子どもの自由な発想を育む!新しい教育で、未来をつくる京都の学習塾が話題
関西ウォーカー
「宇宙人にメッセージを送りたい!」「絶滅危惧種を救いたい!」。そんな子どもたちの自由な発想から生まれた疑問に応え、やりたいことを実現しながら学ぶ、京都の放課後学習塾「studioあお」が注目を集めている。同教室では、自ら問題を見つけ、自ら解決する能力を身に付け学んでいく「PBL(Project Based Learning)」という、アクティブラーニングの一種を採用。これにより、学校のテストとは異なる「自分で考える力」を身につけていくことができるという。
そこで今回は、同教室を手がける株式会社COLEYOの代表・川村哲也さんにインタビュー。いかにして新しい教育方法を取り入れた教室が生まれたのか、実際のプロジェクトや子どもの発想を引き出すコツ、家庭においても大事な子どもとの接し方など教えてもらった。
子どものやりたいことを見出し、一緒に実践しながら学んでいく
――まずは、川村さんがどういった取り組みをされているのかお伺いしたいのですが、「studioあお」以外にもいくつか教室を開かれているんですよね。
「教室のブランドとしては、2016年4月よりスタートした『studioあお』のほかに、2017年から始めた寺社仏閣でのテクノロジー教育『寺子屋LABO』、2019年に立命館大学大阪いばらきキャンパス内に開いた『スタジオアル』の3つあります。また大学や企業と一緒に、教育にまつわるプロジェクトを手がけたりしています」
――「studioあお」は今年で5周年となりますが、どういった経緯で始められたのですか?
「大学卒業後に、1年ほど制作会社でディレクターをしていて。世の中の魅力を引き立てる仕事の手法は気に入っていたのですがなかなか気持ちが入らず…。それがなぜか考えてみると、対象が大人だからなんじゃないかなと気づいたんですね。その時に、今までで最も興味を持って触れてきた対象を思い返すと子どもでした。子どもを対象とした仕事というのは、いわゆる『教育』だったので、仕事をやめて自分で教室を開こうと思ったのがはじまりです」
――昔から子どもが好きだったということでしょうか?
「僕の家は、周りに赤ん坊や自分より年下の子が多い環境だったので、ずっと一緒にいてもストレスがなく好きな存在でした。というのも、父親が精神科医なので患者さんやスタッフさん、知り合いの子どもたちがしばらく一緒に住んでいたりして家が託児所みたいになっていて。なので、自分より小さい子どもたちに囲まれた環境がごく日常的だったんです」
――『教育』という仕事の中でも、一般的な予備校のような塾とは異なる形態をとられたのはどうしてですか?
「やるからには教育という領域で、最も意味があるけど誰もやってないことをやろうと考えました。塾というのはすでにたくさんあるし、何の知識もなく今から始めても勝てないかなと。そんな中、震災の後の混乱した世の中では、『自分の頭で考える力』が無いとまずいという話がたくさん出てきていて。学校で習うような勉強だけでは、問題用紙に答えるだけで考える力は身につかない。それなら勉強を一切教えない、自分のやってみたいことや好きなことが全部できて没頭できる、アトリエのような教室ができたらおもしろいのではないかと、始めたのが放課後教室『studioあお』でした。で、どうやら僕たちのやっていることは『PBL』という手法らしいと後から知って。これというのが、医学業界などでいうと研修医として現場で実践しながら学ぶようなスタイルで、自ら課題を見つけてアウトプットしたり、つくる過程で考える力を身につけ解決方法などを学ぶ方法で、これならとても意味のある学びになるし、やりたいことにぴったりだなと」
――当初はとにかく手探りで。
「今でこそ、こういった教育スタイルは認められてきていますが当時はそうでもなく、マーケット自体がない珍しいものでした。なので、なんとなく形になるまで10年はかかるだろうと思いながら一人で始めて、まだ在学していた学生時代の後輩に手伝ってもらったりしながら、自分たちがひとつの具体例となるようなものを作る期間にしようと手探りで。最初の半年ぐらいなんかは、ひとりの生徒と僕のマンツーマンでやってました」
――生徒とは、まずどのようにして学習を進めていくのですか?
「やりたいことを持っていて『教室に行ったら、これをやる!』という子は少ないんです。なので最初はもうちょっとゆるく、『今日こんなことがあってさ』って子どもたちが話を始めることにヒントがあると思っていて。わざわざ声を出してでも伝えたいことって、少なからずその子の中にモチベーションが発生しているはずなんです。その話を聞きながら、『なんでそう思ったの?』『それはどうなったら最高かな?』『それやってみようよ!』と少しずつそのモチベーションを上げて、プロジェクトにしていきます」
―― 一緒にやりたいことを見つけていくような感じなんですね。
「みんな基本的には、なにかしたいことがあるはずなんです。そもそも人間がそういう生き物だと思っていて、赤ちゃんの時に寝てればいいのに、立ち上がろうとするじゃないですか。生まれた時から、自分がやったことないことや見たことないものに対してのモチベーションにあふれてるいる。だけど成長の過程で、『今は待って』とか『それはダメ』とか負のフィードバックを返されて諦めさせられることが多い。日本の育て方には『こういう風に育って欲しい』という基準があるので、それ以外は否定されてしまいがちになるんです」
――それゆえに、子どももやりたいことにチャレンジしにくいですよね。「また否定されちゃうんじゃないか」と思ってしまう。
「そうなんです。そうした結果、小学校や中学校でやりたいことを聞かれても、答えられない子たちが増えてしまう。やりたいことをやらせてあげず、考えることすらさせてあげないのに『自由な発想を!』と突然言われても無理な話なんですよ。失敗するなとか、模範解答をテストで求めておいてそんなこと言うのはおかしな話じゃないですか。なので、生徒にはまずそのフィルターを外すことから始めます。そうすると、『そういえばこんなことしたかった!』って徐々に見つけていくことが多い」
――ちなみに、最初の生徒はどんなことを「やりたい!」と?
「中学1年生の疑問が止まらない子で、ずっと5時間喋りっぱなしみたいな日が多かったんですね。それがある日、親御さんに『ローマ字を覚えなさいと言われたから、タイピングを覚えたい』と話してくれて。お題にそってタイピングで書く練習をしてもらっていくと、『好きなことを書いていいの?』と。『いいよ』と自由作文をしてもらったら、彼が関心を持っていた織田信長について書き始めたんです。それが、『織田信長がいたから、TOYOTAができたと思う』という文章で」
――あふれ出たテーマが、おもしろいですね。
「織田信長は、『情報と移動を制すれば勝てる』という論者だったので、道の舗装をたくさんしたと。それが道路の基盤となり、乗り物の発想が定着していった結果が、現在のTOYOTAという企業の起源になっているのではないか…と彼は考えたんです。その発想がすごくおもしろくて、ゆるふわ論文だけど僕にとって記念すべき初めてのプロジェクトになりました。彼はもう高校二年生になって、その子から始まった教室も今では小4から中2まで50人の生徒がいます。高校生になっても残ってる子もいたりするんですけどね」
キーワードは「否定しない」。家庭内でも「ダメ」「できない」よりも前向きな投げかけを
――生徒たちと学んでいく中で、特に大事にされていることはなんですか?
「生徒たちには、主に『自分で決めること』『それをすることで、誰が喜ぶかを考えること』、そして特に『変であれ』という3つを伝えています」
――「変であれ」というのは?
「これは会社としてもそうなんですが、ライバルがいるところで勝つのは難しくなる。だから『誰もやっていないことをやりましょう』ということですね。それは、変であることと似ていて、稀少性が高いと価値が上がるため、戦略的に変であろうとよく話しています。つまり、変というのは少数派のことを指していて、迷った時はみんながやらないことをしてみようと」
――なるほど。川村さんが「studioあお」のスタイルを確立された、考え方につながりますね。
「例えば、学校で『パン派かごはん派』に分かれてディスカッションをすることがあって、もしどっちでもよいなと思ったら、少ない方を選びましょうと言っています。その方が発言の機会を与えられるし、なぜ少ない方を選んだのかみんなが興味を持つからチャンスも大きい。プロジェクトでいえば、『宇宙を見たい』という動機があったとして、天体望遠鏡で見るのはみんながやっているからまず選択肢として外していく。方法がなんでもいいのであれば、みんながやってることを選ばず、他のひとがやったことがないことをやる。そうすることで『だれもまだやったことがないことをした』という過程と事実に、あなた自身の価値が上がるからと話しています」
――大人になってもとても役に立つ考え方ですね。
「実際に学校の面接やディスカッションで意見を求められる時、褒められることが多くなったと言われます。子どもの頃からそういった考え方をもって取り組めていたら、大人になってから面接で話すことがないということもきっとなくなるし、すでに話す材料をたくさん手に入れて自分自身の価値をしっかりと持った大人になれるのではないかなと」
――そういった考え方を、家庭で実践するには?
「『否定しない』というのは、ひとつのキーワードになると思います。とはいえ、家庭で子どもの悩みや希望をすべて受け止めるのは不可能だと思うんですね。親御さんたちにも、仕事や家事があるためあまりにも忙しすぎる。なので、そういうのは外注した方がいいと思っています」
――外注というと?
「『肯定』を外注するんです。なんとなく『自分の家で完結させないといけない』という思いが、家庭内のできる範囲で考えたり否定することに繋がってしまうことが多くて。そこは僕たちのように子どもの興味や関心を伸ばしたり向き合うプロがいるので、そういうところに外注してみるのがいいと思います。『ダメ』と否定するんじゃなくて、『お母さんは分からないから、あの先生に聞いてみようか』『お家じゃできないから、あそこでやらせてもらってごらん?』と話すだけでも、ずいぶん違ってくると思います。子どもたちに自由な発想を持たせてあげたり多様性が注目されている時代とはいえ、共働きの家庭も増えているためお家で全部完結するのは物理的に難しいですからね」
「子どもたちが将来、生きやすくなってほしい」今後は学校教育への導入を目指す
――実際に、子どもたちの自由な発想を育むために、どのような取り組みをされているのでしょうか?
「仕組み上で解決できることと、対話レベルで解決できることがあると思っていて。子どもの場合は、おおよそは知識とお金がハードルになっているので、それは投資が出たり各分野の専門家に繋がって教えてもらえる仕組みを作ることで解決しています。なので、分からないからできないこともないし、必要なものがなかったり買えないからできないということもない。その上で、対話レベルでの解決をしていきます。まずは、好きなものの切り抜きを貼った『好きなものコラージュ』を持ってきてもらって、テーマの把握を一緒にする。その上で、日々ストックしている考え方やネタや拡張できるようなツールを使って、『こいうこともできるかもね』とか『こんな方法をあるよ!』という話をして、子どもたちと企画会議をしながら一緒にプロジェクトにしていきます」
――最近では、日本初の小学生主導で行われた、成層圏にバルーンを飛ばし宇宙人に動画を配信する「THE宇宙少年ズ」のプロジェクトが話題になりましたね。「未来のことを考えたら、今のうちから宇宙人と仲良くなった方がいい」ということで、動画を配信する発想は子どもらしくも芯をついていて素晴らしいなと。これはどういった経緯でスタートしたのですか?
「このプロジェクトは、宇宙飛行士になりたいという生徒からスタートしました。世の中の子どもたちは、『○○になりたい!』と言うんですけど、なにかになるのは手段であって目的ではないんですよね。その子に、宇宙飛行士になって何がしたいのか聞くと『誰もやったことないことをやりたい』と言ったんです。それなら、宇宙というテーマは外さずに、小学生がやったことないことはたくさんあるからやってみようと。それで一緒に調べていくと、スペースバルーンというのが出てきて、最年少が中学生だったので『俺たちでもできるんじゃないか!?』と。そこから『費用を計算したり、どうやったらできるか聞いて見ようぜ』って、本人たちが徳島大学の先生にメールして教えていただきながら実現していきました」
――見事にクラウドファンディングで資金も調達し、スペースバルーンも打ち上げが成功。無事プロジェクトを終えてみていかがでしたか?
「子どもたちは『今まで初めてだからって避けてきたことが多いけど、初めてだからってそんなに怖くないな』と言ってましたね。みんな初めてのことをやりたいと言うけれど、やっぱり怖い。宇宙なんて行ったことがないからわかんないし、もっと怖い。そういう意味では、やらない理由っていくらでもあるんだけど、ビビらずやったからこそ成功できたのは子どもたちにとっても僕にとってもいい学びになりました」
――他にも、絶滅危惧種を救いたい生徒のプロジェクトもユニークですね。
「あの子は生き物が好きで、絶滅危惧種をまとめた図鑑やグッズを自作することで、売り上げを環境保護団体に寄付しています。今はどじょうへの興味が伸びていて、教室でどじょうの繁殖をしていたりしていますよ!」
――最後に「studioあお」として、今後の展望はございますか?
「今までは個人として、おもしろいことをできていたらOKでした。けれども今、日本中の子どもたちが同じようにやりたいことができなかったり、考える力を育てる土壌がないといった問題を抱えているので、これからは『日本の子どもはおもしろい!』と世界から評されるところを目指していきたいなと思っています。そのためにも、僕たちが作ってきた『PBL』を世の中に広めていかないといけない。例えるなら、今までは聖書を書いて奇跡を起こしまくるようなコンテンツやプロジェクトをたくさん作ってきた。なので今度は、全国の小中学校の3割に僕たちがつくってきたプロジェクトの導入を目指しています。3割という数字は、日本の中で一般化していく割合とされているので、まずはそこを目標に!」
――今度はより活動を広げていく段階に入ったのですね。
「『studioあお』については、催事場や集う場所としての機能をもっとブラッシュアップして、聖地化していかなければなと思っています。なので今は、これまでやってきたことを実際に学校でできるように働きかけています。また最近では、これまでひとりひとりの生徒と向き合いながらやってきたコンテンツを、たくさんの人が実践できるような教育メディア『タッチ!』というものもリリース予定です」
――どういったメディアなのでしょう?
「文部科学省が『社会に開かれた教育過程』の実現を推進している一方で、実際の学校教職員の皆さんには業務過多で実施が難しい現状。そして『studioあお』のように子どもの関心ごとを探究していく企業の教育コンテンツが増えつつある中で、認知・一般化が進んでいない背景から制作中のメディアです。教職員の方に、探究型の授業コンテンツを提供し学校で取り入れていただき、企業は社会貢献しながら企業の認知を図ることができる仕組みで。これによって、日本全国の子どもたちが『studioあお』のようにアウトプット型の授業に取り組めて、それを通して自分の好きなことを見つけ社会に触れ、日頃の学校教科のおもしろさの発見につなげてもらえたらと思っています」
――教育現場の課題を解決できる上、子どもたちは企業が手がける上質な教育コンテンツが受けられると。
「企業によるコンテンツだけでなく、紙やテープなど身の回りのものを生かして自宅でも取り組めるコンテンツや教材も掲載予定です。例えば、『studioあお』でも取り組んでいるワークショップ『エッグドロップチャレンジ』を取り入れたものなら、紙とテープ、ハサミに生卵があれば実践できますよ。卵を割らないためにどうするか仮説を立て、それを元に設計した機体を高いところから落として検証する。これによって、仮説の立て方や構造のポイント、検証の思考などを学ぶことができるワークショップです。このほかにも、さまざまなコンテンツを掲載予定なのでぜひ楽しみにしていただけたらうれしいです!」
――5周年を節目に、これまでの集大成がどんどん新しい一歩につながっていくのですね!
「『studioあお』は、そうしてどんどん広げていきたいと思っています。個人的には、子どもたちと取り組んできたプロジェクトのように、『誰もやったことがない、新しいことで世の中が満たされてほしい』というマクロ的な願い。そして、『子どもたちひとりひとりが、将来生きやすくなってほしい』という願いを持って、これからも子どもたちと一緒に取り組んでいきたいと思います!」
取材・文=大西健斗
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