「仁丹」って結局なんなん?自虐ツイートで世間を沸かせる創業130年老舗企業の「中の人」が解説!

東京ウォーカー(全国版)

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「仁丹」をご存じだろうか。読み方は「じんたん」で、銀色の小さな粒に生薬の独特な香り、レトロな瓶に大礼服のおじさんと、一度手に取ってみれば印象に残る商品だ。年配の方にはおなじみの商品だが、10~30代くらいの人にとってはあまりピンとこないかもしれない。

銀色のツブツブでおなじみの仁丹。薬局などで気軽に買うことができる


かくいう筆者も仁丹のことを詳しく知らず、“とりあえず名前だけは知っている”という状態だった。そんななか大阪環状線に乗車していると、玉造駅に大きな仁丹の看板が。大礼服のおじさんがドン!と描かれたおしゃれでかっこいい看板を見ながら「そういえば仁丹ってなんだっけ?」と首を傾げ、インターネットで調べ始めたのが今回のインタビューのきっかけだった。

検索をかけて出てきたのが公式Twitterアカウント。プロフィール欄には「クサイ!まだあったの⁉︎」や「あー、ケーキの上のやつ(違)」と書かれており、極めつけは「まだ売ってるし」という投稿。もう販売されていないと思われがちなこの商品が、実はまだ売っていたことにユーザーが騒然。公式による自虐ツイートが「おもしろい!」と話題になり、3万以上もの“いいね”がついていた。

ユニークなSNSの投稿や企画で、老若男女の心を掴み始めている仁丹。今回は公式Twitterアカウントの“中の人”を直撃し、「仁丹って結局なんなの?」と率直な疑問をぶつけた。

大礼服のおじさんは「大礼服マーク」と呼ぶそう。世界中に薬を運ぶ“薬の外交官”だそうで、フォロワーさんがイケオジ化したイラストがTwitterのアイコンに


仁丹は「タブレット菓子のようなもの」?

仁丹とは、16の生薬を配合した“口中清涼剤”。気分不快や口臭、二日酔い、宿酔、胸つかえ、悪心嘔吐、溜飲、めまい、暑気あたり、乗り物酔いなどの症状に効能があるとされる医薬部外品だ。

この商品が誕生したのは明治38年。衛生状態が現在ほど良くなく、状態の悪い水や食べ物を口にしてしまうことも少なくなかった時代。創業者の森下博氏は自分の身を守る、いわゆるセルフメディケーションとしてさまざまな症状に効く万能薬を作ろうと一念発起し、仁丹を開発した。

明治38年の創業時のパッケージ。さまざまな国の言葉で書かれた表記が見ていて楽しい


「当初は薬として開発されたのですが、どこでも持ち運べることもあって、ポケットに忍ばせる大人のエチケット用品として愛用されるようになりました。今で言うところの、人に会う前に食べるミント味のタブレット菓子のような感覚ですね。喫煙者が多かった時代の新入社員は、必須の持ち物として『メモ帳、ペン、そして仁丹』と教えられていたそうです」

明治38年当時の四角型ケース。1粒出しになっていて、少しずつ取り出して飲むことができる

明治38年当時の丸型ケース。銀1色の丸型でまるで時計のよう


仁丹の大きな特徴はあの銀色。丸薬が銀箔に包まれているのは保存性を高めるためで、発売当初は弁柄(べんがら)だったが、昭和4年に銀箔に変更された。ポケットや鞄に入れて持ち歩きやすく、誕生から116年経った今でもビジネスや旅のお供として、まだまだたくさんの人の懐の中で活躍している。

現在発売中のメタルケースは少量ずつ取り出せるので、「ちょっとだけ飲みたい」というときにも便利


「仁丹を宣伝する気はなかった」?自虐ツイート開始の理由

仁丹は現在も愛用者の多いロングセラー商品だが、世代によっては「仁丹ってなに?」とその存在を知らない人も。今でこそ若者の心を掴むツイートやテレビでの露出で再び認知度が上がりつつあるが、実は中の人がアカウントを作った当初、仁丹を宣伝する気はさらさらなかったという。

「もともとは当社の主力商品である、生きたままのビフィズス菌を腸に届ける『ビフィーナ』をはじめとした商品を宣伝する目的でアカウントを作成しました。ですがふと気になって『仁丹』とTwitterで検索をしてみると、最低でも1日に1人は仁丹について呟いている人がいたんです。それをみて『まだ話題にしてくれてる人がいるんだ…!』とびっくりしてしまって(笑)。そこから『まだ売ってるし』といった自虐風の投稿して、今以上にたくさんの人に知ってもらおうと、このスタイルになりました」

「ビフィーナ」は本気で便通を改善したい人に向けた商品。ビフィズス菌を配合したサプリメント


「多角的に話題を紹介できる有能な商品です!」と中の人は自信満々。親が娘の舌ピアスを見て「なんで舌に仁丹つけてるの?」と質問したり、またある家庭では親がケーキにまぶされたアラザンを見て「なんで仁丹がのってるの?」と娘に聞いて「なにそれ?」と逆質問されたりと、世代間での認知度の差が逆にネタになっていることも、中の人はTwitterで知ったのだとか。「あの仁丹が、家族の話題を作っているんですよ!」と、うれしそうに話してくれた。

中の人はTwitterだけでなく、さまざなま企画を展開している。そのなかでも筆者が「正気じゃない…!」と思ったのが、「仁丹パズル」。

非常に難しいと評判の仁丹パズル。中の人が上司に試させたところ、4ピースで限界を迎えたそう


このパズルはピースに仁丹“のみ”が印刷されており、かの有名な真っ白なパズルと同じくらいの難易度の高さ。104ピースのパズルを作るために、使用期限の切れた約8000粒の仁丹を厚紙に敷き詰めて印刷に及んだ。

およそ8000粒もの仁丹を集めて紙に貼り付けたパズルの原稿。触るたびにポロポロこぼれ落ちて大変だったという


このパズルはコロナ禍で活躍する医療従事者や、日本盲導犬協会のためのチャリティーオークションの景品として出品されたが、あまりにインパクトある見た目のせいでTwitterでは「目がチカチカしそう」「絶望的難易度」などのコメントが寄せられる結果に。

他にも仁丹を飛ばして敵をやっつけるシューティングゲーム「スペース仁丹20XX」など、WEB上で遊ぶことができるコンテンツも展開。コロナ禍のステイホームを応援すべく、さまざまな企画を打ち出しては人々に衝撃と楽しみを提供し続けている。

銀色の「仁丹砲」が敵の「無駄な会議」を打ち落としている。大礼服マークに当てたらゲームオーバーになるそう


『鬼滅の刃』『スカーレット』に登場して話題沸騰!

近年ではTwitterをはじめ、デジタル界隈での広報をがんばっている仁丹。しかし広告に力を入れるのは創業当時から一貫しており、「広告益世」を根幹に企業活動を続けている。「広告による薫化益世を使命とする」という理念で、“広告は商売の柱であると同時に広く社会の役に立つものでなくてはならない”という、創業者の森下博氏が掲げたものだ。

JR大阪環状線・玉造駅に設置されている看板。大礼服マークが描かれており、レトロかわいい。JR森ノ宮駅にも設置されている


「京都の町名看板には大礼服マークが描かれていることが多いのですが、これは地方から出てきた人や郵便配達員に、町名をわかりやすくするために創業者が寄贈したものでした。他にも街に広告塔を立てることで、都市の新しい名所を作り、人を集めてその土地を活性化させるということを行いました。これら全ては『広告益世』の理念によって行われたもので、人の生活や社会を広告によってより良くしていきたいという思いからです。現在の広告や宣伝も、この理念を受け継いで行っています」

京都の街を歩いていると見ることのできる町名看板。今でも大礼服マークが描かれている

1963年(昭和38年)に東京都渋谷区に建てられた東京支社の社屋。「都市の美観とともに、青少年の非行防止に」という願いを込めたものだった


創業者が展開した広告は古い写真や絵葉書に登場し、仁丹の看板は明治から大正時代を彩った風景として話題を呼んでいる。漫画『ゴールデンカムイ』に登場したり、『鬼滅の刃』や連続テレビ小説『スカーレット』などにうつり込んだことも。また、京都の町名看板や街中に残る古い看板をスマホで撮影し、「仁丹の看板みつけた!」とSNSに投稿するユーザーも増えているのだとか。明治時代から行われた仁丹の広告は、今も人々の目を楽しませている。

1900年代に薬局などに出された看板

古今東西の格言から厳選した金言を電柱広告や看板などに入れ、多くの人々の励みや学びになる広告を展開した


創業130周年に向かって、どんな角度からも愛され続ける企業に

SNSでさまざまな情報が拡散され、共有されるのが当たり前の現在。一時は「オワコン」とされていた仁丹が若い世代に認知されるようになってきたのは、明治時代から創業者が行った広告展開の賜物と言えるのではないだろうか。最後に、中の人に今後の展望と意気込みを聞いた。

「創業以来、人々の健康を考えて製品を作ってきました。これからも変わらず、皆さまの健康に役立つ製品を作りたいと思います。そして我々の理念の元である『広告益世』をこれからも守り続け、Twitterや楽しい企画などで発信する情報が少しでも皆さまの生活にプラスになるよう尽力します。これからも応援よろしくお願いします!」

2023年に130周年を迎える森下仁丹。製品そのものはもちろん、令和の時代でもいろんな角度から愛され続けている。一度飲んでみて、「仁丹とはなんたるか」を感じよう。

「これからも仁丹をよろしくね」と中の人


取材・文=越前与

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