『魔女の宅急便』の著者・角野栄子さんがシニアのファッション・リーダーになる理由

「魔女の宅急便」の著者であり、カラフルなファッションとセンスあふれるライフスタイルでも注目される児童文学作家の角野栄子さん。同世代はもちろん、若い世代も「こんな年の取り方をしたい」と憧れる“角野栄子スタイル”の作り方を紹介する。
※本記事は『50代になった娘が選ぶ母の服　魔法のクローゼット』から一部抜粋・編集しました。

娘が母をコーディネート！

娘「今日は何色のお洋服が着たい？」
母「ピンク！　ピンク色のワンピースが着たいわ」
──これ、「魔女の宅急便」作者の角野栄子さんのご自宅でよく見られる日常風景である。

角野さんといえば児童文学作家として著名なことは言うにおよばず、若々しくかわいらしいファッションも人気である。実は、そのコーディネートを一手に引き受けているのは、一人娘のくぼしまりおさんだ。

「80歳を過ぎた頃、母が突然『毎日のお洋服を考えるのが面倒になっちゃった』と言ったんです。好きなお洋服を街に出て探し回ったり、試着を繰り返したりするのは体力的にきつかったんでしょうね。そこで私が母の毎日の服装を考えるようになったんです」

その日が少人数の会食なら顔が華やかに見えるコーデにし、講演会のときには遠くからでも目を惹くように工夫した。近所にお買い物に行くときも、ギリシャで行われた国際アンデルセン賞の授賞式でスピーチしたときも。角野さんが身につけるものはすべてくぼしまさんが決めてきたのだ。

赤やピンク、オレンジ色……角野さんがカラフルを纏う理由

一般的に80代というと黒やグレー、茶色などの地味な色の服を着ているイメージがあるけれど、角野さんは正反対。赤やピンク、オレンジ色を身に纏うことが多い。

「カラフルな洋服を着ているとは顔色がパッと明るくなって若々しく見えるし、何より着ている本人が元気になるんです。楽しい気分になればお出かけしたくなり、お出かけすれば歩く機会も増えて、必然的に健康的になる。元気になれば生きることがもっともっと楽しくなるでしょう。カラフルってね、とてもおトクなんですよ」

なければ、つくる！魔法のワンピース

そして角野さんといえば、やっぱりワンピース！

「さらりと着るだけでおしゃれになるし、らくちんなのがワンピースのいいところ。今では母のワンピースは洋裁が得意な友人に製作をお願いしています。だって、母世代が着心地良く身につけられるものが市販品にはほとんどないんだもの！」

市場を見わたすとシニア向けの製品は渋くて暗い色ばかり。カラフルで可愛い洋服を見つけても若者用であることが多く、身幅や肩幅はもちろん、アームホールも狭すぎる。

「これでは着心地が悪くて動きにくく、疲れの原因に。80代にとって疲れは大敵。体調を崩すきっかけにだってなりかねないから」

くぼしまさんは試行錯誤を繰り返し、角野さんの体に合う理想のカタチを追求。さらに好みの色や柄、肌触りも大事なポイントになるため生地選びも余念がない。

昔から生地選びによく利用しているのが、鎌倉に本店を構える『鎌倉スワニー』。1968年に生地好きのオーナーがオープンした人気のショップだ。ナチュラルファブリックをコンセプトに、リネンやコットン、ニット生地など、世界各地で厳選した生地が数千種類と並ぶ。

「色柄を選ぶことはもちろん、脱ぎ着がしやすい伸縮性や、アイロンを掛けずともシワになりにくい素材であることも重要。夏なら涼しい麻や綿、冬は温かいウール素材を選ぶこともできます。お気に入りの生地を理想のワンピースのカタチに仕立ててもらえばストレスなく気分良く着られるんです。

しかも、同じパターン（型紙）を使っても生地の模様や素材が違うと印象がガラリと変わるからこれもまた面白い」

世界に一つだけのアクセサリー

また、くぼしまさんはご自身で角野さんのアクセサリーづくりにも取り組んでいる。

「フリマアプリのメルカリで花の形をしたフェルトのコースターやアクリル素材のスポンジをたくさん購入するんです。何をするのかって？　組み合わせてブローチにしたり、鞄につけて可愛らしくあしらったり。これが、結構楽しいんです……」

母の洋服選び。それは今、娘の楽しみにもなっている。

（撮影：馬場わかな）