「ダメかも」という恐怖を振り払う、“ゲン担ぎ”の力とは?少年と野球選手の交流描いた漫画に涙

「努力は必ず報われる」。一度はその言葉を掲げたけれど、挫折が重なり学校に通えなくなった男の子、理雄。ある日彼が出会ったのは、大怪我をしたプロ野球選手、松嶋だった。「またダメかもしれないのに」と、自分の望みに手を伸ばすことを拒む理雄に、松嶋は前に進むために「ゲン担ぎ」をするのだと語る――。

前に進めなくなった少年と、故障したプロ野球選手の「ゲン担ぎ」がもたらす結末に感動…。漫画「ラッキーボーイ」画像提供:中村 環(@nakamura_tamaki)

漫画家として連載を目指しながら、多くのオリジナル作品をネット上に発表している中村環( @nakamura_tamaki )さん。5月、自身のTwitter上で公開した『ラッキーボーイ』は、思うようにいかないことが重なり、自分の気持ち通りに動けなくなってしまった少年と、大きな怪我を負いながらも「なんとかなる」と一見ポジティブ思考のプロ野球選手が出会い、お互いに影響を及ぼし合う物語だ。

何かをはじめる前に感じてしまう、「ダメかもしれない」という恐れ。誰しもが感じたことがあるであろう感情を真摯に見据えたストーリーと、「ゲン担ぎ」がもたらす感動的なクライマックスが大きな反響を呼び、Twitter上では1万4000件以上のいいねとともに「何度も読みたくなる」「感動しました」「未来を信じようと思える漫画」と共感のコメントが集まった。

本作は、心身ともに調子を崩し会社を退職した作者の中村さんが、療養中に自分の心に向き合った際の気付きから描かれたという。ウォーカープラスでは反響を受け、作者の中村環さんに、本作制作の舞台裏をインタビューした。

【漫画】「ラッキーボーイ」を読む画像提供:中村 環(@nakamura_tamaki)


壁にぶつかった子供と大人。「両者がお互いに影響を及ぼす」物語

――自身の挫折感と、療養中の気付きが本作を制作されたきっかけとうかがいました。中村さんが本作にこめたのはどんな思いだったのでしょうか?

「私は昔から、『やればできる』『なせば成る』『努力は報われる』という言葉がうさんくさく感じられて、そうやって励まされて努力することもずっと苦手でした。でも『やらなきゃ始まらない』という意味においては、それらの言葉は真理だとも思っています。それらの言葉を信じて行動できる人の心の中では何が起こっているのか、自分を含め信じられない人が行動できるようになるためにはどう解釈したらいいかという興味を持ったんです。

また、努力への苦手意識には過度の不安感が原因としてあるのではという気付きも自分の中にあり、それを掛け合わせて漫画にしたら同じ悩みを持つ人の助けになるのではないかと思い、本作を制作しました」

――「学校に通えなくなってしまった男の子」理雄と、「故障し戦力外もちらつくプロ野球選手」松嶋、それぞれのキャラクターを描く上で意識した点を教えてください。

「理雄の感情のジェットコースターに読者の方も同乗してもらいたかったので、ひとつひとつの出来事に理雄がどう反応するかは丁寧に描いて理雄の気持ちを理解してもらおうと思ってページを割きました。

一方、松嶋は1軍のエースのような完璧な存在にしてしまうと、別の世界の人間のように感じられ、松嶋と理雄、ひいては読者との心の距離ができてしまって、何を言っても響かなくなってしまうのではという恐れがあったので、人並みに不安感も持つし、怪我もするし、成績もすごくよくはない、という人間にしました。

また、同じ絶望的な状況下にあるのに、理雄が未来を信じられないのに対し、松嶋は未来を信じられるという対比を作ることで、理雄が持たず、松嶋が持っている信念があらわになるようにしたつもりです」

「ラッキーボーイ」33画像提供:中村 環(@nakamura_tamaki)


――理雄と松嶋の関係は、「子供」を「大人」が教え諭すという形ではなかったように思います。2人をフラットに描くという意識があったのでしょうか?

「片方が一方的に教え諭す物語ではなく、『両者がお互いに影響を及ぼす』物語にしようというのは制作を始めた当初からありました。私自身が、一方的に教え諭されると反感を持ってしまう理雄のような性格だというのが一番の理由です。

ストーリーを考えている最中も、理雄は人を信じることにも不安感があるため、全然松嶋の言うことに納得しなくて困りました。でもたぶん、自分が影響を与える存在になり得るということを実感してもらうことで、気持ちを上向かせることができ、理雄にも行動を起こしてもらえるのではないかと考えました」

――ご自身の感覚も反映されていたのですね。

「漫画の学校で知り合った漫画仲間たちと交流する中で私が感じていることがあるのですが、友達が漫画賞を獲ったり、デビューしたり、新しい漫画を描いたりするのを見ていると、私もすごく元気がもらえるんです。励まし合う仲間がいるからこそ、漫画家になるという難しい夢を追うことができているという実感があって、『影響を及ぼしあう』ということの尊さを描きたかったというのもあります」

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