唯一無二のアート!ADHDの葉っぱ切り絵アーティストが作る優しい世界
関西ウォーカー
大きなジンベエザメが悠々と泳いでいる様を、人々が感嘆のため息を漏らしながら観ている…小さな1枚の葉の上に彫られた切り絵の世界が、優しく心を癒やしてくれる。この切り絵の制作者は葉っぱ切り絵アーティストとして活動している「リト@葉っぱ切り絵」さん(@lito_leafart)。2021年5月に初の作品集を出版し、数々のメディアに取り上げられるリトさんだが、葉っぱ切り絵という表現にたどり着いたのは自身がADHD(発達障害の一種)であることがきっかけだったという。詳しい経緯や、優しい世界観がどうやって生まれたのかをインタビューした。

自分の特性を生かせる仕事を求めたどり着いた、アートの世界
リトさんが自身のADHDに気付いたのは社会人になってから。サラリーマンとして働いていたが、自分で自分のことが嫌いになるほど仕事ができず、悩む日々が続いていた。病院でADHDと診断を受け、会社を辞めたものの今後どうやって生活をしていくのか…考えた末にたどり着いたのが“アート”だった。
「子供の頃に絵がうまかったとか、何か作っていたということはないんです。たくさんの選択肢の中からアートを選んだのではなく、細かい作業に集中すると周りが見えなくなるくらい没頭してしまう『過集中』やこだわりの強さというADHD特有の特徴がある中で、自分でもできることは何かと消去法で考えていった先にあったのがアートでした」
最初から葉っぱ切り絵を始めたわけではなく、ボールペン画や粘土の絵付け細工などさまざまなものに挑戦し、そのうちの1つとして切り絵をスタートさせた。
「でも切り絵にも行き詰まりを感じていました。切り絵の世界は技術力の高い作家さんが多いので、このままでは埋もれてしまうなと思っていたところに、スペインの方のリーフアートを拝見して。こんなすごいことができるんだ!と衝撃を受けました。それですぐに自分もやってみようと葉っぱを探しに行って、道具も揃えて始めました。なので、最初の葉っぱ切り絵は勢いで作ったんです。失敗せずに一発で作れたのですが、自分の思い描いていたものに対して20%くらいの出来でした。でもせっかく作ったのだからとツイッターにアップしたところ、フォロワーさんたちからは褒めていただけて。だけど、自分の中では20%のものに対してそう言っていただくのは申し訳ないような気持ちになって、それですぐに2作品目を作ろうと取り掛かりました。そちらはある程度自分の思い通りにできたんです。それで葉っぱ切り絵をやってみようと思うようになりました」

手応えは掴んだものの、葉っぱ切り絵はまったくの独学。現在は葉を変色や乾燥の心配のないドライリーフに加工することで保存が効くようになったが、最初の頃は生の葉をそのまま使っていたので、作品は数日で枯れてしまう。第一号の作品も含め、初期の頃の作品はそのまま捨ててしまっていたそう。何より難しかったのは、作品を手で持った時にすべてのパーツが繋がって自立するよう作ることだったという。
「切り絵は平面に置いておく限りは、極端な話、パーツ同士が切り離されてしまっても成立します。ただ、作品を手に持って空を背景に撮影するというのが僕のこだわり。持った時にきちんと1つの絵になって、背景と溶け込むようにするには、切り絵が自立しなければならないんです。どの部分を繋げていけば自立するのか、というのは毎日葉っぱに触っていくことでわかっていきました」
見せるべきは技術ではなく、作品の持つ物語
葉っぱ切り絵を始めた当初は、いかに葉っぱの上で細かく、すごいものが作れるかという技術面にこだわっていた。

「“草原のシマウマ”という作品は、シマウマの縞模様などをいかに細かく表現するかというのにこだわり、僕としては大満足な出来でした。その後、いかに細かい表現を行うか腐心していたのですが、SNSのいいねの数が増えることはなく。それで、技術を見せるだけじゃ駄目なんだ、ということに気付いたんです。そして、あまりにも細かく表現しすぎるとこれが葉っぱであることが伝わらないということもわかりました。これでは紙で作っているのと変わらないなと。また、その当時、僕は作品一つひとつに解説をたくさん書いていました。その文章も2、3時間かけているのに反応が大してよくない。解説が邪魔をしているのかもしれない、それならいっそタイトルだけでいいのかも、と思うようになりました」
そうした考えから、葉っぱに切り絵をしていることが分かるように輪郭を生かしたデザインにし、解説を付けなくても伝わるようにシンプルなものを、と作品の方向性を変えていった。モチーフもわかりやすいように、ウサギやカエルといった人々が馴染みのある動物に。しかし、最初の頃は抵抗もあったのだそう。

「僕が捻くれていたんですが、単純にかわいい動物を出すことに抵抗があったんです。なので、最初にこういった作品を出したときはこんなシンプルな内容でアートと言えるのか?という葛藤がありました。でも、SNSでの反応がすごくよかったんです。フォロワーさんたちからの評価が自信に繋がりましたし、そのキャラクターたちのことを好きになれました」
そうして転機となったのが、作品集の表紙にも選んだ「葉っぱのアクアリム」という作品。この作品が“バズる”ことで、フォロワーの数も増え、各種メディアでも取り上げられるように。葉っぱ切り絵でやっていけるという確信を持てた瞬間だった。
作品を見てくれる人の期待に応えていきたい
現在ほぼ毎日、新作を発表しているリトさん。どのようにモチベーションを保っているのだろうか?
「ストックは作らずに、1枚仕上げては、撮影してアップしてを毎日、自転車操業みたいにやっています(笑)。『明日アップできる作品がある』と思ってしまうとダラダラしてしまいますし、アイデア出しも必死にならない。今日の夜までになんとかやらないと、みんなが待ってくれていると思うとパワーが出ます。フォロワーさんはとても大きな存在ですね」

自分でどうやって生活していくか、という切実な問題からアートの世界に飛び込んだリトさんだからこそ、「見てくださる方がいなければ何の意味もないですから」ときっぱり。今後の活動もフォロワーからのリクエストに応えていきたいという気持ちが強いんだとか。
「葉っぱ切り絵で2つの大きな目標があったんです。1つは個展を開くこと。そしてもう1つは作品集を出版することでした。今年、その目標が両方ともかないました。さて次からはどうしようと考えた時、個展は開催したといってもまだ地元の神奈川ではできていません。フォロワーさんから自分のところにも来てほしいとか、海外の方からも来てほしいとお声がけがあって。コロナ禍もあってすぐには難しいですが、自分の作品をお届けしたいと思っています」
たった1枚の葉っぱが、リトさんの人生を大きく動かし、そして多くの人の心を惹き付ける。日々の新作を楽しみにしながら、自分の街にリトさんの作品がやってくることを期待したい。
取材・文=西連寺くらら
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