【漫画】若年性認知症の父と介護を続けた母の決断に、家族の愛について考えさせられる
関西ウォーカー
結婚式で、病める時も健やかなる時も、変わらず愛することを誰もが誓う。しかし、本当に何があっても愛し続けることができるのだろうか?そんな問いから始まる、吉田いらこさんの漫画がSNSを中心に注目を集めている。タイトルは「若年性認知症の父親と私」。
当時40歳だったお父さんが脳の病気を患い、家族のことを忘れ体が不自由に。その後、63歳で亡くなるまでのお父さんと、23年間にわたって介護を続けたお母さんとの人生を娘目線で描いた漫画だ。娘としての戸惑いや葛藤、家族と向き合い続けた母の決断が包み隠さず描かれた本作に、読者からは多くの共感が寄せられた。「自分ならどうするだろう」と考えずにはいられない、本作について吉田さんに聞いた。


うしろめたいことも、包み隠さずありのままに描いた父との物語
漫画を描き始めたのは2017年。独学で育児にまつわるエッセイを投稿している吉田さん。「4年前に下の子が3歳になり時間にも余裕ができたので、好きで読んでいたコミックエッセイを自分でも描いてみたいなと思い、育児日記をインスタグラムで描き始めました。それからブログを始めたり、ツイッターやnoteでも更新しています。そもそも絵を描くのは小学校の時以来だったで、漫画は独学で描いていて、始めた当時は子供の自由帳を借りて描いた絵をアップしていましたね。子どもも大きくなったので、最近は育児日記だけでなく趣味の美術館巡りなども描いていきたいなと思っています」

育児にまつわるひとコマ日記を中心に描いてきた中で、“子どもを叱った罪悪感”についての漫画が反響を呼ぶ。これを機に、「うしろめたいことも描いていいのかもしれない」と思うようになったそう。その後、2019年に他界したお父さんと家族の人生を、娘目線で振り返る漫画「若年性認知症の父親と私」を10ヶ月にわたって公開する。ありのままに描くことを心がけたという。「いつかは父の話を描いて残したいなと思っていました。どうしても重たい空気になってしまうので今まで人にも話せずにもいましたが、匿名だからこそ思っていることを包み隠さず全部描こうと決めました。当時のことを思い出して、泣きながら描いた日もあります」


「例えば、介護の感動映画やドキュメントのように父のことを真面目に受け入れることを自分はできなくて、自分はダメだと思ってしまったこと。自分が大変な時は『父親がいなくなったらいいのに』とか『早く死んじゃってほしいな』と思ってしまったこと。一方で、離れて暮らすようになると『ずっと生きてほしいな』と思ったり。そういう、完全に自分のエゴも包み隠さず描きました。ほかにも、母親に介護を全部丸投げして、自分の人生を楽しんだところもありのままに。思っていたことをすべて描いてみると、すごくスッキリしましたね」



ありのままに描かれたお父さんとの人生は読者の共感を呼び、ツイッターでは5万5000いいね(2021年7月時点)を集める大きな反響に。
「あまりにも本音を描きすぎたので、批判もあるかと覚悟していたんですけど思ったより少なく、共感のメッセージをたくさんいただきました。子どもの頃に脳の病気になって障害が起きた方など、さまざまな経験をされた方がいらして、『同じ経験をした人にしか分かり合えないよね』と綺麗事ではない、共感をいただけたことに救われました」
お父さんが若年性認知症を患ったのは、吉田さんが高校一年生の時のこと。漫画にも描かれている通り、突然のことで理解が追いつかなかったという。
「手を怪我したら動かなくなるというのはわかるけど、脳を怪我したら体が動かなくなったり、人格まで変わってしまうということに本当に驚きました。10代の頃は、特に父親の後にお風呂に入るのは嫌だとか、“嫌い”を受け入れていく期間があると思うんですけど、受け入れていく時間をすっとばして父は別の人になってしまったというか。いきなり介護だったので、もう自分の中でいっぱいいっぱいになってしまいました。今でこそ受け入れられるかもしれないとは思いますが、若い頃にはしんどくて難しいことだと思います」


吉田さんから見た父親については、「とても変わった父親でしたね。真面目なこととか、みんなに倣って同じことをするのはつまらないと考える人で。関西圏に住んでいたので『もっとおもしろいことを言え!』とか、『真面目に学校なんて行くな』とか。当時の私はなかなかそうはいかなかったけど、そんな父だから私が大人になって何をやっても応援してくれていただろうなとは思っています」と話してくれた。



漫画の最後には、23年間にわたって介護を続け、最後まで寄り添い続けたお母さんの言葉で締めくくられる。
「介護は母に任せっきりだったので、当時の話を聞きながら描きました。ただ漫画にするとは伝えてなくて、描き終えてから初めて読んでもらうことに。読み終えた時に、『思い出して泣いたわ。しんどかったね』と言ってましたね。実は父が病気になった時、母は実家から『離婚して、子供を連れて帰ってこい』と言われていたんです。これはよくある話で、悪いことではないし仕方がないことだと思います。だけど母は、父のことが好きだからそうはしなかった。今考えても、自分が同じことをできるかというのはわかりません。難しいかもしれません。なかなかできないことですし、できなくても仕方がないと思います」


「きっとすごく真面目に介護をされている方の中には、頑張りすぎて、すべて自分で抱え込んでしまうことがあるかもしれません。私は、それはしなくていいと思っています。自分自身のせいかもしれないと責めずに、母と同じように行政や民間サービスをできるだけ使って、自分自身の人生もしっかり楽しんでほしいなと。私と同じように若い人が同じ境遇になったら、特にそうしてほしいですね。この漫画が、そうしたことを考えるきっかけになればと思います」

取材・文=大西健斗
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