2月15日で、大阪の難波、今のTOHOシネマズなんばがある場所なんですね。これまではそれに先んじる上映は京都が最初というのが定説だったんですが、調べてみると実は興行だけでなく上映も大阪が先だった。当時、欧米でのサイレント映画には、よくピアノ演奏がありました。なぜかというと、映写機を回すハンドルの音がうるさくて、それを消すために演奏していたそうなんです」と武部さんが解説。

では、日本でどんな伴奏をしていたのかというと「ラッパやクラリネット、太鼓で伴奏していたようです。その後、日本全国へ映画巡業をするようになっても、演奏はジンタ、つまり、今のチンドン屋さんスタイルだったんですよね」と武部さん。

司会のキネプレ森田さんが「三大喜劇王とされるチャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドはアメリカでは絶大な人気があり、興行成績は現代の大ヒット作の比ではないと聞きました」と言うと「そうなんです。サイレント映画の最盛期は1920年代。稼ぎ頭はどんどん稼ぐし、大作もたくさんできました」と鳥飼さんが付け加えた。

「いわゆるマナーCMですよね」。こんなジャンルもあったんだという驚き!

サイレント映画の歴史や大阪との関わりが話題に上ってきたところで、まずは、今回のイベントでも上映される『迷惑帽子』を鳥飼さんの演奏付きで鑑賞。実はこれ、劇場での注意事項を伝えるマナー広告だったのだ。

『迷惑帽子』。1909年作のコメディ。大混雑する劇場に大きな帽子の女性が入場。当時の衣装や劇場の様子もわかる作品


「当時のファッションは帽子が人気でした。大きくて飾りも華やかだったので、それをかぶったままだと周りの人も映画が見にくいので取りましょうね、といういわゆる『マナーCM』みたいなもの。それを、おもしろおかしく3分に収めた作品です」と鳥飼さんが解説。

武部さんは「これまでいろいろなサイレント映画を観てきましたが、これは初めて。コメディ仕立てでおもしろい!当時の劇場の中にいるような感覚になりました。鳥飼さんの演奏は、ピアノが単なる伴奏じゃなく、踏み込んだ心理描写まで表現しているのがすごくおもしろいと思う。ピアノが視覚化されていて、もはや、ひとつの『妙』ですよね」

カズ・オオモリさんも「ほんとに贅沢な時間でした!映画を観る時ってこの先はどうなるんだろうとワクワクしますが、物語がピアノの音と同時に展開されていく、映像と音の一体化に感動しました。CGがない時代に、合成で動きに工夫を凝らしていて映像もすごいです。そこまでいく?というストーリー展開もすばらしいですよね」と言うと、「そう!ちゃんと映画音楽として観客を引っ張っていくんですよね。ピアノと映像との親和性があるのがよくわかりました」と武部さんが付け加えた。

イベントでは『迷惑帽子』のほか、バスター・キートン主演の『キートンの大列車追跡』と、D.W.グリフィス監督の『散り行く花』を上映する。

『キートンの大列車追跡』は1926年作のコメディ


『キートンの大列車追跡』は、南北戦争中のアメリカ南部を舞台に、列車の機関士であるジョニーが愛する恋人アナベルと北軍のスパイに強奪された「将軍」という名の機関車を取り戻すべく、たった1人で奮闘するアクション映画。サイレント映画の基本である「追っかけ」を本物の機関車で撮影した名作だ。

『散り行く花』1919年作のヒューマンドラマ。映画の父、D.W.グリフィスの詩情にあふれた秀作


『散り行く花』の主人公は、仏教を広めるために中国からロンドンに渡った中国人青年チェン・ハン。厳しい現実から逃げるようにスラム街でアヘンを吸う生活をしていた。そんななか、ボクサーの父親から激しい虐待を受けている同じスラムに暮らす少女ルーシーと恋が芽生えるのだが…。鳥飼さんは「少女を演じた女優リリアン・ギッシュが見せるはかない演技をみてほしいです」と熱を込めて語った。

リアルタイムで即興演奏。「お客さんと一緒に上映会を作っていく感覚がある」

見事な演奏で『迷惑帽子』の世界観を展開していった鳥飼さん。演奏するときに気を付けているのは「映画のストーリーをわかりやすくする伴奏」だという。「映画からインスピレーションを得て自分の演奏を披露するのではなく、『機械に油を差す』イメージなんです」。映像という機械にピアノの音色という油を差して、より見やすくするという印象だろうか。

武部さんから「同じ作品でも、演奏は毎回違うんですか?」と質問が飛ぶと「解釈が変わらない限り大きくは変わりませんが、即興で演奏するので毎回少しずつ異なっていきます。また、お客さんからの笑い声などの反応を感じて、次の一手はどうする!?と瞬時に考えて演奏を変えていきます。お客さんと一緒に上映会を作っていく、という感覚は強く持っていますね」と鳥飼さんがサイレント映画に向かう時の心情を語ってくれた。

日本のサイレント映画の歩みは、活動弁士が大スター。観客それぞれに「推し」がいた!

ひと言でサイレント映画といえども、日本と欧米とはあまりにも違いが大きい。今回上映される映画に主演するバスター・キートンは、丹精な顔立ちと決して笑わない演技で喜劇王として絶大な人気を誇った。彼を含む三大喜劇王の興行収入は莫大で、世の中を席捲した。

その影響をディズニー映画は受けていると思う、というのがカズ・オオモリさんだ。「バスター・キートンの『キートンの蒸気船』という映画が公開された半年後に、ミッキーマウスが主役の『蒸気船ウィリー』という作品をディズニーは公開しているんです。ウィリーという名前はキートンの映画の主人公の名前なので、『キートンの蒸気船』がベースになっているのでは、と言われています」

また、「ディズニーのクラシックアニメーションではよく、俳優やアニメーターが実際に演じたものをトレースする『ロトスコープ』という手法を使っています。キャラクターとアクションを大事にするディズニーですから、音楽とキャラクターのリンクもベースにはあると思われます」とカズさんは語る。

武部さんは「日本では活動写真という名前で広まり、それに合わせてストーリーを語る『活動写真弁士』が活躍していたので、それ込みで見られることが多かったのでしょう」と言う。

鳥飼さんは「弁士は最盛期で約8000人いたと言われています。例えば、現在活動されている落語家さんで800人くらいなので、約10倍の人数がいたということです。劇場に専属の弁士がいて、サラリーマンのように出勤、語って帰ることを日々行っていたんですね。トップスターになると、総理大臣よりも給料をもらっていたとか。日本の映画文化は独自の発展をしていたんですね」

「では、弁士によって人気の差があったんですか?」とカズさん。「そうです。弁士によって客入りが変わったり、弁士を想定して映画が作られたりと、影響が大きかったんです。『おもしろくない映画も弁士がおもしろくするから困る』と言われる一方で、弁士ありきの映画制作に否定的な映画監督もいました。監督と弁士とのせめぎあいもいろいろとあったようです」と鳥飼さん。

映画作品ではなく、自分の好きな弁士を観に行くという「推し文化」「ファン活動」も人気の要因だった日本のサイレント映画。日本独自の進化をとげていったが、海外のスタンダードなスタイルは、物語と動きに対する感覚から生まれたものだったのでは?と鳥飼さんは考える。

「最初は映写機の音を消すための演奏だった。でも、欧米にはバレエの文化がありましたから、動きとそれに合う音楽を楽しむ土壌があったと思います。物語と動きにぴったり合う音楽を!ということから表情のある伴奏を添えるスタイルが定着していったんだろうなと」

その海外スタイルのサイレント映画を、ライブで体験できるのが今回のイベントだ。「映画には4つの革命があった。1つは、映像と音声が一緒になったトーキー(オートグラフ)へ移行したこと。2つ目は、モノクロからカラーに。3つ目がスクリーンが横長になったシネマスコープ、そして最後がフィルムからデジタル。これらの進化の原点が、やっぱりサイレント映画なんですね。すべてはそこから始まった。その映画初期のスタイルが体験できるのが、今回のイベントだから、とても意味があると思います」と武部さんも力強く語った。

ディズニー公式アーティストによる、描き下ろしビジュアルポスター初公開!

そしていよいよカズ・オオモリさんがこのイベントのために描き下ろした、世界で一枚しかないポスターを公開。コンセプトは「ピアノから繰り広げられるエンタテインメント」だ。武部さん、鳥飼さんとも大絶賛。

上映2作品からイメージしたデザイン。BLOSSOMの「L」が折れていることも悲恋を表現している


上映作品の長編2本からシンボルをビジュアルに盛り込んだそうで「『キートンの大列車追跡』からは主人公が活躍しながら機関車と共に前へ進んでいくポーズを、『散り行く花』では中国青年と少女ルーシーのはかない恋、そして、中国青年が関わるであろうアヘンの花のシルエットを使っています」と解説。

このビジュアルを作る時も、ディズニーで培ってきた想像力をフルに使ったそうで「実はディズニー社は、映画のポスターを作る段階では、作り手もまったく作品を観ることができないんです。だからデザインをするときに重要なモチーフになるのが、数カ月前に発売されるサウンドトラック。やっぱり音楽なんですよね。ストーリー展開や、シーンを想像し、自分の脳内で自分で映画を1本作り上げ、そこからこんなシーンがあるのでは?とラフを作っていくんです。ただ、アベンジャーズのように主役が数人いる場合、誰がフィーチャーされるかわからないので、ラフを3~5つ提案。そこから探っていきます。ということで、今回も同じ方法で作りました。2本とも現時点で観ていません」とカズさん。

それに驚きを隠せない鳥飼さんは「もう、興奮が止まらないです!」と語る。

今回のイベントには3つの命題がある。

興奮が止まらない理由。それは2作品を選んだ意味が、ポスターに描かれているからだという。

「『キートンの大列車追跡』では、前へ前へと進むキートンのダイナミックな動きが大きな見どころになっていますが、それが見事に描かれています。他にも、たとえばサイレント映画史上、もっともお金がかかったシーンといわれる、蒸気機関車が橋から落下する場面があるんです。実際に走る本物の蒸気機関車を橋から落としている。そんな迫力あるシーンの数々をぜひ劇場でたくさんの人たちと一緒に体験してほしいですね」とキートンを愛する鳥飼さんの言葉に力が入る。

「『散り行く花』は、映画の父と呼ばれ、基本的な手法を発明したと言われるD.W.グリフィス監督のヒューマンドラマです。同じスラム街で生きる中国人と西洋人の恋物語。当時の異人種間の恋愛ってタブーに近いものがあるんですよね。物語の静かさもあいまって、『キートンの大列車追跡』の前に進む印象とは真逆の停滞感がある。その対比が1枚のポスターに描かれていて、すばらしいです」

鳥飼さんがなぜこの2作品を選んだのか。それは「サイレント映画の敷居が高いというイメージを払しょくしたいからです。まずは、サイレント映画の上映会って、とてもにぎやかで楽しいということ、「サイレント映画」だけど「音にあふれた映画」であることを伝えたい。2つめは、有名な喜劇王チャップリンに勝るとも劣らないもう1人の喜劇王バスター・キートンの作品を観てほしい、ということ。だから今回はキートンの主演作を選びました。さらに、コメディ以外のサイレント映画の魅力も発見してもらいたい、これが3つ目です。ちゃんと『散り行く花』のような至高のヒューマンドラマも味わってほしいんです」

会場となるテアトル梅田は、2020年に30周年を迎えた人気の映画館だが、シアター内でのピアノ演奏は初めてとのこと。

鳥飼さんは「『貴重な文化だから守りたい』という思いでなく、楽しいからみんな見に来て!という気持ちです。映画×ピアノのスタイルが、映画が誕生してから30、40年と続けられていた。その興奮をぜひライブで体験してほしいですね」

武部さんは「映画の原点、サイレント映画を見直すイベントになると思います。和気あいあいと楽しんでほしい。東京ではなく、大阪から映画文化をもっと盛り上げていくイベントにもなりますよね」

カズ・オオモリさんは「こんな贅沢な時間はないです。現代はどんどんデジタル化していきますが、人として感受性を取り戻すようなイベントです。これは、非常に重要で大事な時間だと思いますね」とそれぞれの想いを語って1時間の座談会は終了した。

取材・文=田村のりこ

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