スキンシップ、する側とされる側の「好意」って同じもの?受け止め方のズレを捉えた短編漫画に注目集まる
「あんなにスキンシップしてきたんだ」。卒業間際、自信を持って同級生の女子に告白するも、「女子しか恋愛対象にならないから」と告げられた少年。「性別なんて関係ないと思う!」と堂々と前を向いて伝えた少年だったが、同様にスキンシップする仲だった親友の男子に想いを伝えられた時、うつむき、目を逸らし答えることしかできなかった――。

2022年5月12日、「ジャンプ+」に掲載され反響を呼んだ短編「たまったもんじゃない」は、商業誌でも作品を発表している漫画家の奥灘幾多(
@hitotoseshiki
)さんの新作だ。
本作は、同日に発売された奥灘さんの短編集『スライトセルフエスティーム』の一篇。スキンシップと好意のすれ違いを描いた本作のほか、自分に自信を持てないチームメイトに出会う「(たぶんきっとおそらく)(でも責任は取れないから)」、恵まれているがゆえに言い訳ができないことに苦しむ「贅沢ないいわけ」など、相浦結月という一人の少女の中学時代から大学入学までの足跡を追う形で構成された連作短編となっている。
それぞれ独立した短編としても読めながら、10代の少女を軸に、しばしば蓋をされてしまうような生々しいエゴや、ふとした瞬間に訪れる心境の変化を追いかけた繊細な描写に引き込まれる同短編集。装丁などを含め自ら同書を制作した奥灘さんに、作品作りの舞台裏や今後の目標を訊いた。
解釈が分かれる結末、作品を通しての「自分事としての問いかけ」

――先日公開された漫画「たまったもんじゃない」は、スキンシップを軸に、受け止め方のズレや断絶が描かれています。本作を描かれたきっかけを教えてください。
「多様性を求められる現代社会の中で、きっと各々が自分なりの考え方や物の見方の癖を持っていると思います。私も偏った思考に陥ることが多いですし、それは決して咎められるべきことではなくて、人間として当たり前のことではないかと思います。
そうした前提の上で、社会の中で議論される物事について、自分を含め『本当に自分事として考えられているか』を問いたかったのが描き始めたきっかけです」
――この作品は、「ジャンプの漫画学校」の卒業制作でもあるそうですね。
「大学生の頃に友人と四人でシェアハウスをしていたのですが、大学4年生の頃に同居人の一人がジャンプの漫画学校に参加したのをきっかけに興味を持ち応募しました。別の同居人も今回の漫画学校に参加したので、一緒に暮らしていた三人が漫画学校に参加したという不思議な環境にいました。
漫画学校参加前に、『ジャンプ+』のネームや原稿を募集する企画で現担当編集の方とご縁ができたので、そのときに『たまったもんじゃない』のネームを描きました」
――「ジャンプの漫画学校」での経験やアドバイスが反映された部分はありましたか?
「物語を作るためのフローや考え方は今作であまり反映できませんでしたが、必ず今後役立つためになる講義ばかりでした。漫画を描く新人にはぜひおすすめしたい講座です」

――「スキンシップ苦手やんな?」という問いに「いやそんなことないよ」と答える結末には、「モヤモヤする」「前向きでよかった」など、読者の受け止め方に大きな振れ幅があるのが印象的でした。
「この結末は、いろいろな解像度の反応がほしくて描きました。これを同性愛で描く必要はないという人は、きっと平等に見られていてこの物語が必要ない人か、ひょっとすると性を平等に見られている気になっているだけなのかもしれない…、など、どんな視点からその人自身がどのように考えているかで反応は変わってくると思っています。さまざまなフィルターを通した反応が見られて非常に興味深かったです」