底辺労働者たちの行方は――エンターテインメント性で魅せる「新約カニコウセン」

東京ウォーカー(全国版)

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巨大化した水棲生物が “空流”を泳ぐ世界で、底辺労働者たちの命が使い捨てられる“蟹工船”へ借金のカタに売られ、運命に翻弄されながらも生きて船を降りることを決意した主人公・流伽の戦いを描く「新約カニコウセン」(ヤングアニマル/白泉社※最新1巻発売中)。

ヤングアニマルで連載中の「新約カニコウセン」は小林多喜二の「蟹工船」をSFアレンジ!


プロレタリア文学の代表作といわれる小林多喜二の小説「蟹工船」を大胆リメイクした本作を手がける、原作者・原田重光さんと作画・真じろうさんにインタビューを実施した。作品誕生の裏側やキャラクターについて伺った前回に続き、今回は本作にかけるお二人の思いや今後の展開について語ってもらった。


「新約カニコウセン」はエンターテインメント性を重視した作品に

――媒体のカラーやターゲット層など、「新約カニコウセン」の原作を担当するうえで意識していることについて、また原田さんご自身の中での決め事などがあれば教えてください。

【原田重光】「蟹工船」を元から大幅にアレンジしたのは、やはり雑誌カラーや時代性を考慮してのことです。また、作品を作るうえで、わかりやすさと読みやすさを意識しています。それは、原作という立場上からこれができていないと、漫画家さんというフィルターを通したときに、おもしろいと思っていた部分が読者にダイレクトに伝わらない可能性があるからです。

それと、少しでいいので毎回新しいことに取り組むことですかね。周りから見たら今と1年前ではほとんど違いがわからないけれど、マイナーチェンジの積み重ねで10年後には新しい道が開拓できている、そういった時に当たりが出ることが多い気がします。

――作画を担当されている真じろうさんが、この作品に関わることができて良かったと思うことについても伺いたいです。

【真じろう】昨今の労働環境には思うところありまして、そういう意味でも「蟹工船」を原作とする作品に関われたことは良かったと思っています。

現代の日本社会は、労組の活動が昔に比べて縮小しただけでなく、“労働運動”と言うだけで労働者自身から白い目が向けられることさえあります。面倒に巻き込まれたくないという理由によるものではなく、運動を悪として見るような価値観によるものです。既存の組織に大小の問題はあれど、労働運動そのものが忌避される風潮が蔓延した資本主義社会が健全であるとは、とても言えないと私は考えます。

借金を返すべく、蟹漁に従事する主人公の流伽だったが…


――現代の問題にも通じるところがある作品ですが、原田さんは本作でどんなことを一番表現したいと考えていらっしゃいますか?

【原田重光】誤解を恐れずにいうなら、本作でやりたいことはエンターテインメントです。「蟹工船」というと、その時代背景や小林多喜二の壮絶な死から政治的メッセージの強さが注目されますが、私自身は何より「おもしろい」作品でもあると思っています。

担当に初めて「蟹工船」を読んだ感想を聞いたところ、最後スカッとしたとのことでした。“蟹工船”という特殊な舞台設定で、暴君に虐げられた仲間たちが自由を勝ち取るために反逆を起こす…。これは、まさにエンターテインメントだなと。蟹工船の設定ひとつとっても、工場船であるがため航海法も工場法の適用も受けない無法地帯だったというような説明があって、「へぇ~」なんて思っていたら、多喜二の創作だったという説もあるらしくて(笑)。こんなディストピアな舞台を作り上げてしまうなんてと感心してしまいました。

それだけでなく、短編にもかかわらずおもしろい要素がたくさん詰め込まれているんです。「蟹工船」は名作だけあって何度もコミカライズや映像化もされていますし、それらの作品と差別化を図る意味でも、本作ではエンターテインメント性を重視して描いてみたいと思っています。

20代の担当が不思議がっていた、ある反響とは?

――読者からの反応で印象的だったことや、予想外の反響だと感じたことがあれば教えてください。

【原田重光】連載が始まった時、「蟹光線(イブセマスジー)」というツイートがいくつか見受けられたらしく、20代の担当が何のことかと不思議がっていました。「蟹工船」は「井伏鱒二じゃないよ、小林多喜二だよ」と心の中で突っ込みつつ、懐かしんでしまいました(笑)。自分も「イブセマスジー」(「アルセイルの氷砦」というゲームから派生した言葉)で「蟹工船」を初めて知ったクチでしたので。

――SNSでの反応はご覧になるんですか?

【原田重光】エゴサに関してはしてません。担当から聞き伝わったりはしますが、いい意見、批判的な意見両方あって当然と思うので、あまり気にしすぎないようにしています。作品の受け取り方は読者次第ですし、自分も答え合わせがしたくて漫画を作ってるわけではないので。もちろん、おもしろいと言っていただけるのは素直にうれしいです。

【真じろう】自分の漫画をより良いものにしたいという思いがあって、ボジティブな反応だけでなくネガティブな声にも耳を傾けようと、以前はマメにエゴサしていました。しかし最近は歳をとった影響もあるのか、自分が満足できる仕事をすることに集中するべきだと思うようになりまして、エゴサは滅多にしなくなりました。

劣悪な環境の中で蟹漁と蟹缶作りをさせられる底辺労働者たちの姿を描く


今後の見どころは海産物とのバトルと労働者たちの団結!

――「蟹工船」は結末を知っている人も多い作品かと思いますが、「新約カニコウセン」としての結末は、はっきり決めていらっしゃるんでしょうか?

【原田重光】あくまで今の段階ではぼんやりとしたものです。もちろん「蟹工船」のクライマックスにあたる部分は想定していますが、ラストに至るまでの過程は描きながら固めていくことが多いので、本作もそうなると思います。理由としては、打ち切りにならないためにも、まずは目の前の1話をおもしろくしなくてはならないので、あまり先の構想を立てる余裕がないからですね。

――では最後に、今後の展開として特に読者に期待してほしいところなど見どころを教えてください。

【原田重光】「蟹工船」をベースにしつつも、2巻以降は世界観が明らかになり、多岐にわたってあらゆる要素が広がりを見せていきます。もちろん蟹だけに限らず、真じろうさんが描くあんな生き物やあんな魚とのバトルも必見です。

【真じろう】これから先、さらに驚きの展開と蟹を超える恐るべき生物が工員たちを待ち構えています。巨大な資本と海産物に立ち向かうには、仲間たちと力を合わせて団結するしかありません。巨大な蟹やウニなどと戦って日銭を稼ぎ、今を生きるので精一杯、周りに目を向ける余裕すらないバラバラの労働者たちの姿は21世紀の現代においても珍しくないでしょう。彼らが如何にして団結に至るのか、日々の労働で心身をすり減らしている方々に、ぜひ見届けていただけたらと思います。

【原田重光】「新約」としての作品を最後までお届けできるよう頑張っていきますので、応援のほどよろしくお願いします。

――アクション要素もパワーアップしていくのですね!楽しみです。この度は、貴重なお話をありがとうございました。

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